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ショー・ケン

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 その青年は、ずいぶん長い事悩んでいた。昔から人から愛される事はあっても、人を愛することができなかったから。
宇宙人を恋人にしたときも、タレントとしてデビューをしたあとも、その後人気になったあとも、彼は空虚だった。
全能感は彼を満たすことはできなかった。なぜなら、人が彼を愛しても、彼は人を愛することができない。だから友達と仲良くなっても恋人と仲良くなっても彼との人間関係は、必ず悲惨な末路をたどった。
彼が飽きたり、疲れたり、ひどいと突然癇癪を起した。
 彼のマネージャーは彼を心配し、あるいは叱咤するために、こんな事を言った。
「あなたを愛する人をあなたは必ず好きになりなさい」

だから彼は、自分の中に自分をいくつもつくるようにした。いつからか、そうして彼は人との付き合いを完璧なものとしていった。相変わらず、彼は人を愛することがなかった。しかし、マネージャーも彼の友人も恋人も、彼の変化に気づくことはなかった。
彼は、夜な夜なもう一つの世界にアプローチする。それは電脳空間だ。その時代違法とされていた、AIで自分の頭脳の複製をつくり、彼は、その複製たちに、名前をつけた。
「ファン一号、二号、三号」
 そうして彼はやっと満たされた。
「自分ならば、好きになることも嫌いになることもない、なぜなら鏡をみて、そこに必ずその姿が映るように、好きであろうと嫌いであろうと、必ず付き合うことしかできないのだから」

 容姿端麗、頭脳明晰、彼にとっては、あらゆる出来事は“そう”だった。付き合うしかないから、趣味をもち、付き合うしかないから、勉強をし、付き合うしかないから、労働をし、金を稼ぎ、付き合うしかないから休日を生きる。
彼はずいぶん長い事、ルーチンワークのように朝おきて必ず鏡をみて、こうつぶやく。
「ああ、僕はやっぱり、なんて退屈な人間だ、僕の中に他人を愛する余裕はない、なぜなら、すべてに退屈をしているから、だから退屈な人間なんだ、退屈な人間を愛する人などどこにもいないだろう、退屈な人間のファンであり続けるひとなど誰もいないだろう……僕意外には」
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