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第4章 街中デート
第3話 ……おいはぎ?
しおりを挟む「――この通りは毎日新鮮な野菜や肉が卸されている領地一の市場だ。この先をまっすぐ行くと広大な畑が連なっている。それでこっちの通りが――」
ノルヴィス様の案内で街を進んでいく。
背の低い私の歩く速度に合わせて進んでくれているのでとても時間がかかってしまう。
とても申し訳なかったが、彼は気にした様子もなく機嫌よさげに歩き続けていた。
そんなことでも喜びを感じてしまって、途中から街の話よりも彼の顔をじっと見つめてしまう。
なんだかふわふわと変な感じだ。
そうこうしていると一軒のお店の前で立ち止まった。
「ここは公爵家御用達のブティックだ。店主の腕が良くてな、今屋敷にある服飾品はほとんどここに頼んでいるんだ」
品のあるロイヤルブルーとホワイトで統一されたお店だ。
店先の看板には「アヴァンシアテール」と書かれ、ひと際目を引く大きなガラス張りのショーウィンドウの中には女性なら誰しも目を奪われるであろう美しいドレスたちが飾ってある。
「わぁ! キレイ!」
私も一瞬でくぎ付けになってしまった。
だってこれだけいろんなデザインなど見たことがなかったから。
「いつもは屋敷にきてもらうんだが今日は場所を教えておこうと思ってな」
店に入ると店主がすぐに顔を出す。
亜麻色の髪のきれいな女性だった。
「いらっしゃいませ公爵様! お待ちしておりました!」
「ああ。今日はよろしく頼む」
「ええ、お任せください! こちらのお美しい方が奥様のフラリア様ですね? 初めまして、店主のサルディ・フロウと申します!」
「あ、はい。フラリアです。ん? フロウ?」
女性と目が合う。
彼女の外見はどこかで見たような気がしてならない。
それにフロウという名前は……。
何かが引っかかって首を傾げているとサルディさんはニコリと笑った。
「お話は息子から聞いております。公爵家騎士団1番隊隊長、ラウ・フロウの母親です!」
「ええ!? え!? だって年が……」
若々しいサルディさんはどう見ても20代くらいの見た目をしている。
ラウは確か10代後半のはずだ。
どう考えても年齢が合わない。
「うふふ、奥様ったら! 私は40代ですわよ? 成人した子供の一人や二人いてもおかしくありませんわ」
「嘘でしょう!?」
若見えなんて次元じゃない。
「サルディは昔から見た目が変わらなくてな。そういうものだと思った方がいいぞ」
驚き過ぎて言葉を失っているとノルヴィス様が遠い目でそう言った。
もはや悟りを開いたような顔だった。
(ノルヴィス様にそんな顔をさせられるなんて……!)
変なところに感動していると、ふいに視線を感じて振り返る。
サルディさんに上から下までじっくりと見回されていた。
笑顔だけれどはちみつ色の目だけは爛々と輝いている。
(……何だろう、少し怖い)
敵意は全くこもっていないが別の何か……熱意のようなものがこもっているからだろうか。
なんとなく顔が引きつる。
「ようやく奥様専用の服が作れるだなんて、光栄なことですわ! 公爵様、よろしいんですわよね?」
「え?」
「ああ、できるだけいろんなデザインのものを頼む」
「え?」
1人だけ話についていけずに固まっていると、どこから出てきたのか店員さんが脇をがっちりと固めて奥の部屋に連行されていく。
「ああ嬉しいですわ! 今までは既存の服しか差し上げられませんでしたから! でもそれも今日で終わり! ようやく奥様のお体に合うものを作れるのです! 気合を入れましてよ!」
大きな鏡のある衣装室に来ると、サルディさんは腕をまくり上げてテキパキと準備していた。
メジャーやどう使うのか分からない計測器が立ち並び、助手さん達はメモをすぐにとれるようにスタンバっている。
興奮気味に着々と準備を進めていく彼女たちとは対照的に私は嫌な予感に襲われていた。
私専用の服を作るって、まさか……。
「さあさあ! ではさっそく採寸を始めましょう? まずは今お召の服を脱ぎ去ってくださいませ!」
「あ、出来合いのもので結構ですので帰ってもいいですか?」
「却下でございますよ~! 公爵様から厳命されていますの。しっかりと測って合う服を作るようにと! ということで、お覚悟くださいませ~」
ニコリ。
笑顔の圧がすごい。
いつの間にか助手さん達に逃げ道をふさがれてしまい逃げ出すこともできない。
「さあさあ! お早く!」
「きゃー!? いやー!」
「すぐに済みますので! さあ奥様? 腕をお広げになってくださいませ!」
「あ、待って! て、手袋してください!」
「奥様のご体質については把握しておりますので抜かりはありませんよ! 我々一同細心の注意を払っておりますのでご安心を! はい、ばんざいしてくださいませ!」
スポーンと脱がされ、シャシャシャッと次々にメジャーで測られて、目まぐるしく変わる状況に何が何だか分からない。
結局私はそのまましばらくされるがままになっていたのだった。
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