血のない家族

夜桜紅葉

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第二章 準備

小話2

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 僕たちは十二月にある編入試験を受けることになった。

国語、数学、英語の三教科の学力試験と面接があるようだ。
ネットで調べた感じでは難しくはないらしい。

もっと独特な試験があるのかと思っていたが意外と普通なようだ。

編入試験までの間は普段通りに過ごしながら少しずつ準備を進めることにした。


 僕とけいが昼食をとっていた時のことだ。

「あれ? 何で左手で食べてるの?」
右利きのけいが左手で箸を持っていた。

「設定で左利きって書いてしまったのでゴザル。それで今左利きになろうとしてるのでゴザルよ」
「そこまで設定に忠実にならんでも……」

「せっかくでゴザルからな。いや~深夜テンションで調子に乗って色々書きまっくたせいで大変でゴザルよ」

「まぁ頑張れ。それにしても器用なもんだね。結構上手いじゃん」

「最初は力加減が上手くいかずに箸が折れてしまったことも何度かあったでゴザルが、最近は豆を掴むことも余裕でゴザル。あとは頭悪い感じの話し方を完璧にすることでゴザルな」
「それ改めて考えるとわけわからん事言ってるな」

「正直疲れるし、この設定どうしようかと考えてるでゴザル」

「宇宙人の悩みだな」
「地球人はよく分からんでゴザル」
けいは欧米風に肩をすくめてみせた。

「そういえばさっき台所になんか置いてあったけど、あれもけいの役作りの一環?」

「違うでゴザル。それは多分天姉でゴザルな。お菓子作りをしたいとか言ってたでゴザル」
「なるほど」

そこに天姉がやってきた。

「あ、恭介いた」
「噂をすればだね。どうしたの?」
「私にお菓子作りを教えてくれ!」
レッサーパンダの威嚇をしながらそんなことを言ってきた。

「そのポーズ気に入ったんだ。じゃなくて、お菓子作りか。何が作りたいの?」
「マカロン!」

「マカロンかー。結構難しいと思うけど。何でマカロン?」

「乙女と言えばマカロンでしょ!」
「確かに? 見た目もなんか可愛いでゴザルしな」

「まぁ教えるのは構わんけど、片付けもちゃんとしてよ?」
「あったりめーよ!」
天姉は掲げていた両手をパーにした。

よく分からないが、やる気があることを表しているのだろうか。

この日から天姉はマカロン作りに挑戦し始めた。
これも学校に向けてのことなのだろうか。

そこは分からないが、天姉は結構真剣に取り組んでいた。

僕は毒見役を命じられたが、徐々に美味しくなっていく過程を味わうことができて楽しかった。

天姉の目標は僕が作るのより美味しいマカロンを作ることらしかったが、天姉に教えるにあたり、マカロン作りを研究し、上達していく僕に天姉の成長が追いつくことはなかった。


 先生の訓練では色んなことをする。
基本的には実戦形式の殴り合いが多いが、今日は弓道みたいなことをするようだ。

この訓練はたまに行われる。
僕とけいと先生の三人で弓具を持って山に入った。


 先生は大体三十メートルくらい離れたところから
「俺に当ててみろ」
と言ってきた。

今回、的は先生のようだ。
どうせ避けられるだろうし、奇跡でも起こらない限り先生に当てることなどできないと思うが、言われた通りに先生を狙って矢を放った。

そのままいけば先生のみぞおち辺りに刺さるはずだった矢は、先生に掴まれたことでその動きを止めた。

「見たか? あの人、矢を掴んだぞ」
「流石でゴザルなー」
僕は先生に対してちょっと引いた。

先生は掴んだ矢を自分の弓につがえると、僕たち目掛けて放った。

放たれた矢は僕たちの隣にあった木に突き刺さった。
先生はいつも淡々と指導する。

「恭介、力が入りすぎだ」
「はい」

僕は木に刺さった矢を引っこ抜くと、けいの行射を見守った。

けいの放った矢は先生の右腕辺りを目掛けて飛んでいった。

しかし、例によって右腕に届く前に先生の左手が矢を掴む。

「けいは軸がブレている」
「はいでゴザル」

さっきと同じように先生は僕たちの近くの木に矢を放ち返した。

次に僕が弓を引くときにけいが
「よっぴいて~」
と言い出した。

そして僕が射る瞬間に
「ひょうどはなつッッ!」
と叫んだ。

僕は噴き出してコントロールが狂った。
大きく右に逸れた矢を先生が身を乗り出すようにして掴む。

僕はけいに詰め寄った。
「おい! 笑わせてくるな!」
「ごめんでゴザル~」
へらへら謝るけいにチョップした。

その後も先生に矢を放ち続けたが、先生は難なく全ての矢を掴んだ。
この人ほんとなんなんだろう。
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