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罪滅ぼし

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ある離島に移り住み、レストランを経営し、島独自のグルメなどを提供、その他観光事業で生計をたてている20代の男女5人のグループ。
事業は順調に軌道にのり、思いのほかうまくいった事で有名になっていった。

そもそも高校時代の親友同士で、グループで動画配信者として成功していた下地があっての事だった。

お調子者で、チャラチャラした雰囲気だがやるときはしっかりやる男サトル。

基本的に自分から喋りはしないが、つっこみ上手で知識が豊富なヒサシ。
サトルの彼女で、ファッションブランドを運営するチサ。

ヒサシの彼女で、おしとやかで清楚だが天然なところもあるユリ。

最後はヒサシの妹のショウコ。
好奇心旺盛で天真爛漫だが人見知りで、極度のコミュニケーション下手、ヒサシと一つ違いだが、もともと妹思いのヒサシが彼女が自由に無理せず働けるように、この島での計画を皆に提案したのだった。

経営は順風満帆で、動画配信者と直に会えるという事で、人気を博したがある時、事件が起きた。

【ショウコは預かった、返してほしければ6000万円を支払え】

 そろってレストランの跡片付けをしているとき脅迫状が届き、皆は騒然とした。実際その夕方には、海で漁をするといったきりショウコは戻ってこなかったのだ。
ヒサシは気が動転し、パニックになった。警察に連絡するかどうかはなしていると、突然窓ガラスがわれ。誰かが部屋に飛び込んできて、煙幕が部屋中に充満した。ドタドタとガスマスクをした数人の男たちがあらわれ、全員の頭を殴ったり縄で手足をしばったりして拘束した。

目を覚ますと、覆面をつけたリーダーらしき男が、キッチンのすみっこにならべられた4人の前にたっており、こういった。
「あと1時間以内に支払いを終えなければ、妹の命はないものと思え」
「!!!」
 ヒサシは縄をほどくようにいい、即座にその準備をした。だが会計等はユリにまかせており、お金を工面できるのは彼女くらいだろう、迷ったがユリを解放するようにいって、すぐさま金をもってこさせるようにいった。
「警察にいったら、ショウコの命はないからな」
 念を押されユリは、本島へ向かい、お金を工面しにいった。皆は待つことしかできなかったが、やっとユリがもどってきたころには、状況は最悪のものとなっていた。

 犯人のリーダーがいう
「じゃあ、命を差し出すつもりはないんだな?」
 押し黙る3人、何があったかいう質問ができる雰囲気ではなかった。どうやら、この中の誰かが命を差し出せと要求されているようだった。そしてリーダーは両手にもった拳銃を二人のほうにむけていた。
「…………」
 口火を切ったのは、犯人のリーダーのほうだった。
「ならば、私が選ぼう、女だ……」
 選ばれたのは、チサだった。呆然として声をだしたユリ。
「え……」

 その後の血生ぐさい映像はあまりのトラウマでチサの頭にしみつき、そして、ところどころ記憶を失うほどにショッキングな出来事だった。チサは、サトル、ヒサシがリーダーの男に脅され、彼女を殺す様子を見てしまったのだった。

 その後、身代金の支払いを終え無事ショウコは戻ってきた。警察を呼ぶ頃には、犯人グループは逃走したあとだった。これにより皆の仲は引き裂かれたのだった。事件は解決したが、心の傷だけが残った。

 それから5年がたった。サトルは、刑期を終えて出所しててきた。かけつけたのはヒサシとチサ。ヒサシが謝る。
「すまない、お前にだけ罪を償わせて」
「いいって、俺たちで決めたことだろ」
 チサ殺しについては、サトルがすべてをやったと口裏を合わせ、また証拠をでっちあげた。
「おかげで、俺はユリの面倒を見る事ができた」
 ユリは精神的に大きな傷をもち、PTSD、うつなどを併発していた。ヒサシは、彼女の状態が一向によくならない事に困り果てていたが、ある時期からチサの夢をみるようになった、それだけでなくチサが夢枕に立つようになった。
「ユリが落ち込んだときはこういうといい、これを食べさせるといい、元気な時はここにつれていって」
 と事細かに情報を伝えてくる、そして、いうのだ。
「私が死んだのは、あなたのせいじゃない」

 ユリはうつむき加減で、目の焦点があっていないような様子だった。しかしサトルをみつけて、自然と抱き着いた。

3人はまた、落ち着いた日々を取り戻した。今はさびれた島だが、ヒサシがひとりで動画配信を頑張ったおかげで、三人がしばらくゆとりをもって生活する資金はあった
。その後の事はまたゆっくり考えようとなった。

 そして、三人でまとまって本当のあの離島に近い場所にシェアハウスで移り住んだ。暮らしや生活が落ち着いてきたころ、ヒサシは夢をみた。妹がでてきて、離島へ戻ろう、離島へ戻ろうと催促してくる、そして、それを必死でチサが止めるのだ。最後は、目が飛び出して、肉がそげおちた恐ろしい形相の妹が、こう叫ぶ。
「離島へ戻らないのなら、罪を償え!!!」
 そこではっと、目が覚めて現実におしつぶされる。そう、妹は2年前になくなっている。それは自分を責めての事だった。それからも夢は毎日のように続き、彼を苦しめた、自分はチサに許され、必死でユリを看病してきたはずなのに……。

 あの絶望の残る島にいくのも辛く、ヒサシは自分も自首をしようと3人に申しでた。しかし、3人はもちろん言い合いになる、話し合いは深夜まで続き、そしてある時、部屋の電気がすべて消えた。
「停電か?」
 サトルがキッチン近くのブレーカーをさがし電気をつけたとき、時を同じくして、リビングでヒサシの叫び声が響く。
「で、でたあ!!でたあ!!」
 ヒサシは腰をぬかし、寝そべっている。ユリは、呆然自失としている。ヒサシが指さす先、リビングの中央には、ショウコの亡霊がたっていた。
「お兄ちゃん……お兄ちゃん……○○○○」
 その言葉をきいて、ヒサシは気を失った。

 ヒサシの目が覚めると、どうやら日が明けていたらしく小型船の中にいた。どうやらサトルが運転しているらしい。もともと小型船舶免許をもっていたサトルは、皆がまだ仲良くレストランを経営していたころに、運転主の役をやってくれていた。

 近くにいたユリに声をかける。
「なんで、ここに?」
「自首しちゃ、だめだって……」
「ふぅん、でもいったい、どういうつもりなんだろう……」

 三人は島に降りると、サトルがやけに気丈に案内する。手つかずで荒れ放題だったレストランは、しかし、人の手によってあらされた形跡はなく、年月や自然の浸食のほかには、ただあの日のまま時間が止まっているように思えた。
「懐かしいだろ?」

 だが、店内を物色していると、皆が避けている雰囲気がひしひしと伝わってくる場所があった。それが、件のキッチンである。あの日の罪は、皆の胸に重くのしかかっている。しばらく、昔の事を話てなんとか場を和ませようとしていた。
「どうしていきなりこんな事おもいついたんだ?」
 とヒサシ、
「まあ、ショック療法っていうだろ?お前の見ているのも、ただの幻想かもしれない、そう、ユリのためにもいいと思って」
 しかし、当の彼女はほうけたように空中をぼーっとみていた。しばらくすると、沈黙が流れ、突然サトルが件のキッチンのほうへむかっていく。ヒサシがとめようと肩に手を伸ばす。
「おい、お前ひとりで……それにショック療法っていったって、あいつにはきつす……ぎ……」
 《パシッ》
 肩をつかんだてをひっぱたき、サトルはまた歩きだした。顔を前方にそむけたその目は、涙を流しているようにみえた。

 呆けたようになっているユリに
「しばらくここで待ってて」
 と言い残し、落ち着いて深呼吸すると、ヒサシもまた彼を追いかけた。

「ヒサシ!!」
 そこには、異様な光景がひろがっていた。あの頃の面影など何ひとつなく、ボロボロに朽ち果て、いたずら書きや、さんざん荒らされ、棚や家具やキッチンがあらされ、破壊されていた、一部はもはや床がぬけ、自然の一部と化しているような腐食具合だった。

「おい、ヒサシ、お前」
「戻れると思うか?」
「え?」
「あの頃のように、戻れると思うのか?」
「……それは」

 ふと言葉を重くうけとめ、目をそらす。傍らにはどこからかもってきたのであろう、店の出入り口や正面に並べてあったはずの看板がおかれていた。

 ふとヒサシの右手をみる、何か、凶器のようなものが握られている。よくみると割れたガラスを握り、上から布きれてぐるぐるにまきつけていた。強くまきすぎたせいか、血がしたたっている。
「お前、いったい何を……」
「わからない……だがこの島にきたころから、いや、ここまでずっと、何かに導かれているように……」
 サトルの手が不自然にもちあがり、ヒサシのほうに突き出された。
「うわっ!!!」
 驚いてよろけるヒサシ。
「おい、お前も同様しているのはわかる、それにショック療法だっていったってこんな素人のやりかた、まちがってたんだ、いったんおちつけ、な?」
「わからない……」
 ふと、ヒサシはサトルをよく見た。何か、影のようなものが重なってみえた。それは、在りし日の、ショウコの影だった。
「うわああっ!!!」
「気づいたか……でも、どうして逃げるんだ?」
「お前は、どうして、そいつに、とりつかれて」
「そんな事はどうでもいい、お前はどうして、逃げたんだ?あの時」
「あの時?」


 思えば、強盗に押し入られ、ユリが金を工面している間、サトル、ヒサシ、チサの三人は強盗にある要求をされたのだ。
「お前たちにくじをひいてもらう、その中で、負けたやつが、死ぬ、そうでなければ人質を始末する」
 サトルが叫ぶ。
「ちょっとまってくれ、すぐにユリは戻ってくる!!」
 強盗は腕時計を外してみせた。そして
「どうやったらこれが1時間以内に見えるんだよ!!!」
 サトルは勢いよく蹴り飛ばされた。

「さて、どうする?」
 そこで、チサはいった。
「私は、わからない……二人に任せるわ」
 そして、サトルはいう。
「俺は……あの子のためになら、死んでも」
 チサが青ざめた顔を見せる。
「俺は……」
 ヒサシは、言葉をため、そしていった。
「二人の命を差し出したくない!!」

「あの時は、お前なりの考えがあっての事だと思ったよ、あるいはお前自身が何かをいいだすのか、いや、お前がびびっていたってそんな事はどうでもよかった、だが強盗はいった“そうか、やはり、お前たちは兄妹だが、血もつながっておらず“妹がいじめられている”という噂も本当なのだな”」

「でっちあげだ、とおもった、実際、そんな証拠はないし、お前たち兄妹と俺とは、高校になる前、小学生の頃から知り合いで、高校で再会し、また仲良くなった仲だ」
「じゃ、じゃあ……」
「だが昨晩の亡霊!!さっきお前と俺たちの間に現れた亡霊!!あの亡霊……ショウコちゃんは、いったぞ“お兄ちゃんは私をいじめ続けたのに、どうして変わりになってくれなかったの”」
「そ、それは……集団幻覚で、ひぃっ!!」
 逃げ腰でたちあがり、走り回るヒサシ、それを追いかけるサトル。
「ちょっとまて、サトル、俺たちは強盗怖さにチサを殺した、お互いに罪があるだろう!!それに、そんな夢!!」
「ユリからきいた、お前が自殺した妹を発見したのは一週間後だったと、周囲には仲のいい兄妹でコミュニケーションが苦手な妹を世話しているといいながら、俺をだまし、かつあんないい妹を」
「なんでお前がそこまでショウコにこだわる!!」
「おれは、だれより、ショウコちゃんが好きだったんだよ!!」
 本気だ。とさっしたヒサシはものあらゆるものをたてにして、ときにそれをなげつけにげまわった。洗剤、食器、棚、よくわからない木の板。
 しかし、それをなん十分も続けているうちに、ついに体力の限界がきて、部屋の中央で、ヒサシはサトルに足蹴にされ、馬乗りのなった。
「死、死ねええ!!!」 
 叫びながら両腕を振り上げるサトル。その手には、新しく入手した包丁がにがられていた、おいかけまわされているうちにいくつかの切り傷が重なっていたヒサシは、もはや痛みにもなれ、死を覚悟して目をつぶった。
《グシャ!!!》
 骨まで肉をつらぬいたかのような凄まじい音に、目をおおうヒサシ。驚愕の表情をみせるサトル。
「お、おまえ!!なんで!!」
 ヒサシが目を開けると、サトルとヒサシの間に、ユリがヒサシにおおいかぶるようにおりかさなっていた。そして、すさまじい痛みに顔を歪ませ、ギリギリで呼吸をしている。
「ヒュ……こんなこと……意味がない……償わなきゃ、意味がない……」
「お前に何がわかる!!!ふざけんな!!ヒサシは、ヒサシは極悪人だ、死ななければならないんだ!!!」
「あなただって、ヒサシが提案したときに、安心したのでしょう、あなたの後悔は、あなた自身にもむけられているはずよ」
「!!!」
 ふと、一呼吸すると、ヒサシはさけんだ。
「うおおおおおおおお!!!」
 そしてユリを蹴とばすと、包丁をサトルにつきたて、同時に自分の首に、ガラス破片をつきたて、かき切ったのだった。
《グサッ・ブシュッ》
「うわああああ!!」
 腹部の痛みに叫び声をあげるヒサシ、そして、そのヒサシの上でサトルは息絶えた。ユリをみるとまだかすかに呼吸があるようだ。この期に及んで、ヒサシは自分の死が怖くなった。
「すまない、すまない、皆、すまない、もとはといえば俺が、妹にいじわるをしてきたから……それに、そんな妹よりも自分の命が恋しいなんて、俺は、すまない、すまない、それにチサに許されたとして、俺は俺が許せない、俺は、許されていい人間ではない!!」
 ふと、チサが呼吸をすいこみ、何かをつたえようとした。最後の言葉かとおもい、耳を澄ます、静寂が場を包む。
「そうよ……」
 チサは、力なくそういった。
「あなたは、生きて、償いなさい」
 チサは、呼吸をとめた。ヒサシがチサが何かを抱えているように思い、自分の腹部にめをやる。そこには、店の立て看板があった。
「……」
 チサは最後まで自分を守るために、こんなものを用意していた。サトルの包丁は立て看板をつきささり、しかし貫通したのはわずか数ミリのさきっぽだけ。たかが、その程度でヒサシは悲鳴をあげたのだった。

 しばらくして通報した彼により警察と救急が駆けつけるも、生き残ったのは多くの罪を持つ彼だけだった。

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