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パワハラ告発
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「俺も心苦しかったんだよ」
バーでタバコを吸いながらそう話す彼に怒りがわいたのは、その時だった。けれどその後、感情は思わぬ方向に行くことになる。
「そういうものじゃないか?だって、そうしなきゃ、皆は納得しない、なぜなら完全な正義自体が、思わぬ人の嫉妬を買うこともある、ダメージコントロールだよ」
Aは、古い仕事仲間だ。別の業種に鞍替えし転職を決めたときは彼をとめたものだ。同僚でありながら、彼は自分の目標でもあった。しかし別の仕事もうまくいっているのをみると根本的に能力が高い人間なのだろう。
たばこの燃えカスが灰皿に落ちるころ、どうやって彼を説得しようか迷った。昔から説教やら、忠告やらは得意ではない。彼よりも人間関係が何倍もへたくそな自分だ。感情の吐き出し方がわからない。
俺が睨むように彼に目を向けているとまいったな、という様子で彼は頭をかいて、肩にてをやってくれた。
「いや、早まるのはまだ早い、俺が本当に間違ったことやったってんなら、それから怒ればいいだろ?どこまで話したっけ?いわゆる自殺した上司が、俺のパワハラ告発のせいで死んだ、だが本当はパワハラなんて存在しなかったって“真実”を俺が匿名で言いふらしたって話だろ?」
バーではほかの客がダーツをしたり、女性客を口説いたりしているが、マスターはグラスを綺麗にしながら、怪訝そうな顔でこちらをみていた。
「探偵に言われたのさ、“問題の直接解決は、円満解決を意味しない”」
そういうと、彼は右手をまくった、ひどい痣がいくつもあった。
「お前……それって……」
「俺は探偵に二つの事を依頼した、1直属の上司の素行調査と証拠の録画録音、2上層部やほかの上司の調査」
「なんだって?ほかの?お前の件と何が関係あるんだ」
「はあ、お前はわかんねえか、いや、嫌味じゃない、俺も前の職場の方がよかったって思ったりするさ、今の会社はあまりに地位にすがるやつが多すぎてさ、若者の台頭をきらっているんだ、だが俺は子供4人もつくっちまってなかなかこの不景気で、腐った会社をやめることもできない、でさ、きっと俺を嫌うやつがほかにもいるっておもったのさ、上司のパワハラは実際にあったのに止める人間はいなかった、そとの機関をうまくつかって、ようやく告発できたってわけだ、だがその後が問題だ、探偵は2について、恐ろしい報告をあげてきた」
「ううーん、聴きたいような、聴きたくないような」
話の雲行きが怪しくなると、マスターと目が合った、彼は妙な角度で顔と体をねじまげ、まるで相反する気持ちを表現しているようだった。
「どうやら、俺の上司はずいぶんほかの同僚やら、上層部から嫌がらせをうけていたみたいなんだ、もともと気性が荒いやつではあったが、それで俺をみてイライラしていたんだと、だが同時に教えてくれたのさ、“上をめざすな、危ないぞ”って」
Aが探偵からもらった資料を見せてくれた。
「お前さ、こういうの、いいのかよ」
「いいのいいの、別にその時はその時だよ」
まじまじとみると、どうやら彼のように優秀な社員がいつやめたか、そして、何がきっかけでやめたかが書いてある社内資料のようだった。
「全部パワハラ??」
「そう、探偵いわく、上に気に入られて昇給がかかったときに部長クラスの人間から上は全員こういう嫌がらせをしているらしい、昇進しないように、さすがに今回のは度が過ぎていたようだがな、俺への執拗ないじめが発覚するのを恐れていた人間もいたようだ」
「はあ、お前それじゃ……」
「まあ、だからさ、お前を呼んだってわけ、お前今度昇進だろ?給料は俺に並ぶくらいさ、お前もくらいつけよ、人に嫌われないようにさ」
彼は肩を叩くと、言いたいことだけ言ってバーをあとにした。会計は残っていたが、まあ、元気そうな顔が見られたので良しとしよう。
バーでタバコを吸いながらそう話す彼に怒りがわいたのは、その時だった。けれどその後、感情は思わぬ方向に行くことになる。
「そういうものじゃないか?だって、そうしなきゃ、皆は納得しない、なぜなら完全な正義自体が、思わぬ人の嫉妬を買うこともある、ダメージコントロールだよ」
Aは、古い仕事仲間だ。別の業種に鞍替えし転職を決めたときは彼をとめたものだ。同僚でありながら、彼は自分の目標でもあった。しかし別の仕事もうまくいっているのをみると根本的に能力が高い人間なのだろう。
たばこの燃えカスが灰皿に落ちるころ、どうやって彼を説得しようか迷った。昔から説教やら、忠告やらは得意ではない。彼よりも人間関係が何倍もへたくそな自分だ。感情の吐き出し方がわからない。
俺が睨むように彼に目を向けているとまいったな、という様子で彼は頭をかいて、肩にてをやってくれた。
「いや、早まるのはまだ早い、俺が本当に間違ったことやったってんなら、それから怒ればいいだろ?どこまで話したっけ?いわゆる自殺した上司が、俺のパワハラ告発のせいで死んだ、だが本当はパワハラなんて存在しなかったって“真実”を俺が匿名で言いふらしたって話だろ?」
バーではほかの客がダーツをしたり、女性客を口説いたりしているが、マスターはグラスを綺麗にしながら、怪訝そうな顔でこちらをみていた。
「探偵に言われたのさ、“問題の直接解決は、円満解決を意味しない”」
そういうと、彼は右手をまくった、ひどい痣がいくつもあった。
「お前……それって……」
「俺は探偵に二つの事を依頼した、1直属の上司の素行調査と証拠の録画録音、2上層部やほかの上司の調査」
「なんだって?ほかの?お前の件と何が関係あるんだ」
「はあ、お前はわかんねえか、いや、嫌味じゃない、俺も前の職場の方がよかったって思ったりするさ、今の会社はあまりに地位にすがるやつが多すぎてさ、若者の台頭をきらっているんだ、だが俺は子供4人もつくっちまってなかなかこの不景気で、腐った会社をやめることもできない、でさ、きっと俺を嫌うやつがほかにもいるっておもったのさ、上司のパワハラは実際にあったのに止める人間はいなかった、そとの機関をうまくつかって、ようやく告発できたってわけだ、だがその後が問題だ、探偵は2について、恐ろしい報告をあげてきた」
「ううーん、聴きたいような、聴きたくないような」
話の雲行きが怪しくなると、マスターと目が合った、彼は妙な角度で顔と体をねじまげ、まるで相反する気持ちを表現しているようだった。
「どうやら、俺の上司はずいぶんほかの同僚やら、上層部から嫌がらせをうけていたみたいなんだ、もともと気性が荒いやつではあったが、それで俺をみてイライラしていたんだと、だが同時に教えてくれたのさ、“上をめざすな、危ないぞ”って」
Aが探偵からもらった資料を見せてくれた。
「お前さ、こういうの、いいのかよ」
「いいのいいの、別にその時はその時だよ」
まじまじとみると、どうやら彼のように優秀な社員がいつやめたか、そして、何がきっかけでやめたかが書いてある社内資料のようだった。
「全部パワハラ??」
「そう、探偵いわく、上に気に入られて昇給がかかったときに部長クラスの人間から上は全員こういう嫌がらせをしているらしい、昇進しないように、さすがに今回のは度が過ぎていたようだがな、俺への執拗ないじめが発覚するのを恐れていた人間もいたようだ」
「はあ、お前それじゃ……」
「まあ、だからさ、お前を呼んだってわけ、お前今度昇進だろ?給料は俺に並ぶくらいさ、お前もくらいつけよ、人に嫌われないようにさ」
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