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第一章

星間開拓歴

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ロジーの声
「星間開拓歴の始まり……人類は長いワープ航行の末、安全な星をみつけた、それは《女神(Goddess)エラ》と名付けられ、その星に降り立った都市を“開拓元年”と呼んだ、エラの発展と共に星ごとの自由統治もはじまった」

老人の声。
「そうじゃ、問題はそのあとだ“星間開発協力機構 IDCA(※Interstellar Development Cooperation Agency)”の統治こそが問題なのだ、“人工知能エラス”に統治のほとんどを任せ人工知能を頼っている、だからわしたちはIDCAの統治に反対をしておる、穏健だがね」

ロジーの声
「なるほど、それで“保護惑星リスト”にのっていないと」

老人の声
「まあ、犬猿の中という事じゃな、ところでおぬしらも不思議よの、普通は“パーティ”をつくったりして行動するのが冒険者や賞金稼ぎじゃろうて」

ロジーの声
「ああ、そうですね、それは主人のつよい意思で……組合に属していないのです、だからIDCAの保護もあまりうけられない、物資や、人的支援も」

 目の前の暗さが、徐々に光をてらしだす。質素で、しかし温かみのある木の家……ここはどこだろう。
「う……」
 カルシュは無理やりに声を振り絞り、失っていた意識を取り戻そうとする。毛むくじゃらの男の背中がみえる。
「ご主人!!」
「目を覚ましたか」
 体を起こすと、老人が手を貸してくれた。髭がのびほうだいで頭ははげ、しわくちゃな顔で目もくちもほとんどただの線のようだった。
「ご主人……」
「心配かけたな、ロジー」
 ロジーの目は死に行くものを心配するような、無言のまなざしを持った。
「……本当にすまない、君も危なかった……考えなしだった」
「……いえ、いいんです、私はスクラップになりかけの鉄くずだった、あなたが救ってくれたのですよ、貴女に拾われた命です、いくらでもあなたに捧げます」
 しばしの沈黙のあと、ロジーが老人を示し
「この方はこの“ラウル村”の村長さんで、ヘイ爺という方です」
 と紹介された。

 ロジーがアームをのばしカルシュの背中を支えるのをみて、ヘイじいはいった。
「今日はもう遅い、休みなさい、また明日今後について話そう」

 カルシュはその夜、あてがわれた寝室から物思いにふけり星を見上げ、あまりよく眠れなかった。キネクという少女の事を思い浮かべていた。友人のようであり、兄妹のようであり、恋人にさえ思えた彼女。ただ一度だけ大喧嘩したことがあった。それもこんな夜のことだった。

「カルシュ、私……皆に必要とされているかな」
「キネク、君ほど必要な人はいない」
「でも、あなたに戦闘の腕も、拳銃の腕も勝てない」
「そんな小さなこと……」
「それだけじゃない、あなたには才能がある……」
「??俺に才能なんて」
 少女キネクは振り返った。牢獄のような狭い孤児院の大所帯の寝室で月を背景に、涙をながしていた。
「あてつけのつもりなの!!あなたは人に嫉妬させるほどの才能をもっている!隠さないで」
「!?」
 カルシュは混乱した。本当に自分の能力になんの自信ももっていなかったから。
「あなたは、私の夢の邪魔よ……」
「じゃあ、どうすれば……どうすればいいんだ、君のためなら、何でもできる」
「!!」
 カルシュがなきだしそうに顔をゆがめると、少女はカルシュによりそった。
「あなた、無責任よ」
「本当に自覚がないんだ……」
 背を向ける少女。
「神は残酷ね……無自覚は罪よ、あなたはまた“私の背中を押す”のね」
 そう言って、少女はカルシュを振り返りまたないた。

翌朝から、会議はひらかれた。村の重役とロジーとカルシュ、キリや、サトナがいた。
「それで君たちは、宝をさがしていると」
「ええ」
「その形状は?」
「これです」
 カルシュは写真をみせる。三日月がたのアクセサリーで星のをあしらったデザイン。
「あ……」
 そのとき、キリという少女がまえにでてきて、ポケットから何かをとりだし、さしだした。
「お……」
「あっ……」
 カルシュがそれに手を伸ばそうとした瞬間、少女はそれをひっこめた。紛れもない、それは探しているアクセサリーだった。
「物々交換……」
カルシュは正面にすわるヘイ爺にめをむける。ヘイ爺は渋い顔をした。
「恩人様になんて失礼なことを……といいたいところじゃが……物々交換はこの村のルールじゃ……すまないが……」
 ヘイ爺が空気を読み質問する。
「なあ、キリよ、お前探し物があったそうじゃないか」
「ん?……あるわね」
「それを探しだしたら、彼にそれを渡してやってほしい」
 カルシュの顔がほころぶ。
「それって、何です?」
 カルシュが尋ねると少女は眼鏡で隠れた無表情のまま回答した。
「親の形見……かなあ……古い拳銃、銃としての機能はもうないんだけど」
「かなあ……って」
 親の形見を他人行儀な言い方をするものだと思ったが、もしかしたら、この村には独自の文化があるのかもしれない、カルシュは二つ返事で答える。
「わかったよ、やるよ」

 それから三日ほど、カルシュはキリと、ついでについてきたサトナ、ロジーとバイクで旅をした。燃料がきれたり、野生動物に襲われたり、水がつきたり色々あったが、キリのいう“目標地点”についた。・
 数十メートルある崖の上から見下ろす。砂漠地帯にくらべればほんのりと緑のひろがるそこはアンドロイドたちの集落らしかった。そのひとつなのだろうか。渓流の中、穏やかな暮らしをしているようだった。古来の牧歌的な生活。狩りや小規模な農耕など、のどかな風景がひろがる。

 キリがいった。
「あそこに、あるわ」
 指さした先に、たしかに“ソレ”はあった。古びた拳銃、子供がぶら下げて遊んでいた。カルシュは戸惑う。

「こんな話聞いてないぞ!!!奪えって?」
「もともと私のものよ、あいつらは、“人でなし”だから」
「どういう意味だ?」
「……」
「でも、子供が……」
 カルシュが、続ける。
「もしあれが、彼らにとって宝なら」
「だから何?怖いの?奪わないの?私たちの因縁に口をだすの?部外者のあんたが」
「しかし……」
キリは大きなため息をついた。
「まったく、とんだこしぬけね、褒められるような生活もしていなくせに」
 カルシュは、胸の中に湧き上がるものを感じて、集落にとびおりた。数十メートルの崖の高さももろともしない。カルシュが叫んだ。
「やってやるよ!!俺もひとでなしの一味さ!!」
 ざわつく集落、そしておんぼろの拳銃をもっているこどものまえにのりだす、周囲を大人たちが取り囲むなか、ひとこと放った。
「その拳銃、俺にくれないか」
 子供が答える。
「やだといったら?」
 だがカルシュは、怯みもしなかった。
「すまん!!」
 素早い動作で、地面にほうりだされていたそれをかっぱらうと、崖をそそくさと上り、ジャンプしてバイクにとびのった、わざとエンジンを大きくかけて、アンドロイドが追いかけてくるのをまった。
 そしてサトナににつげた。
「キリをのせて、先に帰っていてくれ!!」
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