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死相占い

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「ダメですね、このままだと二人とも死にます」
「え?」
 二人のボロボロ服をきた孤児が、占い師の前で椅子について彼女の話をきいていた。普段ならもっとあらあらしく無作法で、悪いことばかり考えている二人だった。もっとも、孤児で誰も助けてくれなかった彼らにはそんな方法しかなかったのだが。

「どうにかならないのか!?」
 Aが尋ねる。リーダー気質の彼には、初めての経験、占いなど信じていなかったが、それでもこの占い師、Cのうわさはよく聞いていた。この近辺でもっともよく当たる。スラム街に面するこのエリアで有名な占い師だ。
「ああ、私の占いは絶対だねえ……」
 気弱で物静かな、しかしやるときには悪い顔をして、ち密な戦略を立てるBはおちこんでいた。

 占い師との出会いは数十分前、たまたま一人の大人の強盗に襲われ命まで奪われようとしていた彼女を助けたのが始まりだ。普段だったらかねもなく、またあったとしても高額な彼女の占いを受けることなど、二人には到底不可能だったろう。

 だが、ほとんど初めてやった人助けがこんな結果になるとは、それも、ただ盗むだけではなく命を取るという行為がAもBも許せなかったのだ。気づいたときには小さなバットやナイフをそれぞれ手に取り襲い掛かっていた。そしてその礼にこの占いが始まったのだった。
「ありがとうございました」
 Aはおじぎをするとその場をさろうとする。占い師は何かをいいかけていたが、別に他人の助けになど期待していなかった。そのとき、うしろでBの声が聞こえた。
「本当に、どうにもならないんですか?」
 占い師は、奇妙な表情で眉間にしわをよせた。こまったような、憐れむような表情。
「いいたくないが、君たちは結構な悪さをしてきたからね、盗み、暴力、嫌がらせ」
 Aは苦い顔をした。たしかに返す言葉もない。
「だが方法はないわけではない、この箱を貸そう」
 そういってさしだされたのは奇妙な箱だった。箱の6つの面すべてに様々な傷がついていた。しかしその傷は、まるで人間の皮膚が傷を修復するような感じで、治りかけているような跡がある、箱そのものが、何かの皮膚のような感触があり、見た目もそうだった。
「なんですか……これ」
「罪許しの箱、この箱を貸してやろう」
「どう使うのですか?」
「ただそばにおいておけばいい、お前たちが善行をすれば、また道は開かれる、だが、よく考えることだ、丸二日の猶予はあるが、その間にどちらかがもっともいいことをしなければならない、それで、片方が救われ、片方が生き残ることになる、もっともこの箱に“血の契約”さえすれば、そんなことはしなくてもいいのだが」
「血の契約?」
「ああ、まずは二人の血をとるよ、そして、二人の間に善悪の契約ができるんだ、だがもしどちらかが裏切ってどちらかを殺した場合、その殺された方の血を箱に注げば、それでも契約は成立する」
「それじゃあ……善行なんて無意味じゃないか!!」
 老婆は悲しい顔をする。
「まあ、悪魔の持ち物だからねえ、けれど、善も悪も使い方次第じゃないか」

 AとBは“血の契約”をして箱を持ち帰った。契約が始まったそばから二人は、お互い譲らず、しかしお互いに譲歩しながらも善行を進めていった。動物を助けたり、ごみを拾ったり、泥棒を助けたり。そうしているうちにある老人が、二人に話しかけてきた。
「君たちはすばらしい、どちらか一人しか無理だが、うちでひきとってやろう」
 こんなことを言われたのは初めてだった。老人は神父を名乗り、名刺を渡してきた。二人で大事にそれを持ち帰るとその日はぐっすり眠った。

 その夜だった。ごそごそとした物音でAは起き上がった。そばには、そこに寝ているはずのBの姿はない。一瞬とまどった。まさかBが自分を……その背後から、バットを持った影がAの後頭部に迫った。
《ボカンッ》
 Aは平然と振り返った。そこには、見覚えのある男、CをたすけたときにCを襲っていた暴漢がたおれていた。Bは、苦笑いしながらいった。
「物音がしておきたらこいつがいたんだ、俺は明日、こいつを警察署に向かわせる、Cばあさんに、被害届を出してもらおう」
 Bが眠ると、Aは二人の住むテントの中、一番奥にある普段は鍵のかかっている、鞘に入った毒の出るナイフに目を向けた。どういう仕組みかしらないが、ナイフがものをきると毒が染み出すしろおのだった。二人の家宝である。そのカギが開いているのに奇妙にも思わず、彼は眠りについた。

 朝起きると、Bの姿はなかった。きっと彼を警察に届けにいったのだろう。待っていても仕方がないし、自分の徳を積むことにした、もし最悪、何かあっても問題はない。自分がBに殺されさえすれば彼の“勝ち”にできる。

 老人の荷物をもったり、襲われる人を助けたり、落ちていた財布やモノを交番にとどけたり。そうしているうちにもう昼だ。だがそこでちょうど、彼の無線がなった。人から盗んだもので、電池さえあれば使えたので重宝した。Bからの知らせで、Bは急いでいた。

「A、大変だ、強盗が逃げた、一緒に探してくれ!!」
 彼があせっていたのでAは仕方なくBの言う場所へと向かった。そこで、彼は異常な光景をみた。少し大きな廃虚で、何かの施設だったのだろうか?普通の住宅よりはひとまわり大きい、その壁に、昨日自分たちを襲った“暴漢”がいた。彼は体中を頑丈に縄でしばりつけられていた。そして、暴漢は自分をみると、何かを叫びだした。
「ぶぼあばぼあぼ!!」
 しかし、口が腫れ、血がにじみ出て言葉が聞き取れなかった。哀れに思い彼に近づくと、そこでBから無線が入った。
「A、俺はこいつを許せなかったんだ、同じ“罪”を持ちながらも、同じ“罪人”を手にかけるなんて、許せなかった、俺は自分が根っからの悪だとわかった、だがA、お前は違う、お前は悪いことなんて本当はしたくなかった、生きるために仕方なく、俺と出会ってからは俺の分まで働いた、だからA、そいつを警察署に届けてくれ、そして、俺はこの場所をさる、その“箱”をお前に託して」
 Aは自分のポケットの中にある箱をみた。
「B……」
「大丈夫、来世でまた会えるさ……」
 その言葉にうるっときながらも、Aはそいつの縄をほどいた。そいつに近づくとひどくあばれたが、しかし、落ち着かせるようにいった。
「大丈夫、襲って食うわけじゃない、いまたすけてやるから安心しろ」
「うぼあばうぼあばぼ!!」
 やけに騒ぎ、右手を動かすのでそちらの縄からいつも携帯している刃物を使い急いではずすと。その男は自分の右手をつきのばし指をさした。その方向は、Aの背後だった。
「え!?」
《スパッ》
 男の手首が、いとも簡単に切断されてしまった。そして、Aは背後からの奇襲に距離をおいて、思わず反射的にナイフをつきさした。いつも訓練していたからだろうか、それは急所の心臓につきささった。薄明りに照らされた影をみて、Aは言葉を失った。
「B……」
 彼は力なく倒れると、横に倒れこんだ。
「B!!お前なんで!!」
「A、おれは今日一日、この男をおいておいて、お前をずっと監視していた、それで絶対に勝てないとおもったんだ、お前の行動は美しすぎた、そもそも、きっと俺と競い合い最後になれば必ず俺にお前をてをかけろというだろう、それが苦しかった、そうなればもう俺は、生き延びる選択をできない、できたとしても、苦しいだけだ」
「B!!」
 いつもは静かだが、必ず頭の中で人のことや、出来事の意味を考えているBが饒舌に話す、それだけで、もう言葉もなかった。しばらくするとBは息絶えた。

 AはCを頼り、応急処置をした大男を助けるように命じた。Cはすぐさま別の町に移るようにいわれ、Cの知り合いの連絡先をもらった。Cに箱を返すとCはいった。
「お前は何も間違っちゃいない、私はこの箱のことを好きじゃないが、お前は正しい子だよ、いいことをして、Bもたすけようとしたじゃないか」
 Bはひとしきりないたあと、その場をあとにした。暗い路地、走ったり隠れたりやすんだり、それを何時間、何日繰り返しただろう。いつのまにか、Bがそばにたっていた。それが幻覚だということをわかっていた。
「お前は俺に罪を残した……いや、俺ははじめから罪をせおっていた、お前のせいにしただけだ」
 Aは、ポケットから鞘付きのナイフをとりだした。あの毒ナイフである。もしもの時のために自分のためにもっていたもの。Cのいうような、Bのいうような人間ではないことの証明だった。
「ああああああ!!」
Aは自分の愚かさと潜在的な罪、ここ最近の、見返りばかりをもとめてきた浅い善行を振り返り、泣き喚いたのだった。



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