人類vs魔族vs先生の話

夜桜紅葉

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息抜き

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 大和の魔法についての話がひと段落し、話題はけいたちの交渉の結果に移った。

「そういえば今日の交渉どうでした?」
「案の定駄目だったね。まぁしょうがない」
「そもそも今はこの国自体が不安定だしね。自分たちのことで手一杯らしい」

「ヴォルペとルーポで揉めてるんでしたよね」
「ほんと困ったもんだよね。まぁでも一応交渉はしたからノルマ達成だね。あとは武器が出来上がるまでこの国でやることはない」

「そうですかー。あ、今日の修行中小太郎と凛が空中に魔法陣を出してましたけど、あれってどうなってるんですか?」

「それも魔法やな。頭ん中のイメージをホログラムみたいに空中に表示する魔法」

「なんかややこしいですね。魔法で表示した魔法陣に魔力を込めて魔法を使ってるのか」

「魔力量に余裕がある奴がよーやる。魔法学校の授業とかで使われたりすることもあるな」

「へぇーいいなー。俺もカッコいい感じの魔法使いたいな~」
死んだ目で大和が言う。

「可哀想。あ、そうだ! 明日大和の気分転換に遊び行こうよ!」

「気を遣ってくださらなくても俺は別に疲れてないですよ?」
「まあまあ遠慮しなさんなって。この近くにデパートがあるらしいからさ。みんなでお買い物に行こう!」

「デパートですか……。大丈夫ですかね。テロリストに襲われたりしないですか?」
「しないでしょ。何その心配」

「仮にテロに巻き込まれても世界で僕たちより強いのなんか魔王と先生くらいだからね。どうにでもなるでしょ」

「そうですか。それじゃあ行ってみたいです!」
「決まりやな」
「明日は遊ぶぞー!」


 次の日。
五人はデパートの前にいた。
中に入ると大きなポスターが目に入った。

「お、映画のポスターですね~」
「行ってみる?」

「行くとしてもお買い物した後ね。まずは餅を買いに行くぞ!」
「天音は餅が好きなんですね」

「やっぱ乙女たるもの餅が好きでねーと」
「意味分かんないですけどそうなんですねー」
大和はデパートを観察しながら適当に言った。

「なんか大和、天姉の扱い方慣れてきたな」
「もう完璧ですね」

「適当にあしらうな。拗ねるぞ」
「そうなんですね~」
「おい!」

そんな感じでお喋りしながらデパートを見て回る。

「おー! このマグカップ良くない!?」
日向がカピバラのイラストがプリントされたマグカップを見ながら言う。

「なんか眠そうなカピバラだな」
「そこが可愛いんやろ。うへへ。買お」

日向はニヤニヤしながらレジに向かった。


 その後も色々見て回った。
餅も買った。

目についた服屋に入って服を見ているとき
「なんか大和の髪ちょっと赤くなってない?」
恭介が大和の髪の色の変化に気が付いた。

「え?」
大和は店にある鏡で自分を見てみる。
確かに髪が少し赤みがかっていた。

「本当だ。え、なんででしょう?」
「あー。多分それは大和が魔法使いまくったせいやな。木刀折れるたびにコレクトで直してたんやろ?」

「はい」
「ん? 魔法使ったから髪の色が赤くなるとか聞いたことないけど」
天音が首を傾げる。

「なんかなー。大和の魔力って赤いんや。魔力自体に色がついてるの」
日向が大和の髪に触れながら答える。

「なにそれ。魔力に色とかあるの?」
「普通ないな。なんで色ついてるかは分からん」
「はぁ。やっぱ違う世界から来たからですかねー」

「かもな。そんで魔力が赤いから魔法使うたびにちょっとずつ髪が赤くなっていくんやろな。あと目の色もちょい赤くなってるな」
日向はうんうん頷きながら大和の目を覗き込む。

「これ元に戻りますかね」
「魔法使わんでしばらくほっといたら魔力が抜けて元に戻るんやないかな」
「なるほどー」

「つくづく大和は特別感あるよなー」
けいが大和の髪をくるくるしながら言う。

「でも地区大会三位くらいの実力なんですよね……」
「いや。あの時と評価は変わってる」
「え! もう全国大会優勝くらいまでいきました!?」

「県大会準優勝くらいやな」
「ん~でも嬉しい!」
大和は一瞬複雑そうな顔をしたが直後に笑顔をみせた。


 買い物を終えデパートを後にした五人は昼食を済ませて映画館へ向かった。

観るのはさっきデパートにあったポスターの映画だ。

「なんかほんとに別の世界に来たのか不安になりますね。普通に映画が観れるとは」
感心したような呆れたような顔をして大和が言う。

「大和は映画好き?」
「そこそこです。でも映画館で観ることは少ないですね。暗くなると寝ちゃうので」
「私もー」
天姉がわかるわかるといった感じで同意する。

「天姉はいつでもどこでも寝るもんな。孤児院時代もなんか本棚の上で寝てたことあったし」

「しょうがないでしょ。本棚の上までたどり着いた瞬間眠くなったんだよ」

「まずなんで本棚に上るんだ」
「だって上りたかったんだもん」
「じゃあしょうがないか」
「しょうがなくないと思いますけど」


 シアタールームに入ると半分くらいの席が埋まっていた。
五人は予約した席に座るとスマホの電源を切った。

しばらくそのまま待っていると、上映開始五分前にはほぼ全ての席が埋まった。

照明が少し落とされ薄暗くなる。
恭介は左肩に重みを感じ、察した。

「天姉はもう寝たのか。まだ始まってもないんだけど」

このままでは肩をよだれまみれにされかねないので、恭介は肩に乗っている頭を天姉の左隣に座る大和の方へ押す。

天姉はされるがまま左に傾いた。
そして大和に寄り掛かる。

その時恭介は気づいた。
大和も寝てる。

「こいつら何しに来たんだ……」
呆れながらスクリーンを眺める。
少ししてアクション映画の上映が始まった。


 上映後。
「いや~面白かったですねー」
「そうだねー」
明後日の方向を向いて天姉と大和は映画の感想を口にした。

「おい。あんたら寝てたやろ」
「ぐっすりだったね~。てか始まる前から寝てたでしょ?」

日向もけいも二人が寝ていたことには気が付いていたようだ。

それもそのはず、二人は
「ガアァァ! ガアァァ!」
「ガーガー。フガッ! ……ガーガー」
と果てしなく迷惑ないびきをかいていた。

「かたじけない」
「それな。いやマジかたじけない」
「かたじけないの使い方全然違うけど」

「ていうか映画観る前に昼飯を食ったのがマズかったね」
「それ。映画観た後に食べるべきだった」
「確かに」
「ですね。すごく眠くなりましたもん」
「にしても一瞬で寝てたけどね」

その後も街を散策して回った。


 この日の夜。
旅館の温泉に入った後部屋に戻ると、大和はすぐに心地よい眠気に誘われた。

今日は大和にとってこの世界に来て一番楽しかった日になった。
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