陰謀量産

ショー・ケン

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陰謀量産

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 ある時期から、ありとあらゆる人気もの、インフルエンサーやモデル、タレントなどが、陰謀論を話し始める。だが彼らに対する陰謀論もまた出回った。
「なぜか顔のいい人間ばかりが陰謀論を話し始めている、陰謀論なんて本当なのか?」
 たしかにその頃の陰謀論業界は、顔のいい人間ばかりが台頭し始めていた。

 同時期巷では、科学的実験により顔のいい人間がそうでない人間と比べてキャリアや、印象に差があるという事が話題になり問題視され始めていた。知的に見えたり、人からの印象が良くなるという事だ。

 それによって、陰謀論に疑念も生まれた。陰謀論を流すにも結局、才能や運や顔の良しあしがある、彼らは流行に乗っているだけだ、陰謀論がはやり始めたのは近頃景気が悪くなってるからだ、そもそも彼らが陰謀論を流す前から陰謀論は流行し始めていた。と納得し始める人々。だが流行はまた一段と深まる。なぜならその国自体がさらに不景気になっていったからだ、ありとあらゆる人間が陰謀論に走った。インターネットの動画、SNSで拡散される……大企業の陰謀、国の陰謀、成功者の陰謀、人々の敵意はより巨大なものに向けられていった。

 それによって人々は団結したかにおもえた。あらゆる不平、不公平に対して、歪んではいても陰謀論という形で一つの意思がまとまった。デモも起こったし、陰謀論を堂々と唱える政党もうまれる。陰謀論を話すタレントやインフルエンサーは、アイドルのようになっていった。
 
 だがその影で流行に疑問を呈すものもいた。かしこい男のゴシップ記者が、ある噂を調べ始めたのは丁度その時期
“メンイングレー”
 グレーのコートをきた黒づくめの男たち、どうやら相当な金持ちに雇われたらしき人々が、カリスマ性をもつインフルエンサーやタレント、モデルなどに接触して、ある事を持ち掛けるそうだ。
「君の顔をわからないようにさらに美しく整形しよう、その代わりに君は陰謀論を流してくれ」
 彼らは別に人さらいではなく、ただそう交渉を持ち掛けるそうだ。初めはその記者もそんなバカげた話があるかと思った。だが彼はどんなバカげたゴシップでも緻密に取材して、事実かどうかを見極める体質だった。陰謀論を愛する人々と反対に。

 記者は陰謀論を流すことが何の得になるのだろうと考えた。きっとメンイングレーは成功者や権力者に雇われた者たちだろうに、が、陰謀論の根本的矛盾構造に目を向けた。陰謀論を流すものも、見聞きするものも“現実とかけ離れたファンタジー”に救いを求めているのだ。元来陰謀論の雑誌や、陰謀論を流す人間はそうしたファンタジーを読者と共有していた、だがもし、それが成功者や権力者の目についたら?翌々調べると、陰謀論が流行する以前は、デモやら、ストライキ、権力者に対する抵抗が盛んにあったものだが、陰謀論の流行からそうしたものは弱くなっていった。

 もしかしたら“勝ち組”たちは、あえて、“真実性の弱い情報”と、“根拠の薄い敵意”を醸成することで、自分たちに最もらしい敵意が向けられることを回避しているのではないか。一斉にインフルエンサーが陰謀論にはまった時期から、陰謀論の毛色が変わったことにも着目した。ならば“権力者や成功者”が“インフルエンサー”に接触するのも間違いはないと。

 その読みはどうやらあたったらしく、なんと彼はメンイングレーと陰謀論を取り扱う雑誌社と、成功者、権力者たちとの接触の現場の情報を手に入れた。情報屋に大金を払って、彼は交渉の現場をついにつきとめ遠目から、録音、録画した。彼らが実際にくちにしていたのだ。
「これで陰謀論によって、大衆のガス抜きができる」
「実際の税金や、選挙などに目を向けてもらうよりいい」
「ぼんやりとした情報に怒りをぶつけていれば、彼らはデモもストライキもせず、互いに潰しあうのだろう」
「“何かのせい”にすれば事実を知ろうともしない」
 だが、しかしその話は記事として出回らなかった。その記者も、一生を安定して送れるほどの口止め料をもらったからだった。そうして何も変わらず、その国の人々はあらゆる不平や不満を、陰謀論にぶつけて、学ばず、知識を共有せず、快楽として消費しつづけたのだという。

 記者はぼんやりと思っていた。
「需要と供給があうのならいいじゃないか、ほんとうのかしこさより“かしこくみえる事”のほうが需要があるんだ」
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