佐々木恭介の深夜徘徊

夜桜紅葉

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「お! 誰かと思ったら佐々木じゃん。何してんの」
狐酔酒こよいざけは息を整えながら訊いてきた。

狐酔酒はクラスメイトだ。
学級委員らしく、転校してきたばかりの僕やけいのことを何かと気にかけてくれている。

「ちょっと散歩。狐酔酒はランニング?」
「そうそう。体力作り。ってか何その恰好。和服じゃん。小野寺とお揃い?」

けいは普段から和服で学校に通っているが、僕はいつも制服を着ているから普段着を見られるのは初めてだった。

「そういやお前ら一緒に住んでるんだよな。あ、もちろん秘密にするって約束したし、そのことは誰にも話してねーよ?」
狐酔酒は逆に怪しいくらい念入りに否定した。

「別に疑ってないよ」
「ほんとかよ。なんかお前って目が怖いことあるから不安になるんだよなぁ」

「そんな怖い顔してるつもりはないんだけどな……。まぁいいや。狐酔酒はいつもこんな夜遅くに走ってるの? 偉いね」

「はっはっは! アホだけど努力家なんだぜ。意外だろ?」

「意外かも。……なんかごめんね。本当は努力してるところを人に見られるのが好きじゃないからわざわざ夜中に走ってるんでしょ?」
「げっ。なんでバレたんだよ……」

「狐酔酒は嘘つくの下手だからね。いいことだよ。人として健全な証なんじゃない?」

「なんか馬鹿にされてるような……。まぁなんでもいいけどさ、あんま人には言わないでくれよ。努力ってひけらかすもんでもないし」
「お、図らずして弱みを握ってしまったかな?」

「お、おい! なんだそれ、こえーよ!」
「僕は人の弱みを握るのが大好きなんだ」
「最悪じゃねぇか」

「冗談だよ。こっちも黙ってもらってることがあるんだからね。不義理を働くようなことはしない」

「それならいいんだけどさ……ってかせっかくこんなとこでばったり会ったわけだし、ちょっと一緒に歩かね?」

「いいよ。少し寂しくなってきてたとこだったんだよね。狐酔酒の体が冷えたらアレだから、適当なタイミングで別れることになりそうだけど」

「そうだな。今は汗かいてるくらい暑いけど、寒くなってきたらまた走るわ」
そんなわけで、狐酔酒と少し歩くことにした。
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