リフレッシュ

ショー・ケン

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リフレッシュ

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 なんだか近頃体の重いAさん。それに関連して以前別れた元カノBさんの事がきになる。なにせこの間自殺未遂をしたというし、友人にしつこく自分の居場所を聞いたり、精神的に落ち込んでいて、ほとんど引きこもりのようになっているらしい。

 Aさんにも後ろめたい部分はあったのだ。職場で酒によってタクシーで帰宅したその日、その日にその勢いで別れてほしいといってしまった。だが、以前から彼女は自分にもったいないとおもっていたし、それが心の重荷でもあった。

 しかし、彼女は自分を思い続け、何か生霊のようなものを飛ばしてきているのだろうか。あるとき困り果てたAさんは、霊媒師に相談した。以前お世話になった人で、Aさんの顔をみるなり
「えらくひさしぶりね、ひどくやつれちゃって」
 と心配してくれた。

 すぐに“憑いている霊を払うから”という霊媒師、しかし、一筋縄ではいかないといった。
「ふむ、明後日空いてる?あなたと彼女の思いでの場所があるでしょ?」
「あ、ええ」
「そこで落ち合いましょう」
「はあ」
 そういって立ち去ろうとすると、霊媒師は一言。
「あなたはこれでいいのね、霊さえ払う事ができれば」
 と、Aさんは答えた。
「彼女に未練がなくなるほうがいいでしょう」

 やがて翌々日、地元で有名な夜景も見える山の上の展望台にAさんはきていた。霊媒師もきていて、その背後にAさんは驚くべき人の影をみた。
「うっ」
 そこには、別れた元カノであるBさんがいたのだ。
「心配しないで、これは、霊魂だから」
 と元カノを紹介する霊媒師。なら、まあいいか、と納得した。

 霊媒師はAさんとBさんを引き合わせると、何か祈祷のようなものとお経のようなものを唱え始めた、二人は自然とお互いを見つめあった。
 そして、Bさんが言葉を放つ。
「ねえ、あなた、本当に……あの時の言葉は、本心なの?」
「あの時って?」
「別れの時よ、私を突き放したでしょう……」
「それは……」
 霊媒師は、まるで二人の霊魂がとりついたように二人の言葉を復唱していた、そしてある時、霊媒師が叫ぶ。
「迷える霊魂よ、悔いを話たまえ、心残りを話したまえ」
 するとすっとAさんの心は軽くなった。このお祓い自体、本当はBさんと会いたかったための口実であったのかもしれない。あの時、あの夜Aさんは、何かの衝撃で、苦しみで、あんなことを言ってしまったような気がした。
「私は、あなたといつまでも一緒になろうとしたの、それでも、私には友人がいて、とめてくれた……私、あなたに執着して、どうにか、あなたの気持ちさえわかればって」
「俺は……いつも僕は君にもったいないと思っていた、あの時、何か重要な事がおきて、君に別れを告げなければいけないと思って」
 霊媒師が、叫んだ。
「霊魂よ、己の体を見なさい!!」
 周囲を見渡すAさん、Bさんの体に異変はない、自分の腹部をみる、そこは奇妙に凹んで、何かの部品がくいこんでいた。急激に痛みが走る。
「う、ううっ……」
 あの夜の映像がフラッシュバックする。飲み会のあとタクシーに乗り込んだ彼、うとうととしていると、ふと運転手もまた、うとうととしている事にきがついた。呼びかけようとした瞬間、タクシーは突然運転を誤り、がけ下に転落し、車は地面につっこみ大破、運転手とAさんは帰らぬ人になった。

 そこでAさんはすべてを理解した。その事故の直後、かろうじて意識のあったAさんはBさんに電話をした。
「俺と別れてくれ……俺を忘れてくれ」
 Bさんをみる、彼女は泣いていた。彼女に手を伸ばす。
「ああ、俺こそが幽霊だったのだ、酔っぱらって帰って別れをつげたというのは、俺の中での勘違いだ、なぜならすでにあの時には……ならば俺の未練とはあの時、きつい言い方で別れを告げてしまった事だったのか」
 Bさんは霊媒師にいう。
「あの人は、ここにいますか、あの人は、自由になれましたか?あの時、確かに私に電話をかけてくれた彼は、警察がいうにはその時刻にはすでに死んでいたって、きっと私に何か、不満があって、それで死ぬ間際に別れを告げたんじゃないかって、私ずっと悩んでいて……」
 霊媒師は答えた。
「あなたにかけた最後の言葉が別れだったことを悔やんでいます、ありがとう、楽しかった、と、伝えられず息絶えたのだと」
 Bさんは涙を流した。霊媒師が
「あの人は、あなたが嫌いになったんじゃない、ただ、もう未来がない自分の事を忘れてほしかったんですよ」
 と伝えると、Aさんはそれを聞いて笑って成仏したのだった。


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