怨霊

ショー・ケン

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怨霊

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 心霊スポット好きのカメラマンの青年B。カメラマンとしては名も知られていないし生きていくのもやっとだが人格者だから、周囲にすかれていた。彼の先輩のAも同じだ。同業者にアイデアをパクられても、自分の写真をボロカスに言われても、笑っている。そんな彼の唯一の癒しが心霊スポットだという。
 先輩のAはそんな彼が拠り所だった。なぜなら彼は信念と意思をもち、誰にそれを邪魔にされようと、気にも留めない。彼は誇り高き価値観を持っているように思えたし、地位に固執しない姿勢に安堵をしていた。見下す気持ちなんてないと思っていた。

 だがある時から、Bの心霊スポットにいく回数が異常になっていった。先輩のAが止めても足しげくかよう。日に日にやつれ元気がなくなっていく。思い切って訳を尋ねると、彼は生きていくほどの仕事を与えられなくなっていた。彼がいうには同業者に、先輩やら周囲の人間に食わせてもらっていることを嫉妬されているらしかった。気にするなといって飯につれていこうとしても断るばかり。仕方なくそのまま時の流れに任せた。

 Aはあるとき、彼の足しげくかよう心霊スポットに自分も通ってみようと考えた。そうすれば何かわかるかもしれない。一日、二日、三日目。特に何もおこらない。彼が熱中するような理由がないように見える。人格者である彼が。
「先輩?」
 後ろから声がして振り返る。Bがいた。
「先輩、何しに来たんですか」
 心なしか以前より気持ちが明るくなっているような雰囲気がある。
「何って、お前を心配して……」
「なあんだ、そんな事か」
 二人は心霊スポットのトンネルの入り口に腰を掛けた。
「なあ、どうして急にそんな元気になったんだ?」
「いやあ、俺、仲間ができたんですよ」
「仲間?」
「きっと、こういう場所には本心では悩みを抱えている人間が集まるんでしょうね、俺、彼らに気持ちを打ち明けたらすっきりして」
「そうか……」
 二人は歩きながら、トンネルから離れ、少し小道を歩いていた。だがあるとき道路に差し掛かったとき、一瞬背中を押されたような気がして、その瞬間、Aは車道にころがりおりた。機転をきかせて反対側に走っていたから助かったものの、振り返るとBは歩道脇でにやにやとわらっていた。
「B??」
 それでもAはなんだか意識がぼんやりとして、また小道をいく。
「まっすぐいきましょう、この先に廃村がありますから」
 そういわれてまっすぐ進むも、廃村の姿は一向にみえてこない、そもそも、この有名な心霊スポットに近くにそうした場所があるなんて聞いたことがない。その時、足元で音がする。
《パキッ》
《カァーー!!カァー!!》
 耳元で舌打ちが聞こえる。
「チッ」
 驚いたカラスが飛び上がっていく。Aはその時気づいた。
「あれ?俺、今まで誰と話していたんだっけ?」
 周囲を見渡す。Bの姿はおろか人の姿もなく、ただ目の前には夕日に照らされて断崖絶壁が広がる崖があるだけだった。

 その後、Aが調べに行くとBは自宅で首をくくって死んでいるのが発見された。すでに死後何日も経過しており、Aの心霊スポットで出会ったBは、幻ということになるだろう。彼の遺書にはこう書かれていた。
「俺は足しげく心霊スポットに通ううちに、なぜ幽霊がこの世をさまようかを考えた、この世に未練を残した人間が心霊、悪霊となる、彼らに感じるシンパシー、居心地の良さは何だろう、彼らと俺との共通点、彼らは死んで未練をのこした、だとすれば俺は生きながら世に未練を残している、才能がなく、絞り出した才能も他人に利用され、自分の能力は同業者にばかにされる、俺は、生きている意味がないと気づいた、それを俺は誰にも言えなかったし、かれらもそうだ、それにそうだ、彼らは俺の理解者だ、なぜなら、この世に未練を残し、誰かを呪って、妬んで死んでいった人間は、自分の力のなさに絶望したはずだ、彼らだけが俺の気持ちをわかってくれるのだから、俺たちにとっては、呪いだけが唯一の居所だ」
 Aは、彼の本心を気付けなかったことをおおいに後悔した。そして、彼の人の好さに甘えていた自分にも。

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