人類vs魔族vs先生の話

夜桜紅葉

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憧れ

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 四人に何も告げずに旅館を飛び出して三日。
俺はゾンビのように街を徘徊していた。

腹が減ってもコレクトで解決できる。
魔力は寝れば回復するから大丈夫だ。

しかし修行の時ほどの頻度では使わないため、魔力が抜けて髪の色は黒に戻った。

髪の色が赤くなればなるほど、努力の証のようで嬉しくなっていたのだが仕方がない。

全部無駄だったんだ。
どれだけ努力しても結局俺はヒーローにはなれないんだってことを思い知らされた。

不貞腐れて街を徘徊しているうちに気が付いた。
ここは子供でも当たり前に魔法を使う。

さっきから俺は公園で紙に書いた魔法陣を見せ合っている数人の子供をなんとなく眺めていた。

子供のうちの一人、体の大きな子が、気の弱そうな子をバカにしているようだ。

耳を傾けてみると少し状況が理解できた。

気の弱そうな子は有名な魔法使いの家系らしいが、魔法の才能がないようだ。

優秀な一族の中の落ちこぼれだからバカにされている、ということらしい。

「ハハハ。お前魔法陣描くのも下手くそじゃん」
「こんなんじゃ誰も起動できねーよ」

「どうしてそんな酷いこと言うの。一生懸命描いたのに」
「うるせーよ落ちこぼれ!」

そういえば日向が魔法陣は雑だとエネルギー変換効率が悪くなって必要な魔力が膨大になると言っていたな。

そんなことを思い出しながら、ふと公園の入り口に目を向けると四人がいた。

咄嗟に隠れた。
どうにか心臓を落ち着けながら様子を窺う。

どうやら四人はこの公園に用があったわけではなかったようで、そのまま通り過ぎるみたいだ。

しかし子供が言い争っているのを見つけると、四人は公園に入ってきた。

天音が子供たちに声をかける。
「どうしたの~? 喧嘩?」

「こいつ魔法使いの家系のくせに魔法が使えねーんだよ。魔法陣だってこんな下手くそなんだぜ?」
「や、やめてよ」

体の大きな子は気の弱そうな子から魔法陣の描かれた紙を取り上げると天姉に見せる。

「ほら。下手くそだろ?」
「えー上手に描けてるじゃん」

「はぁ? お前魔法陣使ったことねーだろ。こんな歪な魔法陣は使いもんにならねーんだよ。魔法陣ってのは綺麗に描かないと起動に必要な魔力が増えるんだ。こんな下手くそ魔法陣はどんだけ魔力があったって起動できないゴミだ」

「そうかな~。まあちょっと貸してみ?」
天音は子供から紙を受け取ると

「ちょっと離れてね~」
と言って紙を地面に置いた。
子供たちは訝しみながらその様子を見守る。

天音は置いた紙に手をかざした。
二秒ほどそうすると立ち上がり、紙から離れる。

「はっ! やっぱりなんも起こらねーじゃねーか」
「ふふん。それはどうかな?」

天音が振り返ると同時に紙から火柱が上がる。
バカにしていた子供たちは唖然とした顔でそれを見ていた。

魔法陣を描いた本人である気の弱そうな子は
「え、なんで……」
と困惑している。

その子の頭の上に手を置いて天音は
「ちゃんと起動したでしょ? だから大丈夫。君、ちゃんと才能あるよ。頑張ってね」
そう言って優しく笑いかけた。


 一連の流れを見ていた俺はハッとした。
そして捨てかけていた夢を見つめ直してみることにした。

俺は今の天音のように、困っている時にやってきて自分を助けてくれるようなヒーローになりたかったんだ。

自分が辛い時、ヒーローは現れなかった。
どれだけ待っても現れなかった。

当然だ。
俺は辛いのを周囲に隠して助けを求めなかった。
そんな奴を助けることはきっと誰にもできない。

でも、そんな人間はたくさんいるはずだ。
どれだけ辛く苦しくても、助けてが言えない。
そんな人たちを救えるような存在に俺は憧れた。

……やっぱり俺はヒーローになりたい。
どれだけ無理だと言われても、子供っぽい夢だと思われても、ヒーローになりたい。

みんなにお願いしよう。
そして強くなるんだ。
みんなにとって俺が必要不可欠になるくらい、強くなるんだ。

そうして俺は公園を後にしたみんなを追いかけた。


 道を歩く四人を呼び止める。
「大和……。もう会うことはないと思ってた」
振り返ったけいが視線を合わせることもなく言う。

「俺、みんなが話してるの聞いちゃったんです。俺を諦めさせるって話」
「そっか」

四人は無表情だ。
俺を突き放すために冷たく接するつもりなのだろう。

「なんか話があるの?」
「お願いがあります。みんなにとって俺が迷惑なのは分かってます。みんなが優しさで俺を遠ざけようとしているのも分かってるんです。でも、俺はやっぱり諦めたくない。みんなに同行させてください」

「駄目だね」
「危険なのは分かってます。でも」

「魔物がどんなに怖いかあれで学ばなかったの?」
「……」

正直に言えば、とても怖い。
思い出すだけで体が震えるほどだ。
体の芯にまで恐怖が染みついている。

でも、逃げるな。
立ち向かうんだ。

覚悟を決めろ大神大和。
お前はヒーローになるんだろ。

自分に言い聞かせ、俺は拳を強く握った。

「怖いです。でも必ず乗り越える。俺はヒーローになる」
大和は覚悟の決まった目でそう言った。

「そっか。うん。分かった。いいよ」

「……え?」
「同行を許可する」

「え、本当ですか?」
「本当」
「なんでそんなあっさり……」

「僕たちはどうするか大和に決めてもらうことにしたんだ。ここから先は本当に命の危険がある。死ぬかもしれない。軽い気持ちでついて来られたら困る。だから大和を試した」

「大和がもう私たちに接触しないようならそこでお別れ。もし大和がもう一度私たちのとこに来て、連れて行ってくれって頼むようならそうしてあげようってね」

「大和は自分の意志でついてくることを選んだ。もう後戻りはできないよ?」

恭介がいたずらっぽく笑う。

「っ! はいっ!」
大和はこの世界に来てから一番の笑顔を見せた。
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