血のない家族

夜桜紅葉

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第三章 一月、最初の一週間

学級委員

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 始業式が終わり教室に戻ると、ついに僕たちへの質問タイムになった。
担任の先生が挙手を求める。

「じゃあ二人に質問がある人」
「はーい」
「狐酔酒」

担任が挙手した生徒の名前を呼ぶ。

狐酔酒か。
もうなんか驚かなくなってきた。

狐酔酒は興味津々といった感じで訊いてきた。

「どっから転校してきたの?」

きたか。
こういう質問をされたらなんとなく誤魔化すしかない。
僕は用意していた通りに回答した。

「西の方です」

狐酔酒はきょとんと首を傾げた。
「西? ハハハ。ざっくりしてんなー。二人とも同じとこから来たの?」
「そうでゴザル」

「あーそれ。めっちゃ気になるんだけど、なんでゴザル口調なの?」

けいが答えようとしたところで、担任が注意した。
「狐酔酒、一旦座れ。一人でずっと質問するな」
「はーい」

狐酔酒はつまらなそうな顔をして座った。
なんかチャラそうな印象を受ける。
この子は感情がそのまま顔に出るタイプなんだろう。

担任が再び挙手を求める。
「他に質問ある人」
「はい」
「冬狼崎」

マジでこの学校ってこんな苗字の奴ばっかりなのか?
なんの変哲もない、ただの佐々木であることが申し訳なくなってきた。

さっきの狐酔酒と対照的に、冬狼崎は表情が硬い。
なんとなく真面目そうな印象を受ける。
どんなことを訊かれるのだろうか。

「困ったことがあったら言ってください。俺と狐酔酒は学級委員なので」

「ん? あぁはい。分かりました?」
これは質問なのか?

「冬狼崎、それは質問ではないぞー。まぁでも確かに二人は学級委員だから、なんかあったら二人に相談するといい」
「承知でゴザル」

冬狼崎は少し先生に似ているかも知れない。
先生も真面目な顔して、少しずれたようなことを言うのだ。

でも、普通にありがたい申し出だ。
僕たちは学校初心者だから、頼れる人間がいると心強い。
二人には世話になるかもしれない。

「学級委員ばっかりじゃないか。他にはいないのか? そうだなー。それじゃ先生が適当に質問しよう。前の学校で部活とかやってたか?」

「帰宅部でした」
「右に同じでゴザル」
これも用意していた答えだ。

「そうか。この学校は部活いっぱいあるから、面白そうなやつを見つけたら是非見学に行ってみてくれ。新しく部活を立ち上げることもできるからな。あとは、んー。若い奴って何に興味あるんだ? えーそれじゃアニメとか漫画とかみるか?」

予想していなかった質問が来た時にはアドリブで適当なことを答える。
「家にテレビがなかったもので、アニメはちょっとよく分からないです。漫画もあまり読んだことはないですけど、小説なら家族から借りて読むことは多かったです」
「右に同じでゴザル」

「へぇー。このクラスにも本好きな奴はいるから仲良くしてやってくれ。あとは、そうだな。趣味とかあるか?」

「走ることと料理です」
「最近はほふく前進にハマってるでゴザル」

「へぇー。ん? ほふく前進?」
「ほふく前進でゴザル」

「……校内ではやるなよ?」
「もちろんでゴザル」

担任は一度軽く頷いてから進めた。
「よし。そんじゃこのくらいにしとくか。この後も宿題集めたり、まぁ色々あるからな。みんな仲良くしてやってくれ」
こうして質問タイムが終わり、一旦休み時間となった。

すると、すぐに机をクラスメイトたちに取り囲まれて質問攻めにあった。
けいも取り囲まれてる。
なんでさっき訊いてこなかったんだろう。



 休み時間の度に質問され、気づけば放課後になっていた。

今日は始業式だから、いつもよりも早く学校が終わるらしい。

放課後になると同時に、また僕たちの周りにクラスメイトが集まってきたが、
「佐々木、小野寺、一緒に帰ろうぜー」
と狐酔酒が言ってきて、結局学級委員のさっきの二人と一緒に帰ることになった。

「オレ狐酔酒こよいざけ飛鳥あすか! よろしくな!」

「俺は冬狼崎とうろうざき幽玄ゆうげんだ。よろしく。飛鳥とは幼稚園からの仲でな。幼馴染みたいなものだ」

「よろしく」
「よろしくでゴザル」

狐酔酒が冬狼崎の脇腹の辺りを肘でつついた。
「みたいなものってなんだよー。ばっちり幼馴染だろ~。なぁーげんげん?」

「いい加減げんげんと呼ぶのはやめてくれ。子供っぽい」
「いいかげんげん?」
「……もういい」

「ハハ、拗ねんなってー。んで、二人も俺たちみたいに仲良し! って感じ?」
狐酔酒が楽しそうに訊いてきた。

「そうだね。関係性は二人と結構似てるかも」
「確かにそうでゴザルな。俺たちもそんな感じでゴザル」

狐酔酒がけいに訊いた。
「えーっと、マジでそのゴザルはなんなの?」
「シークレットでゴザル」

「ハハ、なんだそれ。ウケる。ってかゴザル口調なら一人称拙者とかの方がよくね?」

「あ! それいいでゴザルな! んじゃ拙者にするでゴザル」

「こだわりがあるとかってわけじゃないんだな。そういやテレビが無かったとか言ってたけど、スマホは持ってるのか?」
狐酔酒は自分のスマホを取り出しながら言った。

「うん。保護者に買い与えられた」
「んじゃ連絡先教えてくれよ」
「承知でゴザル」

僕たちがスマホを取り出したタイミングで

カキーン!

と音が聞こえてきた。
野球部が練習しているようだ。

「始業式からやっているのか。熱心だな」
冬狼崎が感心した様子でグラウンドを見た。

僕もグラウンドの方を振り返ろうと首を動かしたとき、下校している隣の席の天艶を発見した。
少し俯き加減に歩いている。

その時もう一度

カキーン!

と音がした。

ちらっとグラウンドの方を見ると、ボールを打ったと思われる野球部員が慌てていて、そしてこちらに向かって叫んだ。

「危なーい!」

少し見上げるとボールを発見できて、それが天艶に向かっているのが分かった。
天艶は気がついていないようだ。

やばい。
この距離じゃ間に合わない。

僕が駆けだそうとした瞬間、けいが手に持っているスマホを投げた。

このタイミングで、天艶はやっと自分にボールが飛んできているのに気がついたようだ。

「わっ!」

天艶は咄嗟に手で頭を守った。

ボールは天艶に当たる直前、けいが投げたスマホに弾かれて天艶のすぐ横の地面に落ちた。

「大丈夫か!」
四人で天艶に駆け寄る。

天艶は困惑した様子で
「え、と大丈夫です」
と、ぎこちなく答えた。

「あーあ。これもうダメだろうな」
狐酔酒がけいのスマホを拾い上げて苦笑した。

「す、すみません! 弁償します!」
天艶が顔を真っ青にして、けいに謝る。

「え? 別に要らんでゴザルよ」
「そんなわけには……」

ふと、狐酔酒が耳打ちしてきた。

「天艶の家、ちょっと貧乏なんだよ。だから、なんというかその……勘弁してやって欲しい」

「そうなんだ。えーっと、今それはけいに言うべきでは?」
「あ、確かに」

そう言って狐酔酒はけいにも耳打ちした。
この子結構アホなのかもしれない。

けいは狐酔酒に耳打ちされた後、一度頷いた。

「やっぱり要らないでゴザル」
「でも」

「拙者が勝手に投げて壊したのでゴザル。弁償される筋合いはないでゴザルよ」
「……」
天艶は納得がいっていないようだ。

「どうしても気が済まないのなら、いつか返すでゴザルよ。気長に待ってるでゴザル」

「……分かりました。なるべく早くお金を用意します」
「別に急がんでいいでゴザルが、まぁ気が済むようにすればいいでゴザル。えーっと名前は」

天艶あまつやほたるといいます。下はひらがなでほたるです」

「拙者は小野寺けいでゴザル。スマホのことはマジで気にしないでいいでゴザルが」
「そんなわけにはいきません」
天艶は力強く首を横に振った。

「それなら好きにするでゴザル。さてと、そんじゃ帰るでゴザルか」

何故か天艶もついてきて、五人で帰ることになった。
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