記憶バンク

ショー・ケン

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ある男A、恨みのある別の男であるBをつけ狙っていた。ある袋小路までおいつめた、かと思いナイフを手に襲い掛かるが、しかし、すんでのところで相手は姿をけした。

 よく見るとマンホールのフタがあり、その下に地下への階段があるようだ。彼は、Bを追跡した。下へおり奥へ、さらに奥へ、こっそり尾行する。入り組んだ迷路のようになっており、隠れる場所があまたあり、困ることはなかった。
その端で、Bはある男と会話していた。怪しい闇医者じみた顏の右側がほとんど機械でできた男だった。
闇医者「間違いなくうけとりました」
B「これを、たしかに選んだ人間に渡してくれ、これは私の財産なのだ」
闇医者「ええ、間違いなく」

 それが大事なものであろうと確信したAは、Bがさったあと、それを盗むことにした。だが、こっそりその闇医者の研究室にはいったつもりだったがばったりとその闇医者に出くわしてしまう。
A「ひっ」
闇医者「ひぃっ、どうか命だけは!!」
A「えっ」
闇医者「なんでももっていくがいい、だが命だけは」
 そういわれるとAも遠慮がいらなくなった。
A「Bが大事にしていたものがあったろ、あいつはマフィアだ、かつて俺たちは、スラムでうまれ、兄弟として生き、マフィアとなったが、ある時俺は、信頼するあいつに裏切られてマフィアを追われることとなった、今しがた話していたそれをよこせ」
闇医者「えっ、ですがそれは……変わった類のものでして」
A「何なのだ」
闇医者「記憶です、近頃は槍の端末で、たしかに彼いわく“宝物”のありかを知る何者かの記憶らしいのですが」
A「かまわん、私の右手は機械で、そうした最新鋭の端末がある、早くインストールしろ」
闇医者「おすすめはしませんよ……」

 そして、Aにその“宝の記憶”がインストールされた。優しい温かいまなざしの記憶。渚、女性が男を……Bと女性の子供らしきよくにた少女を見ている。
A「な、なんだこれは、今すぐとめろ!」
闇医者「できません、そんなことをすればどんな問題がおこるか」
A「いいじゃないか」
闇医者「こちらではなく、あなたの体です、医者の矜持としてそれはできません」
 そしていやいや、その“記憶”は完全にインストールされた。
A「はあ、はあ」
闇医者「どうです?記憶、は大事なものでしたか?恨みは晴らせそうでしたか」
A「貴様、なんていうものをインストールしてれたんだ」
闇医者「ええ、一体何が?」
A「あいつの死んだ妻の記憶だ、あいつへの深い“愛情”が私の中に生じてしまった、これでは恨みを晴らすことができないじゃないか」
 そういって、Aはそこをたちさり、もう二度と闇社会に姿を見せることはなかったという。
彼を変えたのは、Bの夫人の記憶だけではない。Bがマフィア上層部に妻子の事を脅されて仕方なくAを裏切ったという経緯をしったためでもあった。Bの婦人は殺された。だが娘は生きている、Aはどこかで、元兄弟の幸福を祈るようになったのだろう。
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