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憎奪戦争編

アサシンマスターのミクイ

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【アルバート家】
「道案内は確保出来たんだから、早くわたし達もマリニウムに向かおうよっ!」

聖騎士のミャンジャムに道案内を引き受けてもらえたカルーアは、初めての別行動によるヒイロの留守に落ち着かず、1秒でも早く追い掛けたい気持ちを抑えられずにいた

「待って欲しいですの!カルーアお姉さま!マリニウム城はここから300km以上は離れていますの…馬車を出しても片道2日はかかります。飲食物を確保しないとイけませんの!」

「家には無いのかい!?」

サーシャの意見を聞かされても尚、スグに旅立ちたい気持ちを抑えられないカルーア。いつもの落ち着いた雰囲気と、あまりにかけ離れている彼女の姿に、カルーアがどれほどヒイロの事を心配しているのか?を理解する周りの者たち

「カルーアちゃん、落ち着いてください。往復分の飲食物を今すぐ買いに行きましょう!あと向かうメンバーを決めないと!」

「なんで往復分も買うのさ!?帰りの分はヒイロと会ってから、向こうの街で買えば良いじゃないか!城下町もスズカの街も大きい街じゃないか!」

ミャンジャムの意見にも突っかかるカルーア。明らかに彼女は、冷静さを失いていた

「カルーアちゃん…ヒイロくんが居ないから不安になる気持ちは分かりますし…オヅベルド公爵とマリニウム王家で、争いが起きそうだから彼が巻き込まれないか?も危惧しているのは分かりますよ。でもね、いかに大きい街でも戦争が起きてしまえば、ヨソ者に大事な食料を売る余裕は無いんじゃないかしら?」

「そ、そうか……そうだね……日持ちのしそうな飲食物を往復分は買っておかないと駄目か…」

ミャンジャムに柔らかく、かつ優しく説明されてようやく現状を把握したカルーア。彼女にミルが話し掛けた

「皆さん、冷蔵庫を…持って行って…ください」

「なんなのさ、ソレは!?」

ミルが指差した黒い箱を見たメリーズは、静かな音を発している冷蔵庫に興味を持ったようだ

「それはね、電気系の魔力をエネルギーにして、飲食物の長期保存を可能にする便利道具なんだよ」

「もしかして…カルーアちゃんが作ったの?ハイエルフに伝わる秘術で、とか?」

カルーアが冷蔵庫の説明をしだしたので、ハイエルフの秘術で作られた道具?と考えたミャンジャム。すると、今まで静かに見守っていたアリスが話し出した

「それはねぇ【消去の魔女】て呼ばれてる徳川有栖さんが作ったんだよぉ。地球って所は魔法が無い代わりにぃ、化学って言うのがぁ発展していてぇ、その科学力で作られてるらしいのぉ…」

「【消去の魔女】さんか…」

凄く便利そうな冷蔵庫の存在を目の前にしテンションが上がったミャンジャムだが、その製作者が【消去の魔女】だと知り少し表情が曇った。世間の認知では、魔女は人類側の敵だからである。しかし、彼女のパートナーのアドルは…

「へぇ、そうなんだ。こんな便利な物が有るんだね。僕も1度地球って星に行ってみたいな。平和な世界なんだろうね」

飲食物を長期保存できる便利な冷蔵庫に驚いたアドルは地球に行きたいと言うが、それを聞いたアリスの顔は曇っていた

「うん…平和なのはぁ…平和だったよぉ…ただ…住みやすいか?どうか?は難しかったなぁ…」
 

実際に地球に行ったアリスが地球の事を話している時、あまり良い表情ではなかった事から、向こうの暮らしも良い事ばかりでは無いと察した一同

「よし!地球の事は置いといてだ、マリニウムに向かう準備をしようぜぇ!」

アリスのかげった顔を見て察したヨシュアが、マリニウムに出発する準備に取り掛かろうと、一同に号令を掛けた!



【マリニウム城の東部の採掘場 】
「ここがあの少年が言っていた採掘場か…あれが公爵達なのかな?」

少年から聞き出した話によると採掘場は魔物たちに占拠されたらしく、労働力として少年たちの両親が捕まり働かされている。という話だったが…
その話の真偽を確かめる為、エーデを連れて偵察に来たミクイの姿があった

「ミクイさん!あの魔物たち…地上の魔物ではないような気がしますけど…一体?」

地上の魔物は野生動物寄りの姿をしているモノがほとんどだが、魔界の魔物は野生動物の良い部分を組み込んだ人型とのハーフみたいな存在が多いのが特徴と言える
人型なのに身体の至る所に鱗(ウロコ)が見える者や、猪(イノシシ)の様な立派な牙が生えているオークの様な者、中には背中に羽が生えている者まで居た

「なんて事だよ…魔界のヤツらが、こんなにも地上に来ているなんて…まさか…オヅベルド公爵は魔界のヤツらと手を組んで、マリニウム城を破壊する気なのか!?」

一介の公爵が王家の転覆を狙うなど、普通に考えたら無謀極まりない愚かな行為としか思えない!が、魔界の魔獣族たちと手を組んだとあれば話は変わる
その魔獣族の軍団の中に、かつてヘルメスの街から逃げ延びたランドルフとレキシントンの姿もあった。その時、そのレキシントンが急にミクイ達の方角を凝視して叫んだ!

「あの岩陰に何者かが潜んでいるぞっ!」
「なんだとっ!?」

「気付かれましたわミクイさん。どうしますか?」

「あの女、エーデの認識阻害(ハードゥーン)の僅かな魔力を感じ取ったんだ!こんだけ距離が空いてるってのに!仕方ないね…エーデは高速で宿に戻って!」

「ミクイさんは、どうするんです?…まさか!1人で足止めする気ですか!?……無理です!一緒に逃げましょうよ!」

2人目掛けて押し寄せる魔界の魔獣族たち10数人。普通に考えて王宮騎士の一個師団くらいの戦力は必要になるほどの相手に、ミクイは1人で相手をしようとしている

「ははーん!エーデちゃん、私の心配をしてくれるの?ノンノンノン!必要ないよっ!なんたってミクイは、Sランクアサシンの師匠に【天才児だ!】と言わせた史上最高のアサシンマスターなんだからね!」
 

地上の魔物よりも遥かに恐ろしいと認知されている魔獣族の群れが押し寄せているのに、自信ありげにエーデを逃す為1人残ると言う彼女の顔は、痩せ我慢や虚勢ではなく勝機を確信している眼だった

「信用しますからねっ!」

「ミクイはズバ抜けたアサシンだから、本気で信用しても良いよ!」
そう言っていた【消去の魔女】徳川有栖の言葉に望みを託し、エーデは【浮遊進行(レベテート)】の応用魔法でホバリングし、少年たちが居る宿屋に最高速度で撤退した

「さーて、ミクイちゃんの腕の見せ所だねぇ」

自分(ミクイ)も彼女と一緒に逃げては、魔法で高速移動するエーデの魔力を追跡されて追いつかれてしまう。その為にミクイは1人で魔獣族の相手をする事にした

目前に迫る魔獣族を相手に、仁王立ちで迎えるミクイの姿。彼女は無事に戻れるのだろうか?



続く
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