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腕のなかで眠る
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腕のなかで眠る 有広ひろや
蛇口のハンドルを下ろしたオレ、本仮屋(もとかりや)智樹(ともき)は食器を洗い終えてひと息ついた。自分が夕飯を作り、居候と食事をとる。そして一休みをする前に片付けを済ませてしまう。当たり前にもなった一連の行動だが、一日の終わりを感じられるこの流れは決して嫌いではなかった。
昨年と比べ、水切りかごに並べる食器の枚数が明らかに増えた。同様に夕飯を作る手間と、食事の時間も増えたが、一人で暮らしていた去年までと比較してもとても充実している。
それは住人が増えたことが関係しているだろう。自分一人だけではなく、食べ盛りの男子高校生がいるのだ。未成年の学生と暮らす責任感は常に抱えているが、手料理を人に食べてもらう機会がなかったオレの中で日に日に調理への意欲が増していった。――居候が美味しいと満足げに頷いていたのは三か月前までだっただろうが、誰かとともに夕飯をとれる喜びは色褪せずにいた。
充足感に心を満たされ腕を思い切り天井に伸ばすと、不意に後方から視線を感じた。「ん?」とゆっくり振り返ると、スマートフォンを片手に立っている居候の姿がある。
桜田(さくらだ)勇(ゆう)、高校一年生の男子生徒だ。幼い頃は素直でよく喋りかけてくれもしたが、オレが高校に入学した辺りで会う機会が減ってしまったからだろうか。一緒に暮らしていてもなお言葉数が少なく視線を合わせて会話をする回数さえ減少傾向にあった。
だがこれでもオレ達は恋人同士なのだ。十六歳の勇と、二十八歳のオレとの関係性が周囲に知られてしまったら警察沙汰になりそうだが、勇が高校を卒業するまでの間は隠し通すと互いに決めた上で付き合っている。
もちろんただ付き合っているから居候をさせているわけではない。実家から通うよりも、オレが住むマンションから高校へ通学した方が距離も近いらしい。そう実の両親を納得させ、昔から家族ぐるみで仲が良かったオレに白羽の矢が立ったようだ。勇がオレに好意を抱いているとは露知らずに。
知っていたら拒否をしていたのか、と言われれば頭を抱えて悩んでしまう。初めて告白を受けた日以降、何度も想いの丈をぶつけてきた勇の気持ちを蔑ろにもできず、それどころかオレが彼に惹かれたのだ。
あの日、勇が流した涙は、二十八年間他人と交際する縁がなかったオレの心を救い潤わせている。
しかし当時の熱い想いが嘘のように、会話は少ない。
「お風呂は今沸かしてるから、もう少し待ってな」
「……分かった」
オレの言葉を受け、静かにリビングに戻っていく勇の後姿を目で追った。ダイニングキッチンの数歩先、リビングの中央に置いてある四人がけで黒色のソファーに座り込んだ彼は、ポケットから使い慣れたブルーのスマートフォンを取り出していた。
会話が減った理由は勇の言葉数が少ないことだけではないだろう。彼は常日頃から食事を終えた後ずっとアプリゲームをプレイしているのだ。今では夕食に手の込んだ料理を作ろうが味の感想はない。今日もそうだ。
「口に合うか?」
「ん、いつも通り」
――それだけだった。瞬間的にいつも通りってなんだよ、と声を荒らげたくもなったが、必死に怒りの感情を抑え付けた。
だがそれも虚しく胃に流し込むように慌ただしく食事を終え、食器を洗い場に運んだ勇は瞬く間にソファーに座り込んだのだ。そしてスマートフォンへと手を伸ばし、軽快な音楽とともに指を激しく動かしはじめていた。今流行りの音楽ゲームなのだろう、詳しくは分からないが時折女の子の励ますような声が聞こえてくる。男子高校生にしては珍しく女の子に興味がないと以前に言っていたが、二次元の女の子は恋愛対象とまではいかずとも関心はあるらしい。
ろくな恋愛もせずにオレのようなおじさんと共同生活をしているだけでなく、カップルとして生活をしている段階で心配はしていた。青春らしきものは何一つしていないのではないかと。
二次元の女の子に興味があるからと安心をしていいのかは分からないが、何かに熱中をするのはいいことだ。オレは頷きながら改めて手を洗いリビングへと移動をした。その足で勇の後ろに立ち、画面を覗き込む。
「なぁ、勇? それ面白いのか」
「まぁ、普通」
興味深く声をかけたものの反応は薄い。
普通ってなんだよ。そうツッコミたくはなったが、返答をしたところで邪魔をするなと言わんばかりに鋭く睨み付けられるだけだろう。反抗期真っ盛りの子供を持つ親の気持ちが最近分かるようになってきた気がする。実の子でもないし、恋人だけど。
勇とは一回り違い、オレはもう三十路手前のオッサンだ。世間的には結婚をしていてもおかしくはない年齢なのだが、話の流れに押され桜田家族から勇の子守を任せられている。コイツが産まれた時から顔を合わせているし、年の離れた兄弟のように付き合ってはきた。しかし、昔のオレは想像をしていただろうか、十数年後赤ちゃんの頃から知っている男と交際をすることになると。
だが現状、オレたちは本当に恋人同士なのだろうか。ろくな会話もなく、ただ居候をしているだけの学生と家主。それ以上でもそれ以下でもないのではないだろうか。勇はやはりオレをからかいたいがために告白をしたのか。実は恋人だと思っているのはオレだけで、付き合ってもない、だとか。
高校生活を送り始めたうちに女子生徒に恋をしている可能性だってある。一回りも違うオレに恋心を抱くなどやはり気の迷いだったのだ。勇の告白に踊らされたオレが悪い。今ならばそう言い笑って、ただのくたびれた近所の兄貴と夢と希望に溢れた男子高校生に戻れることだろう。
オレが間違っても勇との会話がない現実に悲観し、彼の身も心も得たいと思ってしまう前であれば。
「トモ、立ってないで座ったら? お風呂が沸くまでまだ時間があるんでしょ」
振り返ることなく、オレに背を向けたまま声をかけてきた勇の言葉に我に返った。「ああ、そうだな」と短く返答をし、促されるままに回り込みソファーに座り込む。
「なあ、勇」
「なに?」
「オレがお前に甘えたら、変、かな?」
「ああ、変だな。体調でも悪いのかって心配してやるよ」
「心配、してくれんだ」
激しい指の動きの合間に返ってくる言葉。邪魔をしてはいけないだろうと、ただ会話をしているだけだが、普段よりも掛け合う回数は多く年甲斐もなく嬉しくなってしまう。だが勇が心配してくれるなどらしくもなく、より一層素直に心を躍らせてしまう自分も珍しい。
にやけ顔を晒してしまわないように、ソファーに背中を預けて口元を腕で隠した。まるで初恋の相手の一挙一動に心を揺らしている女子のような反応につい自嘲したくもなるが、それでも湧き上がる喜びを勇にも伝えてしまいたくなった。
女の子のキャラクターが「パーフェクト♪ おめでとう」と告げたのを境に、勇がスマートフォンをローテーブルに置いた瞬間だった。オレは自分よりも僅かに小さな体を横から抱き締めた。十数年前と比べると圧倒的に体が大きくなっていたが、まだまだ成長期だ。もう数か月もすればオレよりも身長が高くなり、ガタイもよくなってくるだろう。女子生徒たちが放っておきもしないほどの人気者になる可能性も十二分に秘めている。
そんな彼の恋人が三十路手前の自分でいいのか改めて考えると不安でしかないが、万が一オレに別れを告げて来たら、即座に受け入れてやるのが勇の幸せを願う大人の役目ではないのか。
恋人に抱き締められてもなお表情の一つも変えずにいる勇の姿そのものが、答えだろう――。
『昔から背中を追いかけてた人と一緒に暮らせるなんて夢のようだけど、それだけじゃない。俺はトモが好きなんだ。今までどんな可愛い女子生徒に告白をされても全員フッてきた。トモが好き過ぎて、他の奴なんか目に入らなかったから』
勇が引っ越してきた日、荷解きを終えて直ぐの言葉は偽りだった可能性が浮上する。
『な、トモ。俺と付き合ってよ。今はもう、一緒に遊んでた近所のガキなんかじゃない。こうして……自分よりも大きな男を押し倒すことができるぐらい体も成長した。ただトモに対するこの気持ちだけはずっと変わらないんだ』
ソファーに押し倒したオレに跨り、今にも襲い掛かりそうなほどのぎらついた瞳で見つめる勇を忘れることはできない。
『お願い。俺と付き合ってよ。今は俺のことが好きじゃなくたって構わない。一緒に暮らしてくれるうちに好きになってもらえるように努力するから』
あの時点では過去に一度だけ他の男から鋭い眼差しで見つめられたことがあった。それがトラウマとなって他人に心を開かず、人を好きになった経験がなかったはずのオレが、心の何処かでコイツは過去の男とは違うと判断をしたのだろう。それまでに交わした唇とは全く異なり愛しさが詰まったような口付けに、その日のオレは身を委ねてしまったのだ。
そんなこんなでスタートをしたオレと勇との生活だったが想像をしていた時期よりも早く――というよりも、まさか本当に恋をするとは思いもしなかったが――勇に溺れてしまっていた。
『今までお前の気持ちに正直に応えられなくてごめんな。勇からの気持ちは初めて告白をされた時から痛いほど伝わってきてたのに、何も言えなくてさ』
勇がこの家にやってきてから一か月も経っていないある日のことだった。高校時代のクラスメイトと偶然再会し、体を汚されてしまったオレが気を動転させ、自分だけではなく激しく勇に当たり散らしてしまったのだ。
『けど、もうオレにお前を好きになっていい資格なんてないんだ。男に無理矢理犯されちまったオレなんて……お前に触れることは疎か、触れられることさえ自分じゃ許せない』
毎日のようにオレに好きだと告げてくれた勇を裏切ってしまった感が否めず、涙が止まらなかった。どんなに愛を囁いてくれたとしても、この身は既に他の男のものになってしまった。その事実が消え去ることはない。ただ怒りと悲しみに震えるオレを救おうとする勇の言葉に、年甲斐もなく涙を流した日の出来事は昨日のことのように覚えている。
しかしどんなオレでも愛すると、力強く抱き締めてくれた勇に生きる希望を与えられ、生まれて初めて愛を教えてもらったのだ。
『勇、ありがとう。こんなオレでもいいと、愛してくれると言ってくれて。優しいよな、本当に。なあ今からでもお前を好きになっていいか?』
そう言ったオレを優しく抱き締めてくれた恋人はもういない。溜息を漏らした同居人が呆れ混じりに呟く。
「いきなり何、どうしたの。らしくねーじゃん、トモから抱き締めてくるなんてさ。でも俺、今はこういう、甘えたりとか甘えられたりとかって気分じゃないんだよね。離れてくんね?」
ゆっくりとオレの方に視線を向けた勇と目が合った。温もりのないその瞳は肩を落としていくオレの姿を捉えている。それ以上の言葉はない。ただ優しさのない瞳に負けた自分が力なく腕を下ろしていくだけだった。
やはり勇は本気でオレに告白をしたわけではないのだろう。学生の間によくやる罰ゲームか何かだったのだろうか。例えば手近な奴に告白をしてみるだとか、女子生徒だけでは飽き足りず男にまで告白をするような馬鹿げた罰。オレはここ九か月もの間、男子高校生たちに馬鹿にされていたのだろう。
年齢が一回り上の、童貞で、今まで彼女がいなかったような男。男に告白されて初めは半信半疑だったが年下からのアプローチに押され、少しずつ心を奪われた挙句に、男子高校生に好意を抱いてしまうような変わり者を笑っていたのだ。
だが最近はオレを嘲笑うのにも飽きてきたのだろう。気分じゃないだの適当なことを抜かして、いつかは捨てるのだ。「告白は冗談のつもりだった。おじさんと付き合うわけもないし、男が男を好きになるはずがないだろ、気色悪い」などと捨て台詞を吐いて。
「ごめんな。らしくないっていうかやっぱおかしいよな、こんなのはさ」
ゆっくりと勇の体から距離を置き、ソファーに座り直した。様子を窺うような彼からの視線を尻目に、頭を抱えてしまう。
ありえもしない妄想だと笑ってくれ。ネガティブな童貞が一人勝手に生み出した不安だと否定をして欲しかった。今までろくに恋愛をしたことのなかったオレがやっと恋愛に乗り気になった相手が男子高校生など許されることではないだろう。それでも、大きくなり出した好意を完全に消去することなどできそうにもなかった。
勇にもっと触れてみたい。勇ともっと話をしたい。仲を深めたい。「好き」の気持ちが膨れ上がると同時に汚い欲望までもが心を侵食していくようだ。
自分の年齢を忘れてしまいたいぐらい、オレは勇に心を奪われきっていた。もう少し年齢が近ければ、同い年ぐらいだったら、勇よりも年下だったら。現実にはありえもしないことばかりを思って勇とともに居たいと願ってしまう。
「トモ、本当にどうした? 今日、なんか変だぞ」
「変、か。そうかもなあ」
――これでは二十八歳男性の皮を被った、恋に生き、恋に絶望をする女子高生だ、オレは。もういっそのことフッてくれたらいいのに。完膚なきまでオレの心を突き放して離れて行ってくれたら楽になれるはずなのだから。
頭を抱え続けたオレに、何かに気付いたらしい勇が声をかけてきた。
「おーい、変なトモ、スマホ鳴ってるぞ」
わざとらしく「変な」を強調した勇の言葉にオレは視線を上げた。食事時から置きっぱなしだったスマートフォンが何度も振動をしている。静かに手に取り画面を点灯させると、思わぬ誘いの連絡が入っていた。
使い慣れたメッセージアプリを起動すると、友人「青山(あおやま)浩一(こういち)」からの連絡が何度か届いていた。確認をすると『今週末高校時代の奴らと集まって同窓会をしようぜ』との内容だった。わいわいと楽し気にはしゃぐ動物のスタンプも添えられている。そして新たにバースデーケーキを持った犬のスタンプが送られてきた。
指定された週末の日付を再確認すると、その日はオレの誕生日だった。残念なことにその日は特に予定もなく空いている。だが一応確認をしておきたかった。
相手は男子高校生だが、恋人としてまだ想ってくれているのであれば期待をしてもいいだろうか。ただその日に一緒に居てくれるだけでいい。他には何も望みはしないから。
オレは僅かな期待を込めて口を開いた。
「勇、浩一って覚えてるよな」
「あー最近は会ってないけど覚えてるよ。それがなに?」
「そいつからさ、同窓会に誘われたから行ってくるな。今週末の十八日だ。夕飯は作れないだろうから一人で済ませといてくれよ」
わざわざ日付も伝えたのは意識をして欲しかったからだ。二十八にもなると自分の誕生日など特に関心がなくなるかと思っていたが、そんなことはないらしい。一年に一度の大切な日だ。大切な人と過ごしたい。
最初から同窓会を断れば済む話でもあるが、それでは駄目なのだ。もう一度勇の本心を知り、多幸感を得たいがためにわざとらしく伝えた。
昔のオレが、今のオレを見たら嘲笑うだろう。年下の男を前に心を揺さぶり、いい年になってもまるで純情な女の子のように不安と戦い、勇に恋をしている。
「行って来たらいいじゃん。俺は適当に食べとくから心配すんなよ」
「そ、分かった……行ってくるな」
素直になれない女の子であればここで一度や二度怒りをぶつけるだろう。本当は止めて欲しかった、折角の誕生日なのだから祝ってもらいたかった、誕生日を意識してくれないなんて最低。怒りに身を任せて喧嘩にも発展していたかもしれない。しかしオレは年上の男だ。怒りを超越した先には寂しさが広がっていた。
ただ希望が出されたままに一緒に暮らし、昔馴染みの年下男に告白をされて九か月。幼少期の頃とは比べ物にならないほど魅力的になった男に、いつしか自分も恋をし、年甲斐もなく溺れてしまった。
その成れの果てが、ただの寂しがり屋の男だ。こんなんで二十八? 笑えないな、本当に。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
人数が集まらなかったのか同窓会の会場は居酒屋だった。隣の客とは襖で仕切られているが至る所から騒がしい声が聞こえてくる。対して自分は話を聞き流すばかりで、同窓会らしい過去の友人らとの現状報告会には参加できていないといえよう。これでは周囲の人に迷惑をかけてしまうだけだろう。場の空気を壊すよりも先に、帰ってしまうべきだろうか。
飲みかけのジョッキに口をつけ思考を巡らせる。周りの会話に合わせて適当に相槌を打ってはいるが、同窓会が終わってしまえばすぐにでも忘れてしまうだろう。それだけ今は他人の話よりも自分のことで頭がいっぱいなのだ。
たかだか同窓会が始まる前に「同窓会に行ってくるからな。夕飯、しっかり食べろよ」と勇に連絡を入れ、既読無視をされているだけ。ただそれだけで気もそぞろになってしまうようなオレが、他人の順風満帆な生活の話に意気揚々と混ざれるはずがない。
会話を聞き流しながら静かに飲み進めるもジョッキは空にならず、不思議と虚無感に包まれていくばかりだ。――隣にある男が座り込むまでは。
「智樹じゃねーの。普段は同窓会なんざ来ないくせに、今日はオレに会うために来てくれたんだな、あんがとよ」
一人の男がやってきただけで和んでいた空気が突如として冷え込んだ。周囲に座っていた当時のクラスメイトたちが一気に距離を置き離れていく。
「柏木。お前が何でこんなところにいるんだ!」
昔から何も変わっていない女性受けする顔立ちにすらりとした体躯。当時から女子生徒にモテていたが、大人になった今は何処か危険な香りが漂う雰囲気に人気は未だ健在なのだろうと勘繰ってしまうが、とんでもない、こいつは最低最悪の男だ。
「何でって、クラスメイトだったろ? 同窓会で会うのは当たり前じゃん? それにオレとお前の仲なんだ、いいじゃねーかよ。アンなことやこんなことだってしたじゃねーの」
記憶の片隅に遠ざけていたはずの出来事が徐々に侵食してくる。体が震え、今にも逃げ出したくなってしまう。
「お前と仲を深めたつもりは今も昔もないよ。下らない嘘をつくな」
「嘘ねえ。あの日の行為を覚えてないわけ? 一から丁寧に説明してやろうか」
寂寥としていた心の中に苛立ちが募る。柏木の言動は数か月前と何一つ変わっていない。相変わらず妙にオレに絡み、蛇のように執拗にまとわりついてくるのだ。
震えと恐怖に打ち勝ち、今にも手を出したくなってしまうが、あの日、オレを愛してくれると誓った勇の姿が過る。どんなに返信がなくたって、あいつはオレの隣に居続けてくれると信じ、必死に自分を奮い立たせる。
「折角久しぶりに会えたんだぜ? そんな悲しいことは言わないでくれよ、な、トーモ」
だがどんなに決意を秘めようとも、耳元に吹きかけられる無駄に空気を含む吐息に怖気が走った。
この感覚は過去にも味わったことがある。高校二年生の夏、柏木に突然呼び止められ体育館裏に連れられた日のことだ。何食わぬ顔をしてオレを壁際に追い詰めると、耳元で『メチャクチャにしてやる』と囁いてきた。
言葉の意味を理解するのに時間がかかってしまったオレは身を強張らせることしかできず、次の瞬間には乱暴に唇を塞がれていたのだ。まるで世界全体がスローモーションになってしまったかのように一度瞬きをすると五秒、いや十秒以上の時間がかかっている感覚だった。口で呼吸をしようにも、柏木の名前を呼ぶこともできない。腰元のバックルが揺さぶられ金属音が立つまでオレは状況を把握できずにいた。
どのくらいの時間が経ったのかは分からない。だが一瞬だけ唇が離されたかと思うと柏木が卑しく微笑んだのだ。
『初めての相手が可愛い女の子じゃなくて残念だったな。けど喜んでくれよ。オレさ、智樹、お前のことが好きなんだ。大事に大事に扱って、お前を女にしてやるよ』
今までに感じたことのない種類の恐怖が全身を駆け巡った。鼓膜を揺らす柏木の言の葉に心臓が激しく脈打ち異様なまでの寒気に襲われる。そしてゆっくりと耳元から彼の顔は離れていくが肌に降りかかる僅かな吐息さえもが背筋を凍らせた。
オレの唇を撫でるように指先を這わせる柏木の瞳は毒蛇のそれそのものだった。目の前で震える鼠を逃さないよう瞳をギラつかせ、舌なめずりをしている。
――コイツは危険だ。脳が警鐘を鳴らした。この場にいてはいけない、柏木という男は人間の皮を被った毒蛇だ。一度翻弄されてしまったら最後、首筋に牙を立てられたまま、心を犯されきるまでまとわりつかれるだろう。
「ふざけるな!」
唇から下顎と、静かに辿っていた柏木の手を払い落とした。まだ微かに残る耳朶に吹きかけられた吐息の熱を気にしている余裕はない。オレは無我夢中だった。勢いよく柏木の体を突き飛ばした途端に、叫び声すらもあげてしまいたくなった。
だが幸か不幸か、コンクリートを踏みしめる足音とともに、聞き慣れた男の声が耳に飛び込んできたのだ。
「探したぞ! 智樹」
それは幼馴染、浩一の声だった。高校時代だけではなく、今なおオレにとっての救世主だ。
「柏木。過去にフラれた男がしつこく付きまとってるなんて、気持ち悪いぞ。今も昔も、智樹はお前なんかに興味はない。こいつの隣は俺の居場所だ。さっさと退けよ」
「げっ、青山っ! ったく、何年経っても智樹の隣には厄介な男がいるんだな。イヤになるぜ。はいはい、愛しの智樹君に手を出してすみませんでしたー。オレが悪かったよ、じゃあな」
あの日、浩一がオレを救ってくれたように、どうしてか柏木に絡まれていると助けに来てくれる。理由は分からないが、オレにとっては感謝しかない。
何処か怯えた様子で立ち上がり別の席に移動をした柏木の後姿を見て、大きく息を吐く。思い出したくもない過去に心を侵食され、喉が異様なほど渇いてしまっていた。飲みかけていたジョッキを一気に飲み干すと、喉を伝う感触に少しずつ緊張も解れてくるが、解消しきれない不快感だけが残されてしまった。
「浩一、ありがとうな。それと面倒かけて本当ごめん」
「何言ってんだよ。お前が謝る必要はないだろ? 元はと言えば今も昔も柏木がお前に手を出したのが悪いんだよ。あんだけ痛めつけたっていうのに、懲りていないようだし」
茣蓙に腰を落としながらそう告げた浩一の言葉に耳を疑ってしまう。
「痛めつけた?」
想像もしていなかった物騒な言葉に眉間に皺を寄せてしまったが、浩一はお前が気にすることじゃないと言わんばかりに口元を小さく綻ばせている。
オレは何やら不穏な空気を漂わせる浩一の言葉を深く追及することもできずに再びスマホに視線を落としてしまった。そんなオレを気にしてか浩一が優しく声をかけてくる。
「ところで智樹、柏木がお前に声をかける前から、気にしてはいたんだけどさ、同窓会に来てからスマホばっか見てたけどどうした? 他の奴らと話してたからなかなか席を離れらんなくてさ、訊くのが遅くなっちまったけど……今日、あんま乗り気じゃなかったのか」
割り箸でから揚げやサラダを摘まんだ浩一がオレの前に取り分け皿を置いた。同窓会が始まって早くも三十分が経とうとしていたが、周囲にはついさっき空になったばかりのジョッキと綺麗なままの取り皿のみが置かれるこの状況で、未だに食事に手を付けていなかったオレを気にかけてくれたのだろう。昔から気が利く奴で周囲への優しさを持ち合わせている。学生時代から絶えず恋人がいるのも頷ける。
感謝の気持ちを示して小さくお辞儀をし、から揚げを口に運んだものの食欲は湧いてこなかった。申し訳ない気持ちでいっぱいになるが、オレ以上に浩一の方が下唇を噛み締めている。
「ごめんな、柏木が同窓会に参加することを事前に知ってれば、辛い目には遭わせなかったのに……」
「浩一が謝る必要もないだろう? それにお前には何度も助けてもらってるし、何回お礼を言っても足りないくらいだ」
「好きでお前を助けてるんだ、気にするなよ」
周囲の騒がしさと比べると、浩一との間に流れる空気は実に穏やかで互いに口を閉ざしていても不安にはならない。だが会話もなく、食欲も湧かないとなるとつい返信ばかりを気にしてしまう。しかしそれではいけないと周囲を見渡すと、昔と変わらない雰囲気に少しずつ安堵していく。
男子高時代の同窓会ともなると、むさ苦しい男や今なおヲタクで居続けている奴もいれば、結婚し指輪を嵌めている奴もいる。高校を卒業して十年、未来というものは想像し難いもので、まさか自分が恋人からの返事がないことにここまで気落ちするものなのかと肩を落としてしまう。
折角の場で気を落とし続けるのもどうかと自分を奮い立たせるつもりで取り皿に手を伸ばすが、どうしても気が進まなかった。
「浩一、オレはさ、別に嫌々来たわけじゃないんだ。皆の話を聞いてるだけで楽しいし。昼飯を食いすぎちまったんだろうな、今はちょっと食欲がないだけだよ、ごめんな。それと……ちょっと気分が優れないからさ、外の空気を吸ってくるわ。十分ぐらいで戻ってくるから、浩一は同窓会、楽しんでてくれよ」
一人塞ぎ込んでこの場の雰囲気を乱すのもイヤなオレは、浩一にそう声をかけるとスマホを片手に居酒屋を出てしまった。他の奴らには飲み過ぎたからなどと嘯いて適当にやり過ごしたが、浩一はきっと何かに気付いているだろう。すぐに追ってこないのは彼なりの優しさか。
入店する他の客とすれ違いながらも身を冷やすほどの冬の夜風が躍る外に出た。週末、そして十二月も中旬で年末に差し掛かっていることもあってか多数のサラリーマンが足並みを乱しながら歩いており、二次会の居酒屋やカラオケボックスを探している。
アウターを取り忘れたオレはその身に刺さる風の冷たさに勢いで居酒屋から出てきてしまったことを後悔したが、直ぐに戻る気にもなれず、寒さを堪えるように自分の体を抱き締めた。その時だ。行き交う人の波を眺めていると、見慣れた男が歩みを止めていた。
そいつと顔を見合わせると互いに驚いてしまった。だが行き交う人に背中を押されてしまったのか、ゆっくりこちらへと歩み寄ってくる。
「勇、どうしてお前がここにいるんだ?」
茶色のコートに身を包む勇は当たり前ではあるが防寒対策がばっちりで、今のオレの状態とはだいぶ異なっている。温もりある服装をつい羨み喉から手が出てしまいそうなほどだったが、冷静を装う。
人を避けこちらに近付く勇を前に腕を組み直した。
「同窓会、参加しなくていいのかよ」
「質問してるのはオレだ」
「誰かさんが夕飯を作ってくれないから、友だちと食べたんだけど、なんからしくなくない? トモ。お酒が弱いタイプでもなかったのに同窓会から抜け出してどうしたんだよ。しかもアウターも着ないで寒そうじゃん」
勇にさえ普段と違うと勘付かれてしまったのだろうか。訝しげにオレを見つめる彼の瞳に不覚にも息を呑んだ。曇りのなかったはずの瞳が不意に揺れ、光さえ届かない闇が双眸には広がる。
「トモ、もしかして俺に言えないような誘いでもされたわけ?」
勇の感情の起伏が読めない。忽然と怒りを孕んだ声色で迫りくるその様子にオレは身を強張らせてしまった。柏木の眼差しとはまた異なる揺るぎない瞳。心をひどく惑わせ揺さぶる勇の目に、鼓動が激しくなる。
オレはこの目に弱いのだろう。勇がオレに告白をした後に見せた、辛うじて理性を繋ぎ留めている瞬間の瞳に。
「ホントどうしたんだよ」
言い逃れることを許さないとでも言わんばかりに、さらに訊かれてしまう。明らかにオレの返答を待つ勇は腕を組み始めた。
「別になんでもねーから」
しかし事情を話すのはオレのプライドが許さなかった。勇からの返信がなくて寂しかったなどと言えるはずもない。
勇はそんなオレの気も知らずにますます鋭い視線を向けてきた。
「だから、何でもないんだって。オレが送ったメッセージを無視し続けるようなお前には関係ねーの!」
視線に負け、口を閉ざすこともできず、かと言って上手く言い包めることもできない。自分よりも年下の奴に言い責められて声を荒らげてしまうのは大人げないと頭の中で理解してはいるが、それ以上の言葉が出てはこなかった。遠回しに返信が欲しかったと言っているようなものだったが、結局は伝えるつもりのなかった感情が表に出てしまったのだ。
相変わらずオレを見つめる勇の瞳は揺るがないが、徐々に柔らかいものに変わっていく。
「俺が返信しないでいたの気にしてたんだ。なんか、ごめん」
「あ、いや、いいけど……」
――やっぱりよくはないけど。
普段の少しぶっきらぼうで平謝りを重ねる勇に戻っていた。先程までの威圧的な態度からは一変、目も合わせてくれず、素直に感情を表に出さない彼だ。唇を薄く開き新たに何かを言いかけているが、ゆっくりと閉ざしてしまう。だがオレが覗き込むより先に口を開いた。
「同窓会、つまらないなら一緒に帰んね? 寒いなか突っ立ってんのもだるいしさ」
小さく身を震わせた勇は居酒屋の入り口を指していた。
同窓会から飛び出した時と比べると気分も落ち着いてきたが、このまま帰ると柏木から逃げるような形になってしまう。面と向かって会話をしなければ奴の怪しい言葉に耳を傾ける必要もないだろう。それに一人気落ちしたままで場の雰囲気を壊してしまっていたのではないかと思うと、この後は盛り上げるように努力したり、旧友たちとの思い出話に花を咲かせるのも重要だろう。
「トモ、どうする?」
勇の問いかけに頭を悩ませてしまうが、不意に居酒屋の入り口が開かれた。
「智樹、気分が悪いなら一緒に帰ろう。他の連中には俺が適当に話をしておいたからさ」
二人分の荷物を抱えた浩一だった。
「……青山さん」
「久しぶりだね、勇君」
勇も浩一も特別驚いた様子もなく視線を重ねるがそれ以上の会話はない。何かを察し合っているのか、次の瞬間にはオレへと視線を移している。
「実はさ、今一緒に住んでるパートナーが嫉妬深くて、帰ってくるようにうるさいんだ。それに智樹も何か大切な話をしたい人がいるんじゃないかと思ってさ、帰っちゃおーよ」
有無を言わさぬ浩一はオレにコートを渡すと微笑んでいた。全てを見透かしているかのような言い方に呆然としてしまうが、勇の提案には梃子でも動かなかったはずなのに、浩一に言われてしまうと流されるがまま身支度を整えてしまう。
「浩一、ちなみに反対意見は?」
「もちろん、聞かないよ」
「勇君も、それで構わないでしょ?」
「ええ、まあ」
「それじゃあ意見もまとまったことだし、帰ろっか」
勇の肩を抱いた浩一は意気揚々と歩き出した。二人の声色の温度差は明らかで、押しに弱いオレのせいではあるが、勇も何処か浩一には一切の反論ができずにいる。それは幼い頃から変わらず、近所の年上のお兄さんという感覚だけではなく、目尻を下げて微笑む浩一にはきっと敵わないとでも思っているのだろう。浩一を前にしている時の勇は大体眉間に皺が寄っている。
「勇君、元気してた?」
「ええ、まあ」
「その返しばっかり、つまんないの」
居酒屋から帰る途中常に勇の眉はハの字の逆を描いていた。浩一も気付いているだろうが何も言わず、久しぶりに会った勇に質問を投げかけ続けている。
居酒屋から自宅へは電車を使わず徒歩圏内だが、浩一が電車を利用するため一緒に西ノ森駅に向けて歩いていた。その道中だった。
「そうだ、勇君。今日が何の日か知ってる?」
浩一の問いかけに心臓が大きく飛び跳ねた。今まではろくに誕生日を気にしなかったにも拘らず、何の意味もなく浩一がそんな質問をするはずはないと勘繰ってしまう。
「何の日って、トモの誕生日でしょ? それがどうかしたの」
「正解。よくできました」
意識せざるを得ない質問だったが会話は広がらない。オレも何も言えず、ただ期待をしているだけになってしまう。まだ勇からは何も言われてはいないのだ、おめでとうも、何も。
「それじゃあ今度は智樹に質問。今日の同窓会さ、スマホばっか眺めてたでしょ。大事な連絡でも待ってたの?」
ぎくりと音が漏れてしまいそうなほどの衝撃だった。核心を突いてくる言葉に遂に溜息をついてしまう。その溜息に気が付いたのか勇がこちらを見遣る。
浩一にはオレたちが付き合っているのを伝えてはいるが、それだけだ。現在の会話もろくにしていない状況やオレだけが一方的に想っているのではないかと不満を漏らした覚えもない。
「お前は昔っからお見通しだよな。オレが何を考えて、何で気持ちが入ってないのか、とか」
「気付いてないとでも思ってたの? 智樹が落ち込んでるところなんて誰でも分かるさ」
「誰でも?」
「あぁ。気付かないのは空気が読めない馬鹿か、自分の気持ちに素直になれなくなった高校生くらいだろうな」
浩一の言葉にふと首を傾げてしまう。一体誰のことを指し、何を知っているのだろう、そう思い至ったのも束の間、勇がわざとらしく咳払いをしていた。次に浩一の方を見返すと意地悪く微笑んでいる。
「なんて俺が言えるのはここまでかな」
浩一は勇に謎のアイコンタクトを取り満足そうだ。
「――青山さん」
勇が何かを言いかけたその瞬間だった。道端にアップテンポな着信音が流れる。これはオレのスマホでも勇の物でもない。とすると。
「ごめん、ちょっと出るけど、いい?」
コートのポケットからスマホを取り出した浩一が申し訳なさそうに手のひらを縦にし、こちらに向けて謝るような姿勢を見せた。オレと勇は互いに顔を見合わせてから、再び浩一の方へと見遣り頷く。
それを確認してから浩一が電話に出た。一度溜息を漏らしていたものの優しく愛に溢れた声色だ。きっとさっき言っていたパートナーなのだろう、余程浩一の帰りを待ち望んでいるようにも感じられる。
オレと勇は特に会話をするわけでもなく、浩一が通話を終えるのを待っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「浩一、すぐ帰ってったな」
「よっぽど電話の相手は青山さんの帰りを待ってるんだろうな。それなら最初から同窓会に行かせなきゃいいのに」
浩一が慌てて最寄り駅にまで駆けて行き、微かに雪が舞う夜道に残されたオレたちは、静かに会話をしながら自宅までの道を歩いていた。
「それにしても別れる直前、青山さん、俺のことを煽ってたよな? 電話の相手と俺が似てるなんてさ、バカにしてるでしょ。俺は別に電話で早く帰ってきて欲しいとか言っちゃうほど寂しがり屋でもヤキモチ焼きでもないんだけど」
「バカにしたつもりはなかったと思うぞ。アイツはつい嫉妬をしてくるパートナーのことが可愛くて仕方がないんだろうし、勇みたいになかなか素直になれない弟みたいな奴を可愛がってくれてるだけだって」
「小さい頃ならまだしも、高校生にもなってあの人に可愛がられたくもないけどね。つか可愛がってるっていうかおちょくってるだけじゃん、あの人の場合」
幼い頃はオレと浩一の背中を追いかけ「遊んで」と乞うていたはずの勇が、年を重ねるにつれて何処か冷たく距離を置いているように感じてしまうのは自分がまだ勇を子供扱いしているからだろうか。もうそろそろ身長も抜かれてしまいそうなほど成長し、大人になり始めている勇からの脱却が図れない証とも取れる。
だがあの頃と今とで違うのは、オレとコイツが恋人同士であることだ。距離を置かれてしまったら、オレよりも魅力的な人間に出会ったのだろうと不安がり、彼の将来を想えば別れることさえ考えるべきと思い至る。
しかし実行に移せないのは――オレが勇を好きだからだ。過去、弟のように思い心配し背中を追いかけて来てくれるその様子に胸を躍らせたのとは違い、今は弟ではなく、歩幅を合わせて隣を歩き、愛のもとで汚らしい欲望さえも抱いているのだ。
「いーや、オレにとってもお前は可愛い奴だよ。今と昔とでは可愛いの意味合いが違うけど、そう気付かせてくれたのは勇が何度も告白をしてくれたからだ。それまで見せたことのなかった真剣な顔して想いを溢れさせてるお前の好きだって言葉が気付かせてくれたんだ。ありがとな、勇」
「ホントらしくないな。トモがそんな風に俺への気持ちをぶつけてきてくれるなんて。びっくりしちゃうよ、慣れてもないし」
照れたように俯く勇が静かにオレの冷えた手を握った。周囲には通行人がいて、つい振り払いたくなってしまうがそれが叶わないほど力強く握られている。
「けど、その……本当は同窓会に行ってほしくなかったとか……トモを独り占めしたいとか心では思ってるのに、普段は全然素直になんかなれない俺を好きになってくれて、ありがと」
今日は久しぶりに感じた勇の手のひらの熱と感触に全てを委ねてしまうことにした。
「手、離さなくてもいいのかよ」
「いいんだよ。今日は、このままで」
雪が舞う夜道。オレら以外の通行人がいても関係ない。数メートル先で点滅しかけている横断歩道へ急ぐこともなく、絶えず手を繋ぎ続けてしまおうと決めたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
帰宅したオレたちは、冬の夜風で冷えてしまった体を温めるようにソファーの上で横並びに座っていた。相変わらず手を繋いだままで互いの呼吸音だけが室内に響き渡っていたが、同時に体の内側から熱くなってしまうような緊張感に包まれていた。互いの手のひらには無意識に力がこもり、何も言えぬまま静かに時が過ぎていく。
テレビも点けず、どちらかが口を開くのを待っている状況が続いた。
「トモ、俺の話、聞いてくれる?」
先に沈黙を破ったのは勇だった。短く「ああ」と相槌を打ち頷くとゆっくりと言葉が紡がれる。
「帰り道でも言ったけど、ホントはさ、同窓会になんか行ってほしくなかったんだ。二人でトモの誕生日を祝いたかったから。正直俺は素直に喋れるような奴じゃないって自覚はしてるんだけど、誕生日当日までに何度も何度も言おうと思ったんだ。誕生日の日は予定を空けといてって。そんで特別なお祝いってか、あまりにも高いプレゼントは用意できないから、その日くらいは俺がご飯を作ってあげたりとかしてさ、普段抱いてるトモへの感謝だったり、気持ちを伝えたかった」
一呼吸を置きながら丁寧に囁かれる本心の数々に胸が熱くなるようだった。普段は口が悪く冷たい言い方をしてくるような勇だが、優しく温もりのある口調で語ってくれる気持ちに笑みが零れる。
ゆっくりと目線を合わせては再び耳を傾けた。
「トモ、大好きだよ。俺なんかまだまだ子供っぽくて、トモからしたらただのガキかもしれない、いや、トモのことだから自分が年上だからって告白を受け入れたことに負い目を感じてるかもしれない。でもそんな必要はないってことも言いたかったんだ。俺はいくつ年が離れていようがトモが好きだし、これからもずっと一緒に生きて行きたいと思ってる。だから――」
「オレも、気付いたら勇と同じ気持ちになってたよ。お前の言う通りどうしてオレなんだろうって不安にもなるし、お前の人生の選択の幅を狭めているんじゃないかとも思った。だけど、これだけは分かる。やっぱりお前は昔から嘘をつくような奴じゃない。いつだって素直になれなくて、ちょっと意地を張る子供っぽいところが残ってるのがまた可愛くてさ、一緒に住んでみると余計にその気持ちが深まっていった。少し時間はかかっちまったけど、オレもさ、お前を好きになったんだよ」
勇の言葉に感化されてか、オレも本音を漏らした。普段であれば伝えられようもない本心の数々につい恥ずかしくなりつつも、彼の頭を静かに撫でた。昔もよく勇を褒めるためにこうしていたが、今は違う。――今は愛しむような優しい瞳で見つめながら恋慕を込める。
「けどな、勇。まだ聞いてない言葉があるんだ。……まだ誕生日を祝ってもらってねーよ」
自分から求めるのは違うような気がしたが、どうしても聞きたかった。居酒屋では柏木のせいで落ち込んだが今日はおめでたい日なのだ。この言葉をなくして一日は終われない。
「ごめんごめん、わざとじゃないんだけど、伝えたい気持ちが多すぎて、頭の中がパンクしそうだったんだ。もちろん、ちゃんと言うから、ちょっとだけ体の力を抜いてよ」
「は? 力を抜くったっていきなり、何だよ」
思わぬ彼からの頼みに言い返してしまうも、するりとオレの手のひらから逃げて行った勇の手で両肩を強く押される。そして力に負け、後ろ向きにソファーに倒れ込んでしまった。クッションに背中を預けた感覚はあったが、突然すぎる展開に思考が追い付いてはいない。
天井をバックに勇が目前五センチにまで迫る。
「おいおい、いきなり積極的すぎないか、勇」
「たまにはいいじゃん。今日はトモが生まれた記念日だよ? 祝福した後にキスの一つや二つしたいんだ」
「お前、そのつもりで……!」
「キスだけがしたいわけじゃないよ。ただ我慢できそうになかっただけ」
体勢を変えてオレに覆いかぶさるような形になっていく勇の行動を止めはしなかった。心の底ではこの展開を望み、勇との距離をより縮めたいと思っていたのだ。会話が少なくなっていた日々を埋めるように、勇の顔を引き寄せる。
「あれ、トモもその気じゃん」
「悪いかよ。オレだって男だ。そういう気分にだってなるんだよ」
肌に降りかかる吐息にくすぐったさを感じながらも、オレは勇の目前で微笑んだ。
「それじゃあ、誕生日プレゼントに俺をあげちゃおっかな。誕生日おめでとう、トモ」
「有難く受け取るよ。ありがとな、勇」
ますます近付いていく薄い唇に目を奪われて、そのまま口付けた。二人分の体重でソファーが沈み込みかけるが気にもならない。何度も角度を変え啄み、深めていくのだ。誰にも邪魔をされない二人きりの空間で。
しかし不意に、二人だけの空間を崩し聞き慣れた着信音が響いた。
「電話じゃない? 出なくていいの」
ゆっくりと唇を離した勇が先に口を開いたが、オレは気にも留めずに抱き締めた。
「この着信音だったら会社の用事じゃないし、いいよ。無視無視。今は勇とこうしてたいんだ」
言い終えると再び唇を塞ぎ、激しく貪った。高校時代、無理矢理唇を奪われた時とは違う、互いに求め合う口付けに一層身も心も熱くなる。
そして体を痛めてしまうからと、勇の提案でソファーからベッドに移動をしてからも愛し合い、オレたちは数か月ぶりに体に愛を刻み合った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目を覚ますと寒さでぶるりと体が震えた。カーテンの隙間から朝日が漏れるが温もりとしては弱い。ゆっくりと寝返りを打てばベッドの周囲にはいくつもの服が散らばり、下着までが乱雑に放置されている。
掛布団と肌が触れ合う独特の感触に自分が全裸であることに気が付くと、昨晩愛し合った直後に眠ってしまったことを思い出す。
「痛てて……昨日はヤリすぎたか」
上体を起こせば腰に鈍痛が走りつい顔をしかめてしまう。
現在の時刻を確認すべくスマホに手を伸ばそうとすると、その瞬間扉の向こうから着信音が聞こえてきた。枕元のサイドテーブルの上は何もなく、リビングにスマホを置きっぱなしにしていたことに気が付く。
腰を押さえながらもベッドから降りリビングへ向かうと、暖房は入ったままになっていたが流石に全裸では冷えを感じてしまい、慌ててスマホを拾い上げた。画面を見れば数件の着信が入っており、全てが浩一からの電話だった。
温もりを求めて寝室に戻ると、ベッドの中で浩一へ電話を掛け直す。
「智樹、何度も電話をかけてすまん。昨日あの後は平気だったか? 柏木のこととか、あと、勇君とか」
ろくにコールに仕事をさせないまま電話に出た浩一は間髪入れずにオレを質問攻めにした。
「柏木には今度俺からまた厳しく言っておくからさ、今回のはあんまり気にすんな、忘れちまっていいからさ。とりあえずまずは勇君と話し合って、お互いに素直に――」
「大丈夫、もう話し合ったよ。自分に素直になれない不器用な高校生と、恋に奥手で後ろ向きだったいい年したおじさんは無事想いを確認し合ったさ。そういうお前は? 家に残してきたヤキモチ焼きのパートナーさんの機嫌を取ったりしたわけ」
「それはもちろん。ただ……一緒に居たのがただの幼馴染って言っても信用してくれなくてさ、今度会ってくれないか? 智樹さえよければなんだけど」
「いいよ。オレだってお前が一緒に住んでるっていうパートナーとは話してみたかったし」
「それじゃあ、空いてる日があったら後で教えてくれよ。こっちで都合合わせるから」
「おっけ。じゃあまあこの辺でいいか? もう少し、寝たい」
「ああいいよ。じゃあまた今度な」
浩一の返答を聞きオレは電話を切った。思わぬ予定が入ったが、きっと浩一のパートナーは勇と似ているのではないかと想像をしてしまう。ヤキモチ焼きの同居人と何処で出会い、どんな相手なのか、気になるところだ。
だがまだ寝足りないのか欠伸が漏れた。スマホをサイドテーブルに置き直してベッドに潜り込む。もぞもぞと寝返りを打つ勇はまだ眠り続け、穏やかな寝息を立てている。
「ホント、寝顔はいつ見ても可愛いんだけどな」
微笑み勇の頭部を撫でると、オレは目を瞑った。すると思わぬ言葉が返ってくる。
「可愛いのは寝顔だけ?」
目を開けば目尻を擦り眠たそうに口を開く勇の姿。まだ覚醒しきっていないのか寝ぼけた様子だが誤魔化す必要もないだろう。オレは微笑み胎児のように丸まっている勇の体を抱き締めた。
「だからそういうところも可愛いんだっつうの。ほら、昨日は遅くまで起きちまってたし、もう少し寝ろよ。んで時間が残ったら何処かに出かけようぜ」
「……うん」
「おやすみ、勇」
腕のなかで丸くなる体を優しく抱き締めながら、もう一度目を瞑った。
終
蛇口のハンドルを下ろしたオレ、本仮屋(もとかりや)智樹(ともき)は食器を洗い終えてひと息ついた。自分が夕飯を作り、居候と食事をとる。そして一休みをする前に片付けを済ませてしまう。当たり前にもなった一連の行動だが、一日の終わりを感じられるこの流れは決して嫌いではなかった。
昨年と比べ、水切りかごに並べる食器の枚数が明らかに増えた。同様に夕飯を作る手間と、食事の時間も増えたが、一人で暮らしていた去年までと比較してもとても充実している。
それは住人が増えたことが関係しているだろう。自分一人だけではなく、食べ盛りの男子高校生がいるのだ。未成年の学生と暮らす責任感は常に抱えているが、手料理を人に食べてもらう機会がなかったオレの中で日に日に調理への意欲が増していった。――居候が美味しいと満足げに頷いていたのは三か月前までだっただろうが、誰かとともに夕飯をとれる喜びは色褪せずにいた。
充足感に心を満たされ腕を思い切り天井に伸ばすと、不意に後方から視線を感じた。「ん?」とゆっくり振り返ると、スマートフォンを片手に立っている居候の姿がある。
桜田(さくらだ)勇(ゆう)、高校一年生の男子生徒だ。幼い頃は素直でよく喋りかけてくれもしたが、オレが高校に入学した辺りで会う機会が減ってしまったからだろうか。一緒に暮らしていてもなお言葉数が少なく視線を合わせて会話をする回数さえ減少傾向にあった。
だがこれでもオレ達は恋人同士なのだ。十六歳の勇と、二十八歳のオレとの関係性が周囲に知られてしまったら警察沙汰になりそうだが、勇が高校を卒業するまでの間は隠し通すと互いに決めた上で付き合っている。
もちろんただ付き合っているから居候をさせているわけではない。実家から通うよりも、オレが住むマンションから高校へ通学した方が距離も近いらしい。そう実の両親を納得させ、昔から家族ぐるみで仲が良かったオレに白羽の矢が立ったようだ。勇がオレに好意を抱いているとは露知らずに。
知っていたら拒否をしていたのか、と言われれば頭を抱えて悩んでしまう。初めて告白を受けた日以降、何度も想いの丈をぶつけてきた勇の気持ちを蔑ろにもできず、それどころかオレが彼に惹かれたのだ。
あの日、勇が流した涙は、二十八年間他人と交際する縁がなかったオレの心を救い潤わせている。
しかし当時の熱い想いが嘘のように、会話は少ない。
「お風呂は今沸かしてるから、もう少し待ってな」
「……分かった」
オレの言葉を受け、静かにリビングに戻っていく勇の後姿を目で追った。ダイニングキッチンの数歩先、リビングの中央に置いてある四人がけで黒色のソファーに座り込んだ彼は、ポケットから使い慣れたブルーのスマートフォンを取り出していた。
会話が減った理由は勇の言葉数が少ないことだけではないだろう。彼は常日頃から食事を終えた後ずっとアプリゲームをプレイしているのだ。今では夕食に手の込んだ料理を作ろうが味の感想はない。今日もそうだ。
「口に合うか?」
「ん、いつも通り」
――それだけだった。瞬間的にいつも通りってなんだよ、と声を荒らげたくもなったが、必死に怒りの感情を抑え付けた。
だがそれも虚しく胃に流し込むように慌ただしく食事を終え、食器を洗い場に運んだ勇は瞬く間にソファーに座り込んだのだ。そしてスマートフォンへと手を伸ばし、軽快な音楽とともに指を激しく動かしはじめていた。今流行りの音楽ゲームなのだろう、詳しくは分からないが時折女の子の励ますような声が聞こえてくる。男子高校生にしては珍しく女の子に興味がないと以前に言っていたが、二次元の女の子は恋愛対象とまではいかずとも関心はあるらしい。
ろくな恋愛もせずにオレのようなおじさんと共同生活をしているだけでなく、カップルとして生活をしている段階で心配はしていた。青春らしきものは何一つしていないのではないかと。
二次元の女の子に興味があるからと安心をしていいのかは分からないが、何かに熱中をするのはいいことだ。オレは頷きながら改めて手を洗いリビングへと移動をした。その足で勇の後ろに立ち、画面を覗き込む。
「なぁ、勇? それ面白いのか」
「まぁ、普通」
興味深く声をかけたものの反応は薄い。
普通ってなんだよ。そうツッコミたくはなったが、返答をしたところで邪魔をするなと言わんばかりに鋭く睨み付けられるだけだろう。反抗期真っ盛りの子供を持つ親の気持ちが最近分かるようになってきた気がする。実の子でもないし、恋人だけど。
勇とは一回り違い、オレはもう三十路手前のオッサンだ。世間的には結婚をしていてもおかしくはない年齢なのだが、話の流れに押され桜田家族から勇の子守を任せられている。コイツが産まれた時から顔を合わせているし、年の離れた兄弟のように付き合ってはきた。しかし、昔のオレは想像をしていただろうか、十数年後赤ちゃんの頃から知っている男と交際をすることになると。
だが現状、オレたちは本当に恋人同士なのだろうか。ろくな会話もなく、ただ居候をしているだけの学生と家主。それ以上でもそれ以下でもないのではないだろうか。勇はやはりオレをからかいたいがために告白をしたのか。実は恋人だと思っているのはオレだけで、付き合ってもない、だとか。
高校生活を送り始めたうちに女子生徒に恋をしている可能性だってある。一回りも違うオレに恋心を抱くなどやはり気の迷いだったのだ。勇の告白に踊らされたオレが悪い。今ならばそう言い笑って、ただのくたびれた近所の兄貴と夢と希望に溢れた男子高校生に戻れることだろう。
オレが間違っても勇との会話がない現実に悲観し、彼の身も心も得たいと思ってしまう前であれば。
「トモ、立ってないで座ったら? お風呂が沸くまでまだ時間があるんでしょ」
振り返ることなく、オレに背を向けたまま声をかけてきた勇の言葉に我に返った。「ああ、そうだな」と短く返答をし、促されるままに回り込みソファーに座り込む。
「なあ、勇」
「なに?」
「オレがお前に甘えたら、変、かな?」
「ああ、変だな。体調でも悪いのかって心配してやるよ」
「心配、してくれんだ」
激しい指の動きの合間に返ってくる言葉。邪魔をしてはいけないだろうと、ただ会話をしているだけだが、普段よりも掛け合う回数は多く年甲斐もなく嬉しくなってしまう。だが勇が心配してくれるなどらしくもなく、より一層素直に心を躍らせてしまう自分も珍しい。
にやけ顔を晒してしまわないように、ソファーに背中を預けて口元を腕で隠した。まるで初恋の相手の一挙一動に心を揺らしている女子のような反応につい自嘲したくもなるが、それでも湧き上がる喜びを勇にも伝えてしまいたくなった。
女の子のキャラクターが「パーフェクト♪ おめでとう」と告げたのを境に、勇がスマートフォンをローテーブルに置いた瞬間だった。オレは自分よりも僅かに小さな体を横から抱き締めた。十数年前と比べると圧倒的に体が大きくなっていたが、まだまだ成長期だ。もう数か月もすればオレよりも身長が高くなり、ガタイもよくなってくるだろう。女子生徒たちが放っておきもしないほどの人気者になる可能性も十二分に秘めている。
そんな彼の恋人が三十路手前の自分でいいのか改めて考えると不安でしかないが、万が一オレに別れを告げて来たら、即座に受け入れてやるのが勇の幸せを願う大人の役目ではないのか。
恋人に抱き締められてもなお表情の一つも変えずにいる勇の姿そのものが、答えだろう――。
『昔から背中を追いかけてた人と一緒に暮らせるなんて夢のようだけど、それだけじゃない。俺はトモが好きなんだ。今までどんな可愛い女子生徒に告白をされても全員フッてきた。トモが好き過ぎて、他の奴なんか目に入らなかったから』
勇が引っ越してきた日、荷解きを終えて直ぐの言葉は偽りだった可能性が浮上する。
『な、トモ。俺と付き合ってよ。今はもう、一緒に遊んでた近所のガキなんかじゃない。こうして……自分よりも大きな男を押し倒すことができるぐらい体も成長した。ただトモに対するこの気持ちだけはずっと変わらないんだ』
ソファーに押し倒したオレに跨り、今にも襲い掛かりそうなほどのぎらついた瞳で見つめる勇を忘れることはできない。
『お願い。俺と付き合ってよ。今は俺のことが好きじゃなくたって構わない。一緒に暮らしてくれるうちに好きになってもらえるように努力するから』
あの時点では過去に一度だけ他の男から鋭い眼差しで見つめられたことがあった。それがトラウマとなって他人に心を開かず、人を好きになった経験がなかったはずのオレが、心の何処かでコイツは過去の男とは違うと判断をしたのだろう。それまでに交わした唇とは全く異なり愛しさが詰まったような口付けに、その日のオレは身を委ねてしまったのだ。
そんなこんなでスタートをしたオレと勇との生活だったが想像をしていた時期よりも早く――というよりも、まさか本当に恋をするとは思いもしなかったが――勇に溺れてしまっていた。
『今までお前の気持ちに正直に応えられなくてごめんな。勇からの気持ちは初めて告白をされた時から痛いほど伝わってきてたのに、何も言えなくてさ』
勇がこの家にやってきてから一か月も経っていないある日のことだった。高校時代のクラスメイトと偶然再会し、体を汚されてしまったオレが気を動転させ、自分だけではなく激しく勇に当たり散らしてしまったのだ。
『けど、もうオレにお前を好きになっていい資格なんてないんだ。男に無理矢理犯されちまったオレなんて……お前に触れることは疎か、触れられることさえ自分じゃ許せない』
毎日のようにオレに好きだと告げてくれた勇を裏切ってしまった感が否めず、涙が止まらなかった。どんなに愛を囁いてくれたとしても、この身は既に他の男のものになってしまった。その事実が消え去ることはない。ただ怒りと悲しみに震えるオレを救おうとする勇の言葉に、年甲斐もなく涙を流した日の出来事は昨日のことのように覚えている。
しかしどんなオレでも愛すると、力強く抱き締めてくれた勇に生きる希望を与えられ、生まれて初めて愛を教えてもらったのだ。
『勇、ありがとう。こんなオレでもいいと、愛してくれると言ってくれて。優しいよな、本当に。なあ今からでもお前を好きになっていいか?』
そう言ったオレを優しく抱き締めてくれた恋人はもういない。溜息を漏らした同居人が呆れ混じりに呟く。
「いきなり何、どうしたの。らしくねーじゃん、トモから抱き締めてくるなんてさ。でも俺、今はこういう、甘えたりとか甘えられたりとかって気分じゃないんだよね。離れてくんね?」
ゆっくりとオレの方に視線を向けた勇と目が合った。温もりのないその瞳は肩を落としていくオレの姿を捉えている。それ以上の言葉はない。ただ優しさのない瞳に負けた自分が力なく腕を下ろしていくだけだった。
やはり勇は本気でオレに告白をしたわけではないのだろう。学生の間によくやる罰ゲームか何かだったのだろうか。例えば手近な奴に告白をしてみるだとか、女子生徒だけでは飽き足りず男にまで告白をするような馬鹿げた罰。オレはここ九か月もの間、男子高校生たちに馬鹿にされていたのだろう。
年齢が一回り上の、童貞で、今まで彼女がいなかったような男。男に告白されて初めは半信半疑だったが年下からのアプローチに押され、少しずつ心を奪われた挙句に、男子高校生に好意を抱いてしまうような変わり者を笑っていたのだ。
だが最近はオレを嘲笑うのにも飽きてきたのだろう。気分じゃないだの適当なことを抜かして、いつかは捨てるのだ。「告白は冗談のつもりだった。おじさんと付き合うわけもないし、男が男を好きになるはずがないだろ、気色悪い」などと捨て台詞を吐いて。
「ごめんな。らしくないっていうかやっぱおかしいよな、こんなのはさ」
ゆっくりと勇の体から距離を置き、ソファーに座り直した。様子を窺うような彼からの視線を尻目に、頭を抱えてしまう。
ありえもしない妄想だと笑ってくれ。ネガティブな童貞が一人勝手に生み出した不安だと否定をして欲しかった。今までろくに恋愛をしたことのなかったオレがやっと恋愛に乗り気になった相手が男子高校生など許されることではないだろう。それでも、大きくなり出した好意を完全に消去することなどできそうにもなかった。
勇にもっと触れてみたい。勇ともっと話をしたい。仲を深めたい。「好き」の気持ちが膨れ上がると同時に汚い欲望までもが心を侵食していくようだ。
自分の年齢を忘れてしまいたいぐらい、オレは勇に心を奪われきっていた。もう少し年齢が近ければ、同い年ぐらいだったら、勇よりも年下だったら。現実にはありえもしないことばかりを思って勇とともに居たいと願ってしまう。
「トモ、本当にどうした? 今日、なんか変だぞ」
「変、か。そうかもなあ」
――これでは二十八歳男性の皮を被った、恋に生き、恋に絶望をする女子高生だ、オレは。もういっそのことフッてくれたらいいのに。完膚なきまでオレの心を突き放して離れて行ってくれたら楽になれるはずなのだから。
頭を抱え続けたオレに、何かに気付いたらしい勇が声をかけてきた。
「おーい、変なトモ、スマホ鳴ってるぞ」
わざとらしく「変な」を強調した勇の言葉にオレは視線を上げた。食事時から置きっぱなしだったスマートフォンが何度も振動をしている。静かに手に取り画面を点灯させると、思わぬ誘いの連絡が入っていた。
使い慣れたメッセージアプリを起動すると、友人「青山(あおやま)浩一(こういち)」からの連絡が何度か届いていた。確認をすると『今週末高校時代の奴らと集まって同窓会をしようぜ』との内容だった。わいわいと楽し気にはしゃぐ動物のスタンプも添えられている。そして新たにバースデーケーキを持った犬のスタンプが送られてきた。
指定された週末の日付を再確認すると、その日はオレの誕生日だった。残念なことにその日は特に予定もなく空いている。だが一応確認をしておきたかった。
相手は男子高校生だが、恋人としてまだ想ってくれているのであれば期待をしてもいいだろうか。ただその日に一緒に居てくれるだけでいい。他には何も望みはしないから。
オレは僅かな期待を込めて口を開いた。
「勇、浩一って覚えてるよな」
「あー最近は会ってないけど覚えてるよ。それがなに?」
「そいつからさ、同窓会に誘われたから行ってくるな。今週末の十八日だ。夕飯は作れないだろうから一人で済ませといてくれよ」
わざわざ日付も伝えたのは意識をして欲しかったからだ。二十八にもなると自分の誕生日など特に関心がなくなるかと思っていたが、そんなことはないらしい。一年に一度の大切な日だ。大切な人と過ごしたい。
最初から同窓会を断れば済む話でもあるが、それでは駄目なのだ。もう一度勇の本心を知り、多幸感を得たいがためにわざとらしく伝えた。
昔のオレが、今のオレを見たら嘲笑うだろう。年下の男を前に心を揺さぶり、いい年になってもまるで純情な女の子のように不安と戦い、勇に恋をしている。
「行って来たらいいじゃん。俺は適当に食べとくから心配すんなよ」
「そ、分かった……行ってくるな」
素直になれない女の子であればここで一度や二度怒りをぶつけるだろう。本当は止めて欲しかった、折角の誕生日なのだから祝ってもらいたかった、誕生日を意識してくれないなんて最低。怒りに身を任せて喧嘩にも発展していたかもしれない。しかしオレは年上の男だ。怒りを超越した先には寂しさが広がっていた。
ただ希望が出されたままに一緒に暮らし、昔馴染みの年下男に告白をされて九か月。幼少期の頃とは比べ物にならないほど魅力的になった男に、いつしか自分も恋をし、年甲斐もなく溺れてしまった。
その成れの果てが、ただの寂しがり屋の男だ。こんなんで二十八? 笑えないな、本当に。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
人数が集まらなかったのか同窓会の会場は居酒屋だった。隣の客とは襖で仕切られているが至る所から騒がしい声が聞こえてくる。対して自分は話を聞き流すばかりで、同窓会らしい過去の友人らとの現状報告会には参加できていないといえよう。これでは周囲の人に迷惑をかけてしまうだけだろう。場の空気を壊すよりも先に、帰ってしまうべきだろうか。
飲みかけのジョッキに口をつけ思考を巡らせる。周りの会話に合わせて適当に相槌を打ってはいるが、同窓会が終わってしまえばすぐにでも忘れてしまうだろう。それだけ今は他人の話よりも自分のことで頭がいっぱいなのだ。
たかだか同窓会が始まる前に「同窓会に行ってくるからな。夕飯、しっかり食べろよ」と勇に連絡を入れ、既読無視をされているだけ。ただそれだけで気もそぞろになってしまうようなオレが、他人の順風満帆な生活の話に意気揚々と混ざれるはずがない。
会話を聞き流しながら静かに飲み進めるもジョッキは空にならず、不思議と虚無感に包まれていくばかりだ。――隣にある男が座り込むまでは。
「智樹じゃねーの。普段は同窓会なんざ来ないくせに、今日はオレに会うために来てくれたんだな、あんがとよ」
一人の男がやってきただけで和んでいた空気が突如として冷え込んだ。周囲に座っていた当時のクラスメイトたちが一気に距離を置き離れていく。
「柏木。お前が何でこんなところにいるんだ!」
昔から何も変わっていない女性受けする顔立ちにすらりとした体躯。当時から女子生徒にモテていたが、大人になった今は何処か危険な香りが漂う雰囲気に人気は未だ健在なのだろうと勘繰ってしまうが、とんでもない、こいつは最低最悪の男だ。
「何でって、クラスメイトだったろ? 同窓会で会うのは当たり前じゃん? それにオレとお前の仲なんだ、いいじゃねーかよ。アンなことやこんなことだってしたじゃねーの」
記憶の片隅に遠ざけていたはずの出来事が徐々に侵食してくる。体が震え、今にも逃げ出したくなってしまう。
「お前と仲を深めたつもりは今も昔もないよ。下らない嘘をつくな」
「嘘ねえ。あの日の行為を覚えてないわけ? 一から丁寧に説明してやろうか」
寂寥としていた心の中に苛立ちが募る。柏木の言動は数か月前と何一つ変わっていない。相変わらず妙にオレに絡み、蛇のように執拗にまとわりついてくるのだ。
震えと恐怖に打ち勝ち、今にも手を出したくなってしまうが、あの日、オレを愛してくれると誓った勇の姿が過る。どんなに返信がなくたって、あいつはオレの隣に居続けてくれると信じ、必死に自分を奮い立たせる。
「折角久しぶりに会えたんだぜ? そんな悲しいことは言わないでくれよ、な、トーモ」
だがどんなに決意を秘めようとも、耳元に吹きかけられる無駄に空気を含む吐息に怖気が走った。
この感覚は過去にも味わったことがある。高校二年生の夏、柏木に突然呼び止められ体育館裏に連れられた日のことだ。何食わぬ顔をしてオレを壁際に追い詰めると、耳元で『メチャクチャにしてやる』と囁いてきた。
言葉の意味を理解するのに時間がかかってしまったオレは身を強張らせることしかできず、次の瞬間には乱暴に唇を塞がれていたのだ。まるで世界全体がスローモーションになってしまったかのように一度瞬きをすると五秒、いや十秒以上の時間がかかっている感覚だった。口で呼吸をしようにも、柏木の名前を呼ぶこともできない。腰元のバックルが揺さぶられ金属音が立つまでオレは状況を把握できずにいた。
どのくらいの時間が経ったのかは分からない。だが一瞬だけ唇が離されたかと思うと柏木が卑しく微笑んだのだ。
『初めての相手が可愛い女の子じゃなくて残念だったな。けど喜んでくれよ。オレさ、智樹、お前のことが好きなんだ。大事に大事に扱って、お前を女にしてやるよ』
今までに感じたことのない種類の恐怖が全身を駆け巡った。鼓膜を揺らす柏木の言の葉に心臓が激しく脈打ち異様なまでの寒気に襲われる。そしてゆっくりと耳元から彼の顔は離れていくが肌に降りかかる僅かな吐息さえもが背筋を凍らせた。
オレの唇を撫でるように指先を這わせる柏木の瞳は毒蛇のそれそのものだった。目の前で震える鼠を逃さないよう瞳をギラつかせ、舌なめずりをしている。
――コイツは危険だ。脳が警鐘を鳴らした。この場にいてはいけない、柏木という男は人間の皮を被った毒蛇だ。一度翻弄されてしまったら最後、首筋に牙を立てられたまま、心を犯されきるまでまとわりつかれるだろう。
「ふざけるな!」
唇から下顎と、静かに辿っていた柏木の手を払い落とした。まだ微かに残る耳朶に吹きかけられた吐息の熱を気にしている余裕はない。オレは無我夢中だった。勢いよく柏木の体を突き飛ばした途端に、叫び声すらもあげてしまいたくなった。
だが幸か不幸か、コンクリートを踏みしめる足音とともに、聞き慣れた男の声が耳に飛び込んできたのだ。
「探したぞ! 智樹」
それは幼馴染、浩一の声だった。高校時代だけではなく、今なおオレにとっての救世主だ。
「柏木。過去にフラれた男がしつこく付きまとってるなんて、気持ち悪いぞ。今も昔も、智樹はお前なんかに興味はない。こいつの隣は俺の居場所だ。さっさと退けよ」
「げっ、青山っ! ったく、何年経っても智樹の隣には厄介な男がいるんだな。イヤになるぜ。はいはい、愛しの智樹君に手を出してすみませんでしたー。オレが悪かったよ、じゃあな」
あの日、浩一がオレを救ってくれたように、どうしてか柏木に絡まれていると助けに来てくれる。理由は分からないが、オレにとっては感謝しかない。
何処か怯えた様子で立ち上がり別の席に移動をした柏木の後姿を見て、大きく息を吐く。思い出したくもない過去に心を侵食され、喉が異様なほど渇いてしまっていた。飲みかけていたジョッキを一気に飲み干すと、喉を伝う感触に少しずつ緊張も解れてくるが、解消しきれない不快感だけが残されてしまった。
「浩一、ありがとうな。それと面倒かけて本当ごめん」
「何言ってんだよ。お前が謝る必要はないだろ? 元はと言えば今も昔も柏木がお前に手を出したのが悪いんだよ。あんだけ痛めつけたっていうのに、懲りていないようだし」
茣蓙に腰を落としながらそう告げた浩一の言葉に耳を疑ってしまう。
「痛めつけた?」
想像もしていなかった物騒な言葉に眉間に皺を寄せてしまったが、浩一はお前が気にすることじゃないと言わんばかりに口元を小さく綻ばせている。
オレは何やら不穏な空気を漂わせる浩一の言葉を深く追及することもできずに再びスマホに視線を落としてしまった。そんなオレを気にしてか浩一が優しく声をかけてくる。
「ところで智樹、柏木がお前に声をかける前から、気にしてはいたんだけどさ、同窓会に来てからスマホばっか見てたけどどうした? 他の奴らと話してたからなかなか席を離れらんなくてさ、訊くのが遅くなっちまったけど……今日、あんま乗り気じゃなかったのか」
割り箸でから揚げやサラダを摘まんだ浩一がオレの前に取り分け皿を置いた。同窓会が始まって早くも三十分が経とうとしていたが、周囲にはついさっき空になったばかりのジョッキと綺麗なままの取り皿のみが置かれるこの状況で、未だに食事に手を付けていなかったオレを気にかけてくれたのだろう。昔から気が利く奴で周囲への優しさを持ち合わせている。学生時代から絶えず恋人がいるのも頷ける。
感謝の気持ちを示して小さくお辞儀をし、から揚げを口に運んだものの食欲は湧いてこなかった。申し訳ない気持ちでいっぱいになるが、オレ以上に浩一の方が下唇を噛み締めている。
「ごめんな、柏木が同窓会に参加することを事前に知ってれば、辛い目には遭わせなかったのに……」
「浩一が謝る必要もないだろう? それにお前には何度も助けてもらってるし、何回お礼を言っても足りないくらいだ」
「好きでお前を助けてるんだ、気にするなよ」
周囲の騒がしさと比べると、浩一との間に流れる空気は実に穏やかで互いに口を閉ざしていても不安にはならない。だが会話もなく、食欲も湧かないとなるとつい返信ばかりを気にしてしまう。しかしそれではいけないと周囲を見渡すと、昔と変わらない雰囲気に少しずつ安堵していく。
男子高時代の同窓会ともなると、むさ苦しい男や今なおヲタクで居続けている奴もいれば、結婚し指輪を嵌めている奴もいる。高校を卒業して十年、未来というものは想像し難いもので、まさか自分が恋人からの返事がないことにここまで気落ちするものなのかと肩を落としてしまう。
折角の場で気を落とし続けるのもどうかと自分を奮い立たせるつもりで取り皿に手を伸ばすが、どうしても気が進まなかった。
「浩一、オレはさ、別に嫌々来たわけじゃないんだ。皆の話を聞いてるだけで楽しいし。昼飯を食いすぎちまったんだろうな、今はちょっと食欲がないだけだよ、ごめんな。それと……ちょっと気分が優れないからさ、外の空気を吸ってくるわ。十分ぐらいで戻ってくるから、浩一は同窓会、楽しんでてくれよ」
一人塞ぎ込んでこの場の雰囲気を乱すのもイヤなオレは、浩一にそう声をかけるとスマホを片手に居酒屋を出てしまった。他の奴らには飲み過ぎたからなどと嘯いて適当にやり過ごしたが、浩一はきっと何かに気付いているだろう。すぐに追ってこないのは彼なりの優しさか。
入店する他の客とすれ違いながらも身を冷やすほどの冬の夜風が躍る外に出た。週末、そして十二月も中旬で年末に差し掛かっていることもあってか多数のサラリーマンが足並みを乱しながら歩いており、二次会の居酒屋やカラオケボックスを探している。
アウターを取り忘れたオレはその身に刺さる風の冷たさに勢いで居酒屋から出てきてしまったことを後悔したが、直ぐに戻る気にもなれず、寒さを堪えるように自分の体を抱き締めた。その時だ。行き交う人の波を眺めていると、見慣れた男が歩みを止めていた。
そいつと顔を見合わせると互いに驚いてしまった。だが行き交う人に背中を押されてしまったのか、ゆっくりこちらへと歩み寄ってくる。
「勇、どうしてお前がここにいるんだ?」
茶色のコートに身を包む勇は当たり前ではあるが防寒対策がばっちりで、今のオレの状態とはだいぶ異なっている。温もりある服装をつい羨み喉から手が出てしまいそうなほどだったが、冷静を装う。
人を避けこちらに近付く勇を前に腕を組み直した。
「同窓会、参加しなくていいのかよ」
「質問してるのはオレだ」
「誰かさんが夕飯を作ってくれないから、友だちと食べたんだけど、なんからしくなくない? トモ。お酒が弱いタイプでもなかったのに同窓会から抜け出してどうしたんだよ。しかもアウターも着ないで寒そうじゃん」
勇にさえ普段と違うと勘付かれてしまったのだろうか。訝しげにオレを見つめる彼の瞳に不覚にも息を呑んだ。曇りのなかったはずの瞳が不意に揺れ、光さえ届かない闇が双眸には広がる。
「トモ、もしかして俺に言えないような誘いでもされたわけ?」
勇の感情の起伏が読めない。忽然と怒りを孕んだ声色で迫りくるその様子にオレは身を強張らせてしまった。柏木の眼差しとはまた異なる揺るぎない瞳。心をひどく惑わせ揺さぶる勇の目に、鼓動が激しくなる。
オレはこの目に弱いのだろう。勇がオレに告白をした後に見せた、辛うじて理性を繋ぎ留めている瞬間の瞳に。
「ホントどうしたんだよ」
言い逃れることを許さないとでも言わんばかりに、さらに訊かれてしまう。明らかにオレの返答を待つ勇は腕を組み始めた。
「別になんでもねーから」
しかし事情を話すのはオレのプライドが許さなかった。勇からの返信がなくて寂しかったなどと言えるはずもない。
勇はそんなオレの気も知らずにますます鋭い視線を向けてきた。
「だから、何でもないんだって。オレが送ったメッセージを無視し続けるようなお前には関係ねーの!」
視線に負け、口を閉ざすこともできず、かと言って上手く言い包めることもできない。自分よりも年下の奴に言い責められて声を荒らげてしまうのは大人げないと頭の中で理解してはいるが、それ以上の言葉が出てはこなかった。遠回しに返信が欲しかったと言っているようなものだったが、結局は伝えるつもりのなかった感情が表に出てしまったのだ。
相変わらずオレを見つめる勇の瞳は揺るがないが、徐々に柔らかいものに変わっていく。
「俺が返信しないでいたの気にしてたんだ。なんか、ごめん」
「あ、いや、いいけど……」
――やっぱりよくはないけど。
普段の少しぶっきらぼうで平謝りを重ねる勇に戻っていた。先程までの威圧的な態度からは一変、目も合わせてくれず、素直に感情を表に出さない彼だ。唇を薄く開き新たに何かを言いかけているが、ゆっくりと閉ざしてしまう。だがオレが覗き込むより先に口を開いた。
「同窓会、つまらないなら一緒に帰んね? 寒いなか突っ立ってんのもだるいしさ」
小さく身を震わせた勇は居酒屋の入り口を指していた。
同窓会から飛び出した時と比べると気分も落ち着いてきたが、このまま帰ると柏木から逃げるような形になってしまう。面と向かって会話をしなければ奴の怪しい言葉に耳を傾ける必要もないだろう。それに一人気落ちしたままで場の雰囲気を壊してしまっていたのではないかと思うと、この後は盛り上げるように努力したり、旧友たちとの思い出話に花を咲かせるのも重要だろう。
「トモ、どうする?」
勇の問いかけに頭を悩ませてしまうが、不意に居酒屋の入り口が開かれた。
「智樹、気分が悪いなら一緒に帰ろう。他の連中には俺が適当に話をしておいたからさ」
二人分の荷物を抱えた浩一だった。
「……青山さん」
「久しぶりだね、勇君」
勇も浩一も特別驚いた様子もなく視線を重ねるがそれ以上の会話はない。何かを察し合っているのか、次の瞬間にはオレへと視線を移している。
「実はさ、今一緒に住んでるパートナーが嫉妬深くて、帰ってくるようにうるさいんだ。それに智樹も何か大切な話をしたい人がいるんじゃないかと思ってさ、帰っちゃおーよ」
有無を言わさぬ浩一はオレにコートを渡すと微笑んでいた。全てを見透かしているかのような言い方に呆然としてしまうが、勇の提案には梃子でも動かなかったはずなのに、浩一に言われてしまうと流されるがまま身支度を整えてしまう。
「浩一、ちなみに反対意見は?」
「もちろん、聞かないよ」
「勇君も、それで構わないでしょ?」
「ええ、まあ」
「それじゃあ意見もまとまったことだし、帰ろっか」
勇の肩を抱いた浩一は意気揚々と歩き出した。二人の声色の温度差は明らかで、押しに弱いオレのせいではあるが、勇も何処か浩一には一切の反論ができずにいる。それは幼い頃から変わらず、近所の年上のお兄さんという感覚だけではなく、目尻を下げて微笑む浩一にはきっと敵わないとでも思っているのだろう。浩一を前にしている時の勇は大体眉間に皺が寄っている。
「勇君、元気してた?」
「ええ、まあ」
「その返しばっかり、つまんないの」
居酒屋から帰る途中常に勇の眉はハの字の逆を描いていた。浩一も気付いているだろうが何も言わず、久しぶりに会った勇に質問を投げかけ続けている。
居酒屋から自宅へは電車を使わず徒歩圏内だが、浩一が電車を利用するため一緒に西ノ森駅に向けて歩いていた。その道中だった。
「そうだ、勇君。今日が何の日か知ってる?」
浩一の問いかけに心臓が大きく飛び跳ねた。今まではろくに誕生日を気にしなかったにも拘らず、何の意味もなく浩一がそんな質問をするはずはないと勘繰ってしまう。
「何の日って、トモの誕生日でしょ? それがどうかしたの」
「正解。よくできました」
意識せざるを得ない質問だったが会話は広がらない。オレも何も言えず、ただ期待をしているだけになってしまう。まだ勇からは何も言われてはいないのだ、おめでとうも、何も。
「それじゃあ今度は智樹に質問。今日の同窓会さ、スマホばっか眺めてたでしょ。大事な連絡でも待ってたの?」
ぎくりと音が漏れてしまいそうなほどの衝撃だった。核心を突いてくる言葉に遂に溜息をついてしまう。その溜息に気が付いたのか勇がこちらを見遣る。
浩一にはオレたちが付き合っているのを伝えてはいるが、それだけだ。現在の会話もろくにしていない状況やオレだけが一方的に想っているのではないかと不満を漏らした覚えもない。
「お前は昔っからお見通しだよな。オレが何を考えて、何で気持ちが入ってないのか、とか」
「気付いてないとでも思ってたの? 智樹が落ち込んでるところなんて誰でも分かるさ」
「誰でも?」
「あぁ。気付かないのは空気が読めない馬鹿か、自分の気持ちに素直になれなくなった高校生くらいだろうな」
浩一の言葉にふと首を傾げてしまう。一体誰のことを指し、何を知っているのだろう、そう思い至ったのも束の間、勇がわざとらしく咳払いをしていた。次に浩一の方を見返すと意地悪く微笑んでいる。
「なんて俺が言えるのはここまでかな」
浩一は勇に謎のアイコンタクトを取り満足そうだ。
「――青山さん」
勇が何かを言いかけたその瞬間だった。道端にアップテンポな着信音が流れる。これはオレのスマホでも勇の物でもない。とすると。
「ごめん、ちょっと出るけど、いい?」
コートのポケットからスマホを取り出した浩一が申し訳なさそうに手のひらを縦にし、こちらに向けて謝るような姿勢を見せた。オレと勇は互いに顔を見合わせてから、再び浩一の方へと見遣り頷く。
それを確認してから浩一が電話に出た。一度溜息を漏らしていたものの優しく愛に溢れた声色だ。きっとさっき言っていたパートナーなのだろう、余程浩一の帰りを待ち望んでいるようにも感じられる。
オレと勇は特に会話をするわけでもなく、浩一が通話を終えるのを待っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「浩一、すぐ帰ってったな」
「よっぽど電話の相手は青山さんの帰りを待ってるんだろうな。それなら最初から同窓会に行かせなきゃいいのに」
浩一が慌てて最寄り駅にまで駆けて行き、微かに雪が舞う夜道に残されたオレたちは、静かに会話をしながら自宅までの道を歩いていた。
「それにしても別れる直前、青山さん、俺のことを煽ってたよな? 電話の相手と俺が似てるなんてさ、バカにしてるでしょ。俺は別に電話で早く帰ってきて欲しいとか言っちゃうほど寂しがり屋でもヤキモチ焼きでもないんだけど」
「バカにしたつもりはなかったと思うぞ。アイツはつい嫉妬をしてくるパートナーのことが可愛くて仕方がないんだろうし、勇みたいになかなか素直になれない弟みたいな奴を可愛がってくれてるだけだって」
「小さい頃ならまだしも、高校生にもなってあの人に可愛がられたくもないけどね。つか可愛がってるっていうかおちょくってるだけじゃん、あの人の場合」
幼い頃はオレと浩一の背中を追いかけ「遊んで」と乞うていたはずの勇が、年を重ねるにつれて何処か冷たく距離を置いているように感じてしまうのは自分がまだ勇を子供扱いしているからだろうか。もうそろそろ身長も抜かれてしまいそうなほど成長し、大人になり始めている勇からの脱却が図れない証とも取れる。
だがあの頃と今とで違うのは、オレとコイツが恋人同士であることだ。距離を置かれてしまったら、オレよりも魅力的な人間に出会ったのだろうと不安がり、彼の将来を想えば別れることさえ考えるべきと思い至る。
しかし実行に移せないのは――オレが勇を好きだからだ。過去、弟のように思い心配し背中を追いかけて来てくれるその様子に胸を躍らせたのとは違い、今は弟ではなく、歩幅を合わせて隣を歩き、愛のもとで汚らしい欲望さえも抱いているのだ。
「いーや、オレにとってもお前は可愛い奴だよ。今と昔とでは可愛いの意味合いが違うけど、そう気付かせてくれたのは勇が何度も告白をしてくれたからだ。それまで見せたことのなかった真剣な顔して想いを溢れさせてるお前の好きだって言葉が気付かせてくれたんだ。ありがとな、勇」
「ホントらしくないな。トモがそんな風に俺への気持ちをぶつけてきてくれるなんて。びっくりしちゃうよ、慣れてもないし」
照れたように俯く勇が静かにオレの冷えた手を握った。周囲には通行人がいて、つい振り払いたくなってしまうがそれが叶わないほど力強く握られている。
「けど、その……本当は同窓会に行ってほしくなかったとか……トモを独り占めしたいとか心では思ってるのに、普段は全然素直になんかなれない俺を好きになってくれて、ありがと」
今日は久しぶりに感じた勇の手のひらの熱と感触に全てを委ねてしまうことにした。
「手、離さなくてもいいのかよ」
「いいんだよ。今日は、このままで」
雪が舞う夜道。オレら以外の通行人がいても関係ない。数メートル先で点滅しかけている横断歩道へ急ぐこともなく、絶えず手を繋ぎ続けてしまおうと決めたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
帰宅したオレたちは、冬の夜風で冷えてしまった体を温めるようにソファーの上で横並びに座っていた。相変わらず手を繋いだままで互いの呼吸音だけが室内に響き渡っていたが、同時に体の内側から熱くなってしまうような緊張感に包まれていた。互いの手のひらには無意識に力がこもり、何も言えぬまま静かに時が過ぎていく。
テレビも点けず、どちらかが口を開くのを待っている状況が続いた。
「トモ、俺の話、聞いてくれる?」
先に沈黙を破ったのは勇だった。短く「ああ」と相槌を打ち頷くとゆっくりと言葉が紡がれる。
「帰り道でも言ったけど、ホントはさ、同窓会になんか行ってほしくなかったんだ。二人でトモの誕生日を祝いたかったから。正直俺は素直に喋れるような奴じゃないって自覚はしてるんだけど、誕生日当日までに何度も何度も言おうと思ったんだ。誕生日の日は予定を空けといてって。そんで特別なお祝いってか、あまりにも高いプレゼントは用意できないから、その日くらいは俺がご飯を作ってあげたりとかしてさ、普段抱いてるトモへの感謝だったり、気持ちを伝えたかった」
一呼吸を置きながら丁寧に囁かれる本心の数々に胸が熱くなるようだった。普段は口が悪く冷たい言い方をしてくるような勇だが、優しく温もりのある口調で語ってくれる気持ちに笑みが零れる。
ゆっくりと目線を合わせては再び耳を傾けた。
「トモ、大好きだよ。俺なんかまだまだ子供っぽくて、トモからしたらただのガキかもしれない、いや、トモのことだから自分が年上だからって告白を受け入れたことに負い目を感じてるかもしれない。でもそんな必要はないってことも言いたかったんだ。俺はいくつ年が離れていようがトモが好きだし、これからもずっと一緒に生きて行きたいと思ってる。だから――」
「オレも、気付いたら勇と同じ気持ちになってたよ。お前の言う通りどうしてオレなんだろうって不安にもなるし、お前の人生の選択の幅を狭めているんじゃないかとも思った。だけど、これだけは分かる。やっぱりお前は昔から嘘をつくような奴じゃない。いつだって素直になれなくて、ちょっと意地を張る子供っぽいところが残ってるのがまた可愛くてさ、一緒に住んでみると余計にその気持ちが深まっていった。少し時間はかかっちまったけど、オレもさ、お前を好きになったんだよ」
勇の言葉に感化されてか、オレも本音を漏らした。普段であれば伝えられようもない本心の数々につい恥ずかしくなりつつも、彼の頭を静かに撫でた。昔もよく勇を褒めるためにこうしていたが、今は違う。――今は愛しむような優しい瞳で見つめながら恋慕を込める。
「けどな、勇。まだ聞いてない言葉があるんだ。……まだ誕生日を祝ってもらってねーよ」
自分から求めるのは違うような気がしたが、どうしても聞きたかった。居酒屋では柏木のせいで落ち込んだが今日はおめでたい日なのだ。この言葉をなくして一日は終われない。
「ごめんごめん、わざとじゃないんだけど、伝えたい気持ちが多すぎて、頭の中がパンクしそうだったんだ。もちろん、ちゃんと言うから、ちょっとだけ体の力を抜いてよ」
「は? 力を抜くったっていきなり、何だよ」
思わぬ彼からの頼みに言い返してしまうも、するりとオレの手のひらから逃げて行った勇の手で両肩を強く押される。そして力に負け、後ろ向きにソファーに倒れ込んでしまった。クッションに背中を預けた感覚はあったが、突然すぎる展開に思考が追い付いてはいない。
天井をバックに勇が目前五センチにまで迫る。
「おいおい、いきなり積極的すぎないか、勇」
「たまにはいいじゃん。今日はトモが生まれた記念日だよ? 祝福した後にキスの一つや二つしたいんだ」
「お前、そのつもりで……!」
「キスだけがしたいわけじゃないよ。ただ我慢できそうになかっただけ」
体勢を変えてオレに覆いかぶさるような形になっていく勇の行動を止めはしなかった。心の底ではこの展開を望み、勇との距離をより縮めたいと思っていたのだ。会話が少なくなっていた日々を埋めるように、勇の顔を引き寄せる。
「あれ、トモもその気じゃん」
「悪いかよ。オレだって男だ。そういう気分にだってなるんだよ」
肌に降りかかる吐息にくすぐったさを感じながらも、オレは勇の目前で微笑んだ。
「それじゃあ、誕生日プレゼントに俺をあげちゃおっかな。誕生日おめでとう、トモ」
「有難く受け取るよ。ありがとな、勇」
ますます近付いていく薄い唇に目を奪われて、そのまま口付けた。二人分の体重でソファーが沈み込みかけるが気にもならない。何度も角度を変え啄み、深めていくのだ。誰にも邪魔をされない二人きりの空間で。
しかし不意に、二人だけの空間を崩し聞き慣れた着信音が響いた。
「電話じゃない? 出なくていいの」
ゆっくりと唇を離した勇が先に口を開いたが、オレは気にも留めずに抱き締めた。
「この着信音だったら会社の用事じゃないし、いいよ。無視無視。今は勇とこうしてたいんだ」
言い終えると再び唇を塞ぎ、激しく貪った。高校時代、無理矢理唇を奪われた時とは違う、互いに求め合う口付けに一層身も心も熱くなる。
そして体を痛めてしまうからと、勇の提案でソファーからベッドに移動をしてからも愛し合い、オレたちは数か月ぶりに体に愛を刻み合った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目を覚ますと寒さでぶるりと体が震えた。カーテンの隙間から朝日が漏れるが温もりとしては弱い。ゆっくりと寝返りを打てばベッドの周囲にはいくつもの服が散らばり、下着までが乱雑に放置されている。
掛布団と肌が触れ合う独特の感触に自分が全裸であることに気が付くと、昨晩愛し合った直後に眠ってしまったことを思い出す。
「痛てて……昨日はヤリすぎたか」
上体を起こせば腰に鈍痛が走りつい顔をしかめてしまう。
現在の時刻を確認すべくスマホに手を伸ばそうとすると、その瞬間扉の向こうから着信音が聞こえてきた。枕元のサイドテーブルの上は何もなく、リビングにスマホを置きっぱなしにしていたことに気が付く。
腰を押さえながらもベッドから降りリビングへ向かうと、暖房は入ったままになっていたが流石に全裸では冷えを感じてしまい、慌ててスマホを拾い上げた。画面を見れば数件の着信が入っており、全てが浩一からの電話だった。
温もりを求めて寝室に戻ると、ベッドの中で浩一へ電話を掛け直す。
「智樹、何度も電話をかけてすまん。昨日あの後は平気だったか? 柏木のこととか、あと、勇君とか」
ろくにコールに仕事をさせないまま電話に出た浩一は間髪入れずにオレを質問攻めにした。
「柏木には今度俺からまた厳しく言っておくからさ、今回のはあんまり気にすんな、忘れちまっていいからさ。とりあえずまずは勇君と話し合って、お互いに素直に――」
「大丈夫、もう話し合ったよ。自分に素直になれない不器用な高校生と、恋に奥手で後ろ向きだったいい年したおじさんは無事想いを確認し合ったさ。そういうお前は? 家に残してきたヤキモチ焼きのパートナーさんの機嫌を取ったりしたわけ」
「それはもちろん。ただ……一緒に居たのがただの幼馴染って言っても信用してくれなくてさ、今度会ってくれないか? 智樹さえよければなんだけど」
「いいよ。オレだってお前が一緒に住んでるっていうパートナーとは話してみたかったし」
「それじゃあ、空いてる日があったら後で教えてくれよ。こっちで都合合わせるから」
「おっけ。じゃあまあこの辺でいいか? もう少し、寝たい」
「ああいいよ。じゃあまた今度な」
浩一の返答を聞きオレは電話を切った。思わぬ予定が入ったが、きっと浩一のパートナーは勇と似ているのではないかと想像をしてしまう。ヤキモチ焼きの同居人と何処で出会い、どんな相手なのか、気になるところだ。
だがまだ寝足りないのか欠伸が漏れた。スマホをサイドテーブルに置き直してベッドに潜り込む。もぞもぞと寝返りを打つ勇はまだ眠り続け、穏やかな寝息を立てている。
「ホント、寝顔はいつ見ても可愛いんだけどな」
微笑み勇の頭部を撫でると、オレは目を瞑った。すると思わぬ言葉が返ってくる。
「可愛いのは寝顔だけ?」
目を開けば目尻を擦り眠たそうに口を開く勇の姿。まだ覚醒しきっていないのか寝ぼけた様子だが誤魔化す必要もないだろう。オレは微笑み胎児のように丸まっている勇の体を抱き締めた。
「だからそういうところも可愛いんだっつうの。ほら、昨日は遅くまで起きちまってたし、もう少し寝ろよ。んで時間が残ったら何処かに出かけようぜ」
「……うん」
「おやすみ、勇」
腕のなかで丸くなる体を優しく抱き締めながら、もう一度目を瞑った。
終
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