ホラー短編集

ショー・ケン

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神頼み

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「えり好みするなって……」
「でもさ……私……あの人タイプじゃないんだ……申し訳ないけど」
 塾の端っこで、縮こまる高校生のAは、自分についての話に聞き耳をたてていた。自分が告白したBさんが自分に鋭い断罪をするのを。

 しかし、彼は人を見かけで判断していない自信があった。自分だって少し小太りだし、大した人間ではないが、それなりに周囲との交流はうまくやっている。冗談やユーモアもいい、ムードメーカー気質なのだ。

 だからといって彼女を下に見ていたわけではない。だが、彼女はとても、地味で、目だたず暗い印象があるために、確かに彼はねらい目だと思ったのかもしれない。

 Aは昔からこの世ならざるものの姿をみることができた。それは妖怪であったり、奇妙な怪物であったり、幽霊であったり、AがBさんに惹かれたのは、その背中にすさまじいエネルギーを持つ霊体を背負っていたからだった。

 その霊体は時折自分に手を振ったり、話しかけたりしていた。最も姿も何を話しかけているかもよくわからなかったが。

 そして徐々に好きになっていった。Bさんが昔からBL作品をかいているオタクだという事も女友達から情報を仕入れていた。その内容も、デブ専的なものであったために、彼は淡い期待を描いたのもまた事実である。

 それは、三日前の事
「あの、付き合ってください」
「なんで、私?」
「その、あの、えっと、三つ編みが素敵で、それから、BLが好きだって」
「はあ?」
 ちょっと笑いそうになった暗い面持ちのBさんはすぐにそれをこらえて、鋭く質問を返した。
「大して理由もないのに、なぜ私を好きなんていうの?」
「いや、理由は……」
 Aは必死に考えた。本当は彼女の鋭い目と、泣きボクロ、全体的に黒いトーンのまつ毛や、その真っ黒な目がクセになったのだ。しかし、彼は女性を前にして口下手だった。
「いや、あなたの後ろに、ついていて、何か、いいものが」
「は?」
 そこで、Bさんは少し怒って返した。
「それが何だっていうのよ、あんた、霊感あるとか触れ回ってるけど……」
 そういわれたときAさんは今までみえていなかった背後の何かがはっきりみえた。
「あなたと対象的……色の薄い、でも顔がよく似ている、小さな少女、まるで神様みたいな……」
「ふん、よくわかんないから無理」
(!!!)

 それからAはずっと落ち込んでいたが、さらに追い打ちをかけたのが翌々日のその日に聞いた追い打ちだった。
「で?なんで振ったの?あんた、太っちょすきでしょ」
 と友人、Bさんは頭をふっていった。
「いくらジャンルやタイプが好きでも、何か好みじゃないと、むしろ嫌悪感を抱くこともあるのよ」

 Aは落ち込んでBさんをみた。Bさんはそっぽをむいていたが、その背後の件の霊はこちらにむけて、あっかんべーをしていた。

 Aはどこかで納得していた。彼はどこかで人間関係を嫌に思っていて、その気遣いが不要みみえる、無口な少女に惹かれていたのだ。そしてその背後には、自分が見て、会話をできる“幽霊”がいた。彼は知らずしらず、自分が傷つかずに都合のいい相手をえらんでいたのだ。

「幽霊もえり好みするんだなあ」
 彼はぽつりとつぶやいた。








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