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第一章 ―出会い―
悪魔ヤニー
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人間界の端、聖ルカウス高校の校舎裏で。金髪モヒカンの男子生徒と長髪の男子生徒が、短髪の眼鏡をかけたそばかすに困り眉の優しそうな生徒をいじめていた。
「や、やめて、ください」
眼鏡の生徒がいうと、モヒカンの生徒が答える。
「お前、悪魔憑きかよ、はっきり喋れねえのか!」
長髪の生徒がいった。
「いいじゃねえか、悪魔憑き、羨ましいぜ、この世を好き放題できるって、俺はハーレムがつくりてえ」
眼鏡の生徒がふと抱えていたカバンのファスナーが少し開いていることに気づく、慌ててかばうと、モヒカンの生徒がむりやりファスナーをこじあけた。
「何隠してんだよ……お、おい!!これって……」
取り上げられた本の表紙には、5つのしずく型の文様が中央の点にむかってならべられている文様がかかれていた。
「悪魔写本《デイモン・コーデックス》!!」
「禁書じゃねえか!!」
モヒカンの生徒は笑う。
「人間、嘘は付けねえもんだよなあ!!」
その一報、地中深くの異次元にある“魔界”背後に燃える火山と、新旧様々な城がそりたつ世界。その一角の邸宅を背にして。戦いの痕跡が、その邸宅の庭のあちこちにクレーターを残していた。
痩せたからだ、美白で青の目と青髪にととの吊り上がった薄い青の眉、はかなげな大きな瞳をもつ中性的な青年。悪魔サリエルが右手を自身の正面に突き出し言い放つ。
「お前の様な雑魚、相手にしている暇はない、魔界にザコと“力の秩序”を汚す人間は不要だ」
黒い力の波動が輪になり手から生み出され波打つ、美しい髪と彼の肩にかかるシルバーのマントが己の魔力でひらめく。その傍らでぎょろぎょろした目玉が表紙に浮かぶ魔導書がひとりでにぷかぷかとういて、ケラケラと笑う。
《キュウゥウウン……》
手のひらを広げるとその中に魔力の力場、黒い球体が出来上がる。焦点はさらに奥、それは対面で片膝をついている悪魔ヤニーに向けられていた。
悪魔ヤニーは、サリエルの美貌には及ばないものの、そこそこの美青年である。だがにやけ、怖れ、また怯み、その顔のゆがみと容赦もなく収縮する筋肉は、粗暴の悪さを感じさせ、いささか品性の差を感じさせるものだった。
(くそ、運がねえな、所詮雑魚相手に奇襲と勝ち誇って挑んだが、こんなS級悪魔を”用心棒”にしているとは、寝込みを襲った意味がねえ……没落貴族のヤニーが奇襲をしているという噂はここでも広まっていたか、ったく……魔族貴族連中、魔界が没落貴族に本気だしすぎだろ!!“スロット”に使える悪魔はいねえし、“退魔スロット”にもろくな人間の魂はねえ、どうする!?)
臆病な女の悪魔が、奥に見える巨大な邸宅の庭、池にかかる橋の傍でひざをおりまげ、ドレスを着て腰をぬかしている。彼女こそ邸宅の主の娘であり、ヤニーの標的だった、それをみてヤニーはいら立つ。
(チッ、クソザコが、お前のせいだぞ!!)
サリエルは容赦なく右手をふりさげると、詠唱を始めた。
「死ね!!死神のかがり火《グリムリーパー・ボーンファイア》」
彼の美しい腕に黒い雷がまきつき、その手に歪な球体がうまれた、それはまるで真っ黒な骨が球体を形づくったようだった。雷鳴がとどろき、球体は手の中に停滞し雷をまきとると、さらに巨大になった。
「てえ!!!」
そう言い放つと、球体はサリエルの髪やマント、その所作に反動を残して解き放たれた。
《ズオオオオッッ》
球体は対面でそれを監視していたヤニーにとびかかる。
「!!」
彼の意識と神経はひどく集中し、その中で時間がスローモーションになる。敵の技、それが近づくにつれ彼の眼球がひどく見開かれ、雷を纏う黒球は彼の直ぐ傍まで迫りくる。彼は咄嗟に気づいていた。どうあがいてもその速度の技をよける力量がない。
《ズズズズズ……》
「う、うわああああ!!」
情けない声をあげると、サリエルの頬に笑みがうかんだ。そこをみはからって、ニヤリと笑う。
「……魔力盾《セイズ・シルド》!」
そう叫ぶと、ヤニーの前方に黒いバリアが展開された。やがてそれは降りまがり折りたたまれると盾の形状になり、彼は中世の騎士の持つ盾のように、それを左手でもった。
「ふん、軟弱なバリアだ」
サリエルがそう言い放ったと同時に、黒い盾にピシッと音をたてて亀裂がはしった。
「くそが!!!」
「雑魚が、手を煩わせるな……私は早く仕事を終えて帰りたいのだ、ああ、退屈だった、本当に退屈だ……」
サリエルが見下すと、ヤニーは悲鳴をあげ、そして無様に泣き叫んだ。
「やめてくれえええ!!!助けてくれえええ!!」
《ググググ!!》
サリエルが突き出した右手を握るようにすると黒球は余計に大きくなり、また力をまし、地面をえぐりながらヤニーを後方に押しのけた。
「くそがあああ!!!このボケエエェ!!!!いや、嘘だ、タスケテクレエエ!!!いや、許さんぞカスがああああ!!」
「フンッ……下劣な言葉を」
サリエルは、心底見下した表情で勝利を確信して魔力の流れが弱くなった。ヤニーはその隙を見逃さなかった
(つってな!!)
ヤニーは右手を地面につける。そして言い放った。
「衝撃波《インパクト》!!」
石畳の地面に亀裂が走る。それと同時に右手から黒い衝撃派が発生し、石を粉砕し欠片が飛び散る、彼自身もその反動でふきとんだ。
「!!!小癪な!!」
その石畳の破片が、サリエルの頬をかすめ、彼は擦り傷をおった。その傷に触れると、ヤニーの思念が流れこんできた。
(どうせ負けるなら“死”を司りながら“美しい生”に執着するサリエルが嫌がることをしよう)
そう、ヤニーはその方法として破片の一つを魔力で操り、戦線布告としてサリエルの顔に傷をつけたのだ。サリエルは、歯ぎしりをした。
回転するヤニー。
(このまま、森の方に逃げよう)
近場の森をみて、後方回転し地面に着地した。また前方のサリエルが先程いた位置に目を向けた瞬間だった。サリエルの姿がない。
「どこをみている」
上方から声がして見上げると、敵の悪魔は自分を見下ろして両手をつきだしていた。一瞬の事だ。まさかこれほど早く詠唱と緻密な魔力の操作ができるとは。空中に浮遊したまま、魔導書がケラケラと笑い、開かれた。
「私の保有する悪魔の魂片は123、そして人間の魂は、5だ、おとなしく負けをみとめろ」
ヤニーはたじろぐ。3桁の悪魔を倒すとは、S級どころではなくSS級悪魔である。
「ま、待ってください!!」
ヤニーが叫ぶ、ふと、両手に力をこめていたサリエルが魔力を弱める。
「何だ、最後の言葉でも残したいのか?慎重に選べよ」
「へ、へい……それが……私には弟がいるのですが、こいつがバカでアホな上に、自分を最強だと自称して……しかし、あいつの“使い魔”がある種優秀でして、あいつを罠にはめれば、きっといい目を見れます、私なら、設備さえあれば見つけ出せますよ……」
「ふん、実の家族を裏切るとは、どこまでも下劣なやつ……」
「え、ええ?悪魔ってそういうものじゃ……」
「……それに私の“仮初の美”に傷をつけた罪は重い!!下等な下界で苦しめ、悪魔ヤニー!!!死の碇《タナトス・アンキューラ》」
「はっつ!!!」
詠唱とともに、ヤニーの周囲に黒い渦が発生する、その渦のひとつひとつから、白骨化したの悪魔の姿をしたものたちのがあらわれその手足が彼にまとわりつき、よくみると、悪魔たちの下に黒い碇のようなものと彼に巻き付く鎖がみえる。そしてそれは異常な重さとなった。そして、ヤニーが浮かび上がろうとするのを邪魔して、徐々に下へ下へと力が加わる。
「ぐ、ぐあああ!!」
ただ重いというだけではなく、それ自体が重力を操っているような、ふと、あまりの落下速度の変化にヤニーの下腹部に内臓がふわりと空中に置かれたような感覚に襲われ、地面にたたきつけられた。
《ズドン!!!》
「ガアッ」
次の瞬間、彼は地面にたたきつけられたのだった。
「ケタケタケタ!!」
と笑う骸たち、その笑いとともに、彼をおおう鎖から鉄のいばらが生え、その茨が巨大になり、それ自体がドリルの刃のようになり回転しはじめた、ヤニーの頭蓋や体をほじりながら、それは同時に地中を掘りすすめ大穴をあけ、その重さもあいまって、地面の底へずんずんと突き抜けていくのだった。ヤニーは体についた死者を薙ぎ払おうとするも不可能であった。そして、叫びをあげる。
「ま、まさか、いやだ、いやだ……いやだああ!!!!」
魔界の規則、それは重力があべこべであること。彼は落下しながら、人間界でいう、地面へと押し上げられていくのだった。
ヤニーは思い出していた。自分の不幸が、かつて数年前に、実の弟を下界に突き落としてから始まっていることを。
「や、やめて、ください」
眼鏡の生徒がいうと、モヒカンの生徒が答える。
「お前、悪魔憑きかよ、はっきり喋れねえのか!」
長髪の生徒がいった。
「いいじゃねえか、悪魔憑き、羨ましいぜ、この世を好き放題できるって、俺はハーレムがつくりてえ」
眼鏡の生徒がふと抱えていたカバンのファスナーが少し開いていることに気づく、慌ててかばうと、モヒカンの生徒がむりやりファスナーをこじあけた。
「何隠してんだよ……お、おい!!これって……」
取り上げられた本の表紙には、5つのしずく型の文様が中央の点にむかってならべられている文様がかかれていた。
「悪魔写本《デイモン・コーデックス》!!」
「禁書じゃねえか!!」
モヒカンの生徒は笑う。
「人間、嘘は付けねえもんだよなあ!!」
その一報、地中深くの異次元にある“魔界”背後に燃える火山と、新旧様々な城がそりたつ世界。その一角の邸宅を背にして。戦いの痕跡が、その邸宅の庭のあちこちにクレーターを残していた。
痩せたからだ、美白で青の目と青髪にととの吊り上がった薄い青の眉、はかなげな大きな瞳をもつ中性的な青年。悪魔サリエルが右手を自身の正面に突き出し言い放つ。
「お前の様な雑魚、相手にしている暇はない、魔界にザコと“力の秩序”を汚す人間は不要だ」
黒い力の波動が輪になり手から生み出され波打つ、美しい髪と彼の肩にかかるシルバーのマントが己の魔力でひらめく。その傍らでぎょろぎょろした目玉が表紙に浮かぶ魔導書がひとりでにぷかぷかとういて、ケラケラと笑う。
《キュウゥウウン……》
手のひらを広げるとその中に魔力の力場、黒い球体が出来上がる。焦点はさらに奥、それは対面で片膝をついている悪魔ヤニーに向けられていた。
悪魔ヤニーは、サリエルの美貌には及ばないものの、そこそこの美青年である。だがにやけ、怖れ、また怯み、その顔のゆがみと容赦もなく収縮する筋肉は、粗暴の悪さを感じさせ、いささか品性の差を感じさせるものだった。
(くそ、運がねえな、所詮雑魚相手に奇襲と勝ち誇って挑んだが、こんなS級悪魔を”用心棒”にしているとは、寝込みを襲った意味がねえ……没落貴族のヤニーが奇襲をしているという噂はここでも広まっていたか、ったく……魔族貴族連中、魔界が没落貴族に本気だしすぎだろ!!“スロット”に使える悪魔はいねえし、“退魔スロット”にもろくな人間の魂はねえ、どうする!?)
臆病な女の悪魔が、奥に見える巨大な邸宅の庭、池にかかる橋の傍でひざをおりまげ、ドレスを着て腰をぬかしている。彼女こそ邸宅の主の娘であり、ヤニーの標的だった、それをみてヤニーはいら立つ。
(チッ、クソザコが、お前のせいだぞ!!)
サリエルは容赦なく右手をふりさげると、詠唱を始めた。
「死ね!!死神のかがり火《グリムリーパー・ボーンファイア》」
彼の美しい腕に黒い雷がまきつき、その手に歪な球体がうまれた、それはまるで真っ黒な骨が球体を形づくったようだった。雷鳴がとどろき、球体は手の中に停滞し雷をまきとると、さらに巨大になった。
「てえ!!!」
そう言い放つと、球体はサリエルの髪やマント、その所作に反動を残して解き放たれた。
《ズオオオオッッ》
球体は対面でそれを監視していたヤニーにとびかかる。
「!!」
彼の意識と神経はひどく集中し、その中で時間がスローモーションになる。敵の技、それが近づくにつれ彼の眼球がひどく見開かれ、雷を纏う黒球は彼の直ぐ傍まで迫りくる。彼は咄嗟に気づいていた。どうあがいてもその速度の技をよける力量がない。
《ズズズズズ……》
「う、うわああああ!!」
情けない声をあげると、サリエルの頬に笑みがうかんだ。そこをみはからって、ニヤリと笑う。
「……魔力盾《セイズ・シルド》!」
そう叫ぶと、ヤニーの前方に黒いバリアが展開された。やがてそれは降りまがり折りたたまれると盾の形状になり、彼は中世の騎士の持つ盾のように、それを左手でもった。
「ふん、軟弱なバリアだ」
サリエルがそう言い放ったと同時に、黒い盾にピシッと音をたてて亀裂がはしった。
「くそが!!!」
「雑魚が、手を煩わせるな……私は早く仕事を終えて帰りたいのだ、ああ、退屈だった、本当に退屈だ……」
サリエルが見下すと、ヤニーは悲鳴をあげ、そして無様に泣き叫んだ。
「やめてくれえええ!!!助けてくれえええ!!」
《ググググ!!》
サリエルが突き出した右手を握るようにすると黒球は余計に大きくなり、また力をまし、地面をえぐりながらヤニーを後方に押しのけた。
「くそがあああ!!!このボケエエェ!!!!いや、嘘だ、タスケテクレエエ!!!いや、許さんぞカスがああああ!!」
「フンッ……下劣な言葉を」
サリエルは、心底見下した表情で勝利を確信して魔力の流れが弱くなった。ヤニーはその隙を見逃さなかった
(つってな!!)
ヤニーは右手を地面につける。そして言い放った。
「衝撃波《インパクト》!!」
石畳の地面に亀裂が走る。それと同時に右手から黒い衝撃派が発生し、石を粉砕し欠片が飛び散る、彼自身もその反動でふきとんだ。
「!!!小癪な!!」
その石畳の破片が、サリエルの頬をかすめ、彼は擦り傷をおった。その傷に触れると、ヤニーの思念が流れこんできた。
(どうせ負けるなら“死”を司りながら“美しい生”に執着するサリエルが嫌がることをしよう)
そう、ヤニーはその方法として破片の一つを魔力で操り、戦線布告としてサリエルの顔に傷をつけたのだ。サリエルは、歯ぎしりをした。
回転するヤニー。
(このまま、森の方に逃げよう)
近場の森をみて、後方回転し地面に着地した。また前方のサリエルが先程いた位置に目を向けた瞬間だった。サリエルの姿がない。
「どこをみている」
上方から声がして見上げると、敵の悪魔は自分を見下ろして両手をつきだしていた。一瞬の事だ。まさかこれほど早く詠唱と緻密な魔力の操作ができるとは。空中に浮遊したまま、魔導書がケラケラと笑い、開かれた。
「私の保有する悪魔の魂片は123、そして人間の魂は、5だ、おとなしく負けをみとめろ」
ヤニーはたじろぐ。3桁の悪魔を倒すとは、S級どころではなくSS級悪魔である。
「ま、待ってください!!」
ヤニーが叫ぶ、ふと、両手に力をこめていたサリエルが魔力を弱める。
「何だ、最後の言葉でも残したいのか?慎重に選べよ」
「へ、へい……それが……私には弟がいるのですが、こいつがバカでアホな上に、自分を最強だと自称して……しかし、あいつの“使い魔”がある種優秀でして、あいつを罠にはめれば、きっといい目を見れます、私なら、設備さえあれば見つけ出せますよ……」
「ふん、実の家族を裏切るとは、どこまでも下劣なやつ……」
「え、ええ?悪魔ってそういうものじゃ……」
「……それに私の“仮初の美”に傷をつけた罪は重い!!下等な下界で苦しめ、悪魔ヤニー!!!死の碇《タナトス・アンキューラ》」
「はっつ!!!」
詠唱とともに、ヤニーの周囲に黒い渦が発生する、その渦のひとつひとつから、白骨化したの悪魔の姿をしたものたちのがあらわれその手足が彼にまとわりつき、よくみると、悪魔たちの下に黒い碇のようなものと彼に巻き付く鎖がみえる。そしてそれは異常な重さとなった。そして、ヤニーが浮かび上がろうとするのを邪魔して、徐々に下へ下へと力が加わる。
「ぐ、ぐあああ!!」
ただ重いというだけではなく、それ自体が重力を操っているような、ふと、あまりの落下速度の変化にヤニーの下腹部に内臓がふわりと空中に置かれたような感覚に襲われ、地面にたたきつけられた。
《ズドン!!!》
「ガアッ」
次の瞬間、彼は地面にたたきつけられたのだった。
「ケタケタケタ!!」
と笑う骸たち、その笑いとともに、彼をおおう鎖から鉄のいばらが生え、その茨が巨大になり、それ自体がドリルの刃のようになり回転しはじめた、ヤニーの頭蓋や体をほじりながら、それは同時に地中を掘りすすめ大穴をあけ、その重さもあいまって、地面の底へずんずんと突き抜けていくのだった。ヤニーは体についた死者を薙ぎ払おうとするも不可能であった。そして、叫びをあげる。
「ま、まさか、いやだ、いやだ……いやだああ!!!!」
魔界の規則、それは重力があべこべであること。彼は落下しながら、人間界でいう、地面へと押し上げられていくのだった。
ヤニーは思い出していた。自分の不幸が、かつて数年前に、実の弟を下界に突き落としてから始まっていることを。
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