タイムマシン開発の男

ショー・ケン

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タイムマシン開発の男

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 秘密裏にタイムマシンを開発した男。何より彼自身が過去に戻りたがっていて、今でも引きずっている事があった。それはある女性と最近別れた事だ。彼女はとても優秀な秘書で、関係をもってからもずっと彼をサポートしてくれていた。
 天才的な能力をもつ研究者である彼は、大学卒業後にベンチャー企業をたちあげ、様々な事業に挑戦し、すべて成功した。それもこれも、すべてその秘書のおかげといってもいいだろう。なぜなら、男は天才的頭脳をもっていたが、彼女のもつような人当たりの良さがなく、人から信頼される能力が皆無にちかかったからだ。

 彼女がいなければ、起業は成功しなかっただろう。それどころか最近では、社内の雰囲気も悪くなっている。彼女に助けを求めようにも、音信普通だ。
男は、彼女との別れ方をずっと後悔していた。
 
 数か月前のある時、夜景の見えるレストランで彼女にひどいことをいって、訂正するかしないか迷っているうちに彼女はすねて、その場所からいなくなり、二人の関係は自然消滅した。

(あのことさえ、なかったことにできれば)
 タイムマシンは開発中だったが、リスクを飲み込んで男はそれに乗り込んだ。そして、数か月前のあの日にたどりつくと、男自身と彼女の姿を、その世界でみつけた。
 
 男は、夜景の見えるレストランで楽しそうに会話する自分たち、つまり過去の自分たちをレストランから出るまでずっと監視していたが、やがて例の事件がおきた瞬間にであった。会計をすました彼らがそとにでて、ひとことふたことした時に、事件はおきたのだ。
「あんまりおいしくなかったね」
「ちょっと、デリカシーがないんじゃないの?」
 なんだか、奇妙な空気が流れた、後から思えば、女は、このレストランにずっといきたいといっていて、そのために男が底を予約したのに、悪い事をいってしまった。と、ふと反省する。だから、女がたちさったあと、男は過去の自分に近づいて叫んだ。
「ここで彼女を追いかけるべきだった!!」
「何をいっているんだ?」
 レストランの入り口で立ち会う全く同じ姿かたちの男。そしてきょとんとする過去の男。
「何をって」
「そんなことわかりきっているよ、俺は、むしろお前に意見しにきたんだ、そもそもの後悔は彼女と関係をもったことだ、関係をもたなければ分かれることもなかった」
「どうしてお前は、俺たちが分かれることを知っているんだ?」
「俺も未来からきたんだ」
 困惑する二人は情報を整理する。しかし時間は限られていたので、その明晰な頭脳でそれぞれに仮説をたて、共有するとそそくさと各々のタイムマシンに乗り込んで帰っていった。

 二人がそれぞれ帰宅し、各々の世界で分析し、AIやコンピューターを使い分析にかけてみると二人の男が出会ったその空間は、各々の世界の過去ではなく、それ自体が一種のパラレルワールド、仮想世界だったのだということがわかった。
彼の開発したタイムマシンは、そうした“条件”つきであり、その他の試行錯誤をしようとも、彼の脳ではほかの型のタイムマシンはつくれなかった。

 彼は悟った。人間は過去には戻れない。ただ、過去に戻りたいもの同士が過去に戻ることはでき、傷をなめあう。しかしそれに何の意味があるだろう。つまり、後悔は余計に募るのだ。そう、男は理解した。

そして男はコンピューターに向かって呟いた。
「ああ、どうして研究や分析は試行錯誤と失敗は許されるのに、人間関係はこうも一度の失敗に厳しいのだろう」
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