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虚構怪談
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サイトウは、ラジオに耳を傾けていた。長寿の怪談番組を聞いていた。思えば自分の人生はひどいものだった。十代で作家デビューするも、下手な出版社にかかり、ゴーストライターをさせられた。下積みだから、君の名前をだすから、問われたが、表記も一切ない、報酬も格安の仕事になった。
それだけではなく、彼の持ち掛けたネタや小説は、ことごとく出版社に握りつぶされただけではなく、まるまるパクって別の作家が出版していた。このことのダメージとトラウマは、彼のモチベーションを再起不能なほどに押しつぶした。
それからだ。人生の歯車が狂い始めたのは。いまでは賭け事ばかりをして、くだらないバイトを掛け持ちしている。
ラジオから、ある書籍を紹介して、その話のひとつ、こんな話が流れた。
「ある廃屋に幽霊がでるんだが、その幽霊は、想像に飢えているらしい、芸術で成功できなかった人間の怨念らしいんだ、だがそこで、しまった!と叫ぶと、50%の確率で成功者になれるらしい」
サイトウはあまりの事に手を止めた。その内容そのものじゃない。その既視感にだ。ワナワナと手が震える、まさか、そんな事が……。
すぐに出版社に怒鳴りこんだ。あれ以来ほとんど関わっていなかった出版社だ。しかし、皆疲労困憊といった感じで、以前の担当編集もいたが、彼が胸倉をつかんで尋ねるといった。
「ああ、あなたですか、たしかにあなたにはひどいことをしましたが、この10年、私だって、色々つらいおもいをしたんですよ」
サイトウは出版社の中を見渡す。割れたガラスすら修理されず、古びたベストセラーの小説のポスターが貼ってある。それもそうだろう、たしかにこの出版社はもはや、経営がギリギリで、いくつもの雑誌を廃刊にし、他事業にもてをだして切り詰めて切り詰めて経営されていた。
「くっ……」
次は、件のラジオで紹介された書籍について調べた。そこには、彼のネタを“盗んだ”ライターの名前がのっていた。彼は以前かかわりがあったので、彼に電話をして、怒鳴り散らかした。
「あんた!!俺の作品をパクっただろ!!」
「ええ?はあ?人聞きのわるい、何を根拠にそんな」
相手は人生が上向いている人間、今では人気作家となった同時期の仲間だ。彼は的確なものいいにいらだった。
「いまからおくるスクリーンショットを見てくれ、データの日付もある」
そこには、確かに彼の作品の文字データがあり、それはラジオで発表された内容に悉く似通っていた。
「あれ?おかしいなあ、でもそんなわけ」
「お前!!この後に及んで言い逃れするつもりか!!10年前だって、俺のネタをぱくっておいて」
「はあ!!?違うだろ、あんたはイカレてたんだよ、一度ゴーストライターをさせられたくらいでモチベーションをなくして、四方八方に文句をつけていたんだよ、自分の作品だってな、だが俺はなあ、あの会社にもまれて、下積みを地道にやってきたんだ!!あんたのネタなんてパクってない!!」
「じゃあこの作品はなんなんだ」
「だからいっただろ!?偶然だって、俺は二人の取材元からこの話を聞き出したんだよ!!」
男は、納得できなかった。それで直接その心霊スポットに出向くことにした。
「……」
うすら寒い夕暮れ、廃屋、というより廃神社のようだった。
「ふん、幽霊などいるものか、俺の話の中からでてきた程度の物語が」
彼は誰にいうでもなくそこにはいった。
みると、何か奥に人影が見えた気がした。廃神社の両脇に、似た人影が見えた気がした。どこかで見た人影だ。あのいけ好かない作家だろうか、それとも編集者だろうか、いら立つ人影だ。
「おい!!待て!!」
それはすっとさらに奥に姿をけした。彼をおいかけてその神社の裏手に入ると、着物を着た古びた格好の少女が姿をあらわした。
「なんだ?お前」
「ひさしぶりじゃのお」
「誰だよ」
「覚えておらんのか?」
「ん?」
ふと、めを凝らした。するとみるみるサイトウの顔が青ざめて、突然その場から走りさろうとした。が、足は何かに足をつかまれているように鈍く、前に進めない。
「ぐっ!!」
サイトウは、前向きに倒れた。
「ちくしょう!!なんで!!!」
「お前は、私に願いをしたのだ、11年前のあの日に……」
そう、サイトウは作家デビューする前のころに、パワースポットめぐりをしていた。しかしその頃この神社はまだ、寂れてはいたが廃墟にはなっていなかった。そこでサイトウは知人に聞いてある方法を用いて“神”と強力な取引をしたのだ。
「神様……私が作家になれたら、商業デビューできたら、その報酬をすべてあなたに捧げます」
そのことを思い出したのだ。そのときもたしか、この少女の姿をぼんやりと見た気がしたのだ、はっきりとしたものではなく幻覚かと思ったのだが。
「ようやく思い出したか、取引を……」
「やめてくれ!!頼む!!俺は、ただ……あんな少ない稼ぎを捧げても意味がないと」
「お前を呼び寄せるのは苦労した」
いつのまにか、少女の隣に先程見た二つの影がたっていた。11年前の、まだ会社員だった彼の姿だった。
「この“幻覚”を用いて、作家に話を吹聴したのだ、最も、お前は必ずここで償いをする事はきまっているがな」
「決まっていない!!」
「ならばなぜ、お前は“あの話”を書いたのだ、私の創作したあの話を、そして、お前の“久々につくった”あの話を」
「違う!!俺は!!!」
「いいや」
そういって、少女はサイトウの両足首を両手でつかんだ。ズルズルと後方にひきづっていく、後ろには、巨大な目玉と、黒い空間の裂け目がひろがっている。
「お前は、“力”を失った、私はお前に力を授けたが、お前は私に見返りをよこさなかった、それゆえにお前は、力を失ったことを他人のせいにして、くるった“剽窃、剽窃”といって、他人にいちゃもんをつけつづけたのだ、この10年!!」
「違う!!!」
サイトウの叫びはあたり一面にとどろいた。近場に人がいれば、きっと誰かが助けてくれるほどに。少女の手を蹴りとばして、彼は神社の傍にきた。
ふと、前をみた、すると件の“作家”がたっていた。この話を自分に話してくれた本人だ。
「大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ、早く逃げなきゃ……」
フト、サイトウは足を止めた。
「全部……思い出した、俺は、どうかしてたんだ、あんたにも迷惑をかけた」
「大丈夫さ、同じ作家じゃないか」
そういって、彼はサイトウに手を伸ばした。だがサイトウは、早くその場所から逃げなければと思い急いでその場所をくぐろうとした、その時だった。
《ドタン》
今まで作家だと思っていたものは赤い柱に代わっていた。鳥居である、いや、その残骸で、ただ一本ぽつりとたっていて上部がさけてわれている柱。
その瞬間、足首をつかまれた。サイトウは振り返りつついった。
「しまった……」
その瞬間、少女はまるで鬼のような形相になり、サイトウを引き倒すと、そのまま、薄暗闇に引き釣りこんでいった。
「こんなの、違う、あれは、俺の作った話なんだ!!創作なんだ!!これは夢だ、許してくれ!!皆!!」
サイトウの断末魔は、まるで空気のようにシュウシュウと響いただけだった。
その数分後、件の作家が、廃神社の前にたどり着いた。周囲を見渡す。何の変化もない。確かに、サイトウはこの時間に来るはずだ。なぜなら、あの話には時間の制限がある。
作家は、サイトウの落とし物である、ペンをみた。だがそのペンをみても、作家には誰のペンかはわからなかった。
「まさかな……」
そういってペンをしまうと、ふと時計をみた。作家は、思わず口にした。
「しまった……A子との食事が……」
何もしらず、作家はその場所をあとにするのだった。
それだけではなく、彼の持ち掛けたネタや小説は、ことごとく出版社に握りつぶされただけではなく、まるまるパクって別の作家が出版していた。このことのダメージとトラウマは、彼のモチベーションを再起不能なほどに押しつぶした。
それからだ。人生の歯車が狂い始めたのは。いまでは賭け事ばかりをして、くだらないバイトを掛け持ちしている。
ラジオから、ある書籍を紹介して、その話のひとつ、こんな話が流れた。
「ある廃屋に幽霊がでるんだが、その幽霊は、想像に飢えているらしい、芸術で成功できなかった人間の怨念らしいんだ、だがそこで、しまった!と叫ぶと、50%の確率で成功者になれるらしい」
サイトウはあまりの事に手を止めた。その内容そのものじゃない。その既視感にだ。ワナワナと手が震える、まさか、そんな事が……。
すぐに出版社に怒鳴りこんだ。あれ以来ほとんど関わっていなかった出版社だ。しかし、皆疲労困憊といった感じで、以前の担当編集もいたが、彼が胸倉をつかんで尋ねるといった。
「ああ、あなたですか、たしかにあなたにはひどいことをしましたが、この10年、私だって、色々つらいおもいをしたんですよ」
サイトウは出版社の中を見渡す。割れたガラスすら修理されず、古びたベストセラーの小説のポスターが貼ってある。それもそうだろう、たしかにこの出版社はもはや、経営がギリギリで、いくつもの雑誌を廃刊にし、他事業にもてをだして切り詰めて切り詰めて経営されていた。
「くっ……」
次は、件のラジオで紹介された書籍について調べた。そこには、彼のネタを“盗んだ”ライターの名前がのっていた。彼は以前かかわりがあったので、彼に電話をして、怒鳴り散らかした。
「あんた!!俺の作品をパクっただろ!!」
「ええ?はあ?人聞きのわるい、何を根拠にそんな」
相手は人生が上向いている人間、今では人気作家となった同時期の仲間だ。彼は的確なものいいにいらだった。
「いまからおくるスクリーンショットを見てくれ、データの日付もある」
そこには、確かに彼の作品の文字データがあり、それはラジオで発表された内容に悉く似通っていた。
「あれ?おかしいなあ、でもそんなわけ」
「お前!!この後に及んで言い逃れするつもりか!!10年前だって、俺のネタをぱくっておいて」
「はあ!!?違うだろ、あんたはイカレてたんだよ、一度ゴーストライターをさせられたくらいでモチベーションをなくして、四方八方に文句をつけていたんだよ、自分の作品だってな、だが俺はなあ、あの会社にもまれて、下積みを地道にやってきたんだ!!あんたのネタなんてパクってない!!」
「じゃあこの作品はなんなんだ」
「だからいっただろ!?偶然だって、俺は二人の取材元からこの話を聞き出したんだよ!!」
男は、納得できなかった。それで直接その心霊スポットに出向くことにした。
「……」
うすら寒い夕暮れ、廃屋、というより廃神社のようだった。
「ふん、幽霊などいるものか、俺の話の中からでてきた程度の物語が」
彼は誰にいうでもなくそこにはいった。
みると、何か奥に人影が見えた気がした。廃神社の両脇に、似た人影が見えた気がした。どこかで見た人影だ。あのいけ好かない作家だろうか、それとも編集者だろうか、いら立つ人影だ。
「おい!!待て!!」
それはすっとさらに奥に姿をけした。彼をおいかけてその神社の裏手に入ると、着物を着た古びた格好の少女が姿をあらわした。
「なんだ?お前」
「ひさしぶりじゃのお」
「誰だよ」
「覚えておらんのか?」
「ん?」
ふと、めを凝らした。するとみるみるサイトウの顔が青ざめて、突然その場から走りさろうとした。が、足は何かに足をつかまれているように鈍く、前に進めない。
「ぐっ!!」
サイトウは、前向きに倒れた。
「ちくしょう!!なんで!!!」
「お前は、私に願いをしたのだ、11年前のあの日に……」
そう、サイトウは作家デビューする前のころに、パワースポットめぐりをしていた。しかしその頃この神社はまだ、寂れてはいたが廃墟にはなっていなかった。そこでサイトウは知人に聞いてある方法を用いて“神”と強力な取引をしたのだ。
「神様……私が作家になれたら、商業デビューできたら、その報酬をすべてあなたに捧げます」
そのことを思い出したのだ。そのときもたしか、この少女の姿をぼんやりと見た気がしたのだ、はっきりとしたものではなく幻覚かと思ったのだが。
「ようやく思い出したか、取引を……」
「やめてくれ!!頼む!!俺は、ただ……あんな少ない稼ぎを捧げても意味がないと」
「お前を呼び寄せるのは苦労した」
いつのまにか、少女の隣に先程見た二つの影がたっていた。11年前の、まだ会社員だった彼の姿だった。
「この“幻覚”を用いて、作家に話を吹聴したのだ、最も、お前は必ずここで償いをする事はきまっているがな」
「決まっていない!!」
「ならばなぜ、お前は“あの話”を書いたのだ、私の創作したあの話を、そして、お前の“久々につくった”あの話を」
「違う!!俺は!!!」
「いいや」
そういって、少女はサイトウの両足首を両手でつかんだ。ズルズルと後方にひきづっていく、後ろには、巨大な目玉と、黒い空間の裂け目がひろがっている。
「お前は、“力”を失った、私はお前に力を授けたが、お前は私に見返りをよこさなかった、それゆえにお前は、力を失ったことを他人のせいにして、くるった“剽窃、剽窃”といって、他人にいちゃもんをつけつづけたのだ、この10年!!」
「違う!!!」
サイトウの叫びはあたり一面にとどろいた。近場に人がいれば、きっと誰かが助けてくれるほどに。少女の手を蹴りとばして、彼は神社の傍にきた。
ふと、前をみた、すると件の“作家”がたっていた。この話を自分に話してくれた本人だ。
「大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ、早く逃げなきゃ……」
フト、サイトウは足を止めた。
「全部……思い出した、俺は、どうかしてたんだ、あんたにも迷惑をかけた」
「大丈夫さ、同じ作家じゃないか」
そういって、彼はサイトウに手を伸ばした。だがサイトウは、早くその場所から逃げなければと思い急いでその場所をくぐろうとした、その時だった。
《ドタン》
今まで作家だと思っていたものは赤い柱に代わっていた。鳥居である、いや、その残骸で、ただ一本ぽつりとたっていて上部がさけてわれている柱。
その瞬間、足首をつかまれた。サイトウは振り返りつついった。
「しまった……」
その瞬間、少女はまるで鬼のような形相になり、サイトウを引き倒すと、そのまま、薄暗闇に引き釣りこんでいった。
「こんなの、違う、あれは、俺の作った話なんだ!!創作なんだ!!これは夢だ、許してくれ!!皆!!」
サイトウの断末魔は、まるで空気のようにシュウシュウと響いただけだった。
その数分後、件の作家が、廃神社の前にたどり着いた。周囲を見渡す。何の変化もない。確かに、サイトウはこの時間に来るはずだ。なぜなら、あの話には時間の制限がある。
作家は、サイトウの落とし物である、ペンをみた。だがそのペンをみても、作家には誰のペンかはわからなかった。
「まさかな……」
そういってペンをしまうと、ふと時計をみた。作家は、思わず口にした。
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