ほら、復讐者

夜桜紅葉

文字の大きさ
上 下
22 / 27
本編2

カルミア

しおりを挟む
 ヒガンバナは仕事を終えた後、ギフトのアジトに戻ってカルミアに報告しようとしていた。

カルミアの仕事部屋に入る瞬間、ヒガンバナはいつも緊張する。

ヒガンバナはカルミアを恐れていた。
何を恐れていたかといえば、その理解不能な思考回路を恐れていたのだ。
ドアをノックをし、返事を待って入室する。

「失礼します」
カルミアはいつも通り高級な社長椅子に腰をかけて、目の前の立派な木製の机に肘をついて手を組んでいた。

その手前まで行って報告しようとすると、カルミアが先に口を開いた。

「首尾はどう?」
「上々です」
「そう。なら良かったわ。……ふふ。そろそろキリンさんに会えるわ。随分と久しぶりのことね」

そう言うと、カルミアはうっとりとした表情を浮かべた。

ヒガンバナはその様子を見て、ずっと抱いていた疑問をカルミアにぶつけた。

「あの……キリンという男はボスにとってなんなんですか。ボスはもうずっとあの男にご執心ですが」
その時、部屋の扉が開くと同時に声が聞こえてきた。

「無粋よ。ボスだって乙女なの。弁えなさい」
入ってきた女性はギフトの中でも古株で、ヒガンバナの先輩でもあるベラドンナだった。

「そんなことを気にしてないで、あなたは自分の仕事のことについて考えなさい。あなたはこれから重要な役割を果たさなければならない。その自覚はある? 気を引き締めなさい」
「はい。その通りです。大変失礼しました」
ヒガンバナはきびきびと答えた。

カルミアはその様子を満足そうに見ると、
「ちょっとだけ教えてあげる」
とヒガンバナに言った。

ヒガンバナもベラドンナも意外そうにカルミアを見た。

カルミアは話し始めた。
「キリンさんと出会ったのは……もう三年くらい前のことね。私は依頼で彼の兄を殺さなければならなかった。彼の兄、サインは立場のある人間で周辺は常に護衛に囲まれていた。そこで私は晩餐会に仕掛けることにした。でも、あれだけの立場の人間を殺せば、その周囲の人間は必ず犯人を探し出す。面子の問題もあるしね。分かるでしょ?」
同意を求められ、ヒガンバナは素直に頷いた。

カルミアは続ける。
「だから私はキリンさんに目をつけた。彼は、まぁ色々あって家を追い出された身だった。それを利用させてもらったの。サインを殺した後に、キリンさんに罪をなすりつける。そういう計画だった。そのために私はキリンさんに接触して、晩餐会の場に招いたの。私がキリンさんのことを想うようになったのは、その時よ」
ベラドンナは何度も聞かされた話だったので、軽く相槌を打ちながら聞き流していた。

「晩餐会の場所に行くように誘導していた期間、私はキリンさんの純情な目を見続けた。彼は私に好意を寄せていた。私の嘘の復讐計画に真剣になって取り組んでくれる健気な姿を見続けた。その時、私は思ったの。私に裏切られたことを知ったら、この人はどれだけ私のことを憎むんだろうって」

この時点でヒガンバナはこれ以上話を聞く気が失せていた。
どうせイカれた女のイカれた考えを聞かされるだけだ。

「私はね、人間が誰かに向ける数ある感情の中でも、愛情と殺意は突き抜けて大きなものだと思うのよ。私は、より強い感情を向けられたい。それが愛だと思うの。だって誰かのことを強く想うことが愛でしょ?」
わけが分からない。
ヒガンバナは半ば呆れながらカルミアの話を聞いた。

「それで私は思ったの。私が裏切った後、キリンさんは私に殺意を向ける。これはまず間違いない。そして、もしそれでもなお私に好意を抱いていたなら、きっとキリンさんが私の運命の相手なんだって。だから私は会いに行ったの。牢屋に囚われて死刑宣告まで受けた彼が、まだ私に愛情を向けてくれるのか知りたくて」

カルミアはそこで言葉を止めると、口角を上げ、心底楽しそうな口調で話を再開した。

「彼は誰にも私の話をしていなかった! 信じられる? 私のせいで自分が死ぬかもしれないっていうのに、罪を否定するだけで、私の名前すら誰にも話していなかったの。面会で実際に会って、目を見て、確信した。彼はあの状況で、まだ私のことが好きだった。……殺意と愛情。両方を私に向けてくれる唯一の人。それがキリンさんなの。私、ロマンチックに死にたい。運命の相手に殺されるのが夢なのよ。そして、それを叶えてくれるのはきっとキリンさん」

キラキラと少女のように目を輝かせるカルミアを見ながら、ヒガンバナはため息をつきたい気持ちを必死に抑えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

処理中です...