集中力教室

ショー・ケン

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ゾーン指導

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集中力を指導する教室。スポーツ、芸術、運動、あらゆる趣味に対して“集中”の方法を伝授する達人がいた。あらゆるものに精通し、確かに一定の成果がでている。だが彼の教室には脱退者もかなりの数がいる、そうした人間はかならずいうのだ。
「もうこれ以上、成長する見込みがないので……」
 彼はわかっている。集中力を磨くと、それまで見ていた世界の楽しさや、気楽さが失われてしまうようなタイミングがある。いわゆるその趣味に熱中してその快楽に飽きてしまうのだ。
「もったいないなあ、飽きこそがゾーンの入り口なのに、人より熱中し、つまらない状態をのりこえてこそ、より一層楽しく、磨かれた技術を身に着けることができる」
 
だがこの指導者もわかっていやっている。人々がもっともお金をつぎ込むのは“実感がわくとき”“楽しい時”であり、そして、それをすぎたものは売れない。コンテンツであれ、こうした教室であれ、“楽しいという実感”こそが最も売れる商品なのだ。過剰に彼らの選択肢を決めることなどは、自由の侵害になってしまし、口うるさいコンプライスの問題がでてくるのだ。

 ため息をつきながら、彼は―現実のヘッドマウントディスプレイを外した。そう、この教室は仮想空間なのである。彼はため息をつく。現実の彼の顔はうだつがあがらず、がりがりで、何をやってもうまくいかない。ただ、メタバース空間では、集中力を上げる方法を指導する教室の講師なのであった。彼はひといきついて、言った。
「まあ、私も、メタバースの異なる自分になりきっているという快楽があるから、この仕事に飽きないのだけど」
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