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憎奪戦争編

後でやろう、明日やろう、は馬鹿野郎だにぇ!

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【マリニウム地方山岳帯】
元魔王がかつて自分の右腕として頼っていた吸血鬼の始祖【ディー・アモン伯爵】との突然の邂逅、その彼に意思表示を求められたヨシュア。話は一段落し、コウモリに変化して去って行った…その出来事に言葉を無くし佇んでいた一行だったが…カルーアが口を開く

「さて、そろそろ出発しようよ。わたしは早くヒイロに会いたいんだよ」

「そうですわね。お兄様の事が心配ですの」

ヒイロの事が心配な三姉妹。特にカルーアは、早くマリニウム王国に出発したい気持ちだった。そして、聖騎士勇者隊も出発しようとした時、ミャンジャムが大きな声をあげた

「あぁーっ!!私(ワタクシ)、聖騎士を務めていますのに大量殺人を犯した吸血鬼(ヴァンパイア)を見逃してしまいましたわっ!!こんな事、お城に報告出来ませんわ…」
 

人々を守るのが務めの聖騎士であるミャンジャムは、人々の生命を奪ったディー・アモンを見逃してしまった事を悔やんでいた

「いや、見逃しておいて正解だと思うぜ」

「何よ!貴方の父親の元片腕だからって見逃すべきだって言いますの!?」

聖騎士勇者隊に自分が元魔王(ザッド)の息子だとは言ってはいたが、嫁さんの身体に憑依してキウと名を変えて生き延びている事は伏せている。そんなヨシュアがディー・アモンを見逃して良かったと言うのは…

「ちげーよ。ディー・アモンが半端なく強いからだよ。俺も実際に見た訳じゃねーが、魔族の中で最強なのは元魔王(オヤジ)で、その次が徳川有栖、3番手と言われているのが奴だからな。あの男は、徳川 有栖が現れる前は【最強の魔女】と呼ばれていたフュールよりも、強さでは上だと認められていた。って話だぜ……仮に、今この場にいる全員で戦っていたとしたら、俺らの方が負けていたかもな…そんだけ奴は強いらしいぜ」

「そうだったのですか…すみません。私(ワタクシ)とした事が、少し熱くなっていた様ですわ…」

「気にする事はないと思うよ。古の秘術【七精守護霊】を継承しているわたしも、奴の強さに足が震えて何も出来なかったんだよ?」

どうやらカルーアも、ディー・アモン伯爵の強さを肌で感じ取っていたようだ。少し前に別の場所でエーデもミクイから言われていたが…「まるで勝ち目の無い相手に感情で突撃して無駄死にするのは愚かな行為だ」

なので、あの男を見逃した事も致し方ない事だった。と、反省したミャンジャムを諌(いさ)めて聖騎士勇者隊と三姉妹たちは、マリニウム城へと急いだ


【大社南の集落】
「で、で~…」
 

「起きちゃ駄目よ、ボッチちゃん。お水を持ってきてあげるから寝ていなさい」

古代遺跡の奇妙な化学治療を施して、回復したボッチちゃんをリヤカーに乗せて、約1時間を掛けてログハウスに戻って来たのだが…

「おい爺さん!ボッチちゃん、帰ってきてからまた具合が悪くなってきたぞ!一体どうなってるんだ、あの施設で治療は済んだんじゃなかったのかよ!?」

「いえ、むしろ治療に行く前よりも悪くなってるわよ。お爺さん、これはどういう事なの?」

古代遺跡を後にしてからまだ1時間ちょいしか経っていないのに、ボッチちゃんのこの苦しがり様は異常としか言いようがなかった

「教えてくれ爺さん。出会った時は最悪な印象な俺たちだったけどさ、ボッチちゃんの優しさに救われてよ本気でチカラになりたいと思ってるんだ!彼女のこの苦しみ方には何か特別な理由があるんだろ?頼む!その理由を教えてくれ」

「私からもお願いします。あの子の事を妹みたいに感じてきているの。もう無関係では居られないわ!」

ラデュードもプディングも、ボッチちゃんの事を本気で心配しているので、彼女の苦しむ理由を知りたくて仕方ないようだ

「……良いじゃろう。お主らは信頼しよう。ボッチ様はこの星の人間ではないのじゃ…」

「何!?どういう事だ?」
「それっていったい?」

ボッチちゃんはこの星の生まれではない。その話に驚く自称北の勇者の2人

「ボッチ様は、この星から遙か遠くのソラにあるという星【地球】からやって来た一族の生き残りらしいのだ」

「地球?」

伝承程度でしか地球の事を知らない2人とって、お爺さんが話す内容はまるで理解出来なかった。しかし、ソレがボッチちゃんの容態の悪化と何が関係あるのだろうか?



【オヅベルド邸】
「お父様は好きな医療に従事していれば良いかもしれませんけど、ミーコは悪どいやり方で戦争にチカラを利用されるのは真っ平ゴメンだにぇ!」

オヅベルド邸では、数ヶ月ぶりの再会をしている親子が激しく口論を繰り広げていた

「他人より秀でた能力(チカラ)を持てたのなら、ソレを最大限に活かしていくべきではないのか?」

「でゃまれ!!ミーコは人々が笑って平和に暮らせる世の中を作る為に、この能力(チカラ)を使いたいにぇ!政治に利用されたり、他人の意志を捻じ曲げて洗脳するなんてしたくないにぇ!」

ホロミナティのメンバーの前で常にユルユルしていたミーコだが、父親との意見の出し合いには意外に熱い面を見せていた

「お前の考えも分からなくもないが…人は自分がやれる事をやれば良いのではないか?」

「ミーコは、そうは思わないにぇ。平和の為にやる事は選ぶべきだにぇ!ましてや、強いチカラは使い所を誤ってはイケないにぇ!」

「世の中はそんなに簡単ではないだろう?遠回りをしたとしても困難であればある程、正義や倫理観を後に回してでも今やれる事を取り敢えずやるべきだろう!」

ミーコは平和を追い求める姿勢を示し、父親は正義に反する行為でも自分のやれる事をやるべきだと主張したが、それがミーコの勘に触った

「良い加減にデャマレっ!!後でやろう。明日やろう。はバカ野郎だにぇ!……やっぱりお父様とは分かり合えないにぇ!」
 

普段大声を出さないイメージのミーコだが、今は別人のように威勢よく自分の父親にタンカを切っていた

「ミーコ様、限界ですよ!そろそろ引き上げないと魔獣族の負傷者たちがコチラにやって来ていますぅ!」

建物の外で見張りをしていたコヨリィが、ここへ治療にやってくる魔獣族を見付け、撤収することを促す為にミーコを呼びに入ってきた

「ミーコはもう行くにぇ。たぶん、もう会うことは無いと思うにぇ。さらばだにぇ…」

「私達は考えこそ噛み合わなかったが…元気でな娘よ、お前はお前で信念を貫いて生きよ…」

ミーコは父親の言葉に振り返ることも、返事をすることも無かったが…小さく右手をあげてオヅベルド邸から消えていった



続く
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