血のない家族

夜桜紅葉

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第一章 七人家族

真相

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 俺は父と会うために実家へと向かった。

根拠はないが、ずっと先延ばしにしてきた問題を、父と話すことで解決させることができる予感がしていた。


 久しぶりに見る実家の姿は特に変わっていなかった。

変わっていないのは見掛けだけではなく、家の者の様子も昔と何一つ変わっていない。

諸行無常という言葉に歯向かっているようにさえ感じられる。

俺が来訪を告げても慌てた様子はなく、普通に出迎えられた。

何も無さすぎて逆に怖いくらいだ。
父にもあっさり会うことができた。

「久しぶりだね桜澄」
父はそう言って俺に向かって微笑みかけた。
数年ぶりに父の顔を見て、俺は少し驚いた。

父は会っていなかった年月の分、しっかりと歳を重ねていた。

この家の様子が昔とまったく変わっていなかったから余計に父の変化が目立つように思えた。
体が弱っていると言われても不思議ではない。

父の部屋には使用人が一人いて俺は警戒していたが、父はすぐに出ていかせ、二人だけで話す状況になった。

父はゆっくりと穏やかな口調で言った。
「風河君に聞いたかな? 我々のことを」

俺は頷いて肯定した。
「ああ。小野寺家は、暗殺を生業としている」

「そうだね。……ん? どうかしたかい?」
父は首を傾げながら訊いてきた。

多分俺が困ったような顔をしながら父の顔を見ているからだろう。

「いや、あまりに穏やかだから、俺の中のあんたのイメージと異なっていて混乱している」

「そうか。しかし、桜澄が今日ここに現れたのは、私が昔と変わっていないか顔を見に来てくれたというわけではないのだろう?」
「……ああ。話を聞きに来た」

「じゃあ、話そうか」
父は少し口角を上げてニヤリと笑うと、軽く見上げるようにして話し始めた。


「あれは七年くらい前のことだったね。私の元に同時期に三つの依頼が届いた。暗殺の依頼だ。暗殺対象はどうも借りるべきではないところから金を借りてしまったようでね。依頼主は金を返さない暗殺対象を殺してしまって、臓器を売り払うことで金を回収することになったらしい。……私はね、幼い頃からわけもわからず人を殺す術を私の父から叩き込まれ、二十歳になって小野寺の秘密を知り、それからずっと人を殺して生きてきた。だが、ずっと悩んでいた。桜澄にもこんな苦しみを味あわせて良いものなのかとね」

「それで俺を甘やかしたり、俺の家出に対して寛容だったりしたのか」

「ああ。結局私はこの三つの依頼を最後にして暗殺家業はお仕舞いにしようと思ったんだ。そして暗殺対象について調べるうちにその家庭の実態を知ることになった。私は最後の仕事で巡り会ったのも何かの縁だと思い、子供たちを救おうと思った」

「ちょっと待て。救おうとした結果が養子にするということだったのか?」

「いいや? 私は最初からあの子たちを桜澄に預けるつもりだったよ」
「は? いや、手紙には私たちが育てると……」

「手紙に書いたことは大体嘘だよ」
「……は?」

「あれは桜澄を呼ぶための方便さ。私は自分の代でこの家業を終わらせるつもりだったから後継者なんて探してなかったし」
「ちょっと待ってくれ。話が……」

「あの不自然な写真には私も腹が立った。桜澄ならきっと気がついてくれると信じていたよ」
「……俺をわざと怒らせたのか?」

「自分の意志で選んでほしかったんだ。桜澄はあの子たちを選んだ。私は大満足だよ」
父はそう言って笑った。

「……だとすると水野さんの話はどうなる?」
「あれも桜澄をここにつれてくるための方便さ。あの子たちに危機が訪れれば、桜澄は元凶である私の元に来るだろう? 私との因縁を断たなければ、またあの子たちが危険に晒されるかもしれない。そう印象づけるための指示さ」

「水野さんはやはりそっち側だったか。娘の桜の方はどうなんだ?」

「娘さんのことはよく知らないが、多分何も知らないんじゃないかな。あーそれと。天音さんに謝っておいてもらえるかい?」
「何のことについてだ?」

「数人の男に喧嘩を売られたことがあったはずだ」

「確かにそんなことを言っていたな。あんたの仕業だったのか」

「ああ。小野寺家の財力とコネを使って全国各駅の防犯カメラに顔認証システムを導入していたんだけど」
「さらっとすごいこと言ってるな」

「それでまぁ、桜澄達を発見してあの旅館まで近くにいた使用人に追跡させたんだよ」

「本当に全国に使用人が散りばめられていたのか……」

「桜澄たちがあの旅館に行ったのはたまたまだけどね。話を戻すと、例によって危機感を与えるために天音さんを襲わせたんだ。まさか返り討ちにされるとは思わなかったけどね」
父はそう言って苦笑した。

俺はため息をついた。
「俺はあんたの手のひらの上で踊らされていたのか」

「ハハハ。上手に踊ってたよ。それで、私がそうまでして桜澄を呼びたかった理由だが」
「ああ。気になっていた」
「実は、私はもう長くなくてね」

「……え?」

「これまで数えきれないほどの人を殺めてきた。きっとバチが当たったんだろう。もうどうやっても助からないらしい。だから、死ぬ前にもう一度だけお前に会いたかった。……今日は会えて嬉しかったよ」

「……そうか。俺は今までずっとあんたのことを誤解していたみたいだ。俺も、会えて良かった」

父が握手を求めてきたので応じた。
俺たちは互いの手を力強く握った。

「じゃあ、さようなら父さん」
「ああ。元気でね」

俺はやっと小野寺家との因縁を断つことができた。

それじゃ、帰るか。
家族が待っている。
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