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キャスル侯爵領

嘆きの塔3

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 薄暗い塔の中を、少女達が静かに移動する。
塔の中は快適とまではいかないが、衛生上の問題点は無さそうだ。

《キーパタン!》扉が閉まる音を少女達は確認すると、少女達は小さな光の玉を魔力で発現さる。

そして、お互いの顔を確認し頷き合った。

そして、塔の上層部を目指すのだ。



《コツコツ、コツコツ、コツコツ》



 私と、ルーチェは足音を忍ばせ嘆きの塔の探索をしている。

先日、嘆きの塔がどの様な場所かは、ルーチェから教えて貰った。

その時のルーチェは、どうしようもなく苦しそうな表情をしていたのも覚えている。
でも、確かめたい思いも覚えた。
そんな感情を持つ日々を送っていたのだ。




 優しい大人達に見守られ、子供らしく過ごす1日。
いつもと変わらない日常の筈だった。


「ルーチェ見て、嘆きの塔に馬車が向かっているよ」
「リリィ、行くなんて言わないよね」
「・・・・」
私は、駆け出していたのだ。自分が生きていく世界から、目を反らしたくなかった。

塔に向かう馬車を見たとたんに、行動してしまったのだ。




 「ルーチェ、ごめんね」
「良いよ、本心では、私も知りたかったんだ」

そう、少女達は知りたかったのだろう。

少女達は、小声で会話をすると再び上層部を目指す。






 塔の中は、薄暗いが小さな窓が所々に有る。そこからは、春の風とは少し違う冷たい風が吹き込んでいる。

建物は石材で、できている為に重厚な印象だ。

まるでファンタジー小説での、主人公の冒険の場面を連想してしまう。

私達は、小さな歩幅でひたすら塔の上層部を目指し、階段を昇るとその階からは明らかに人の気配がしていた。

胸がドキドキする。

魔術で出した光の玉を消すと、薄暗い空間が広がる。

私達がその階に踏み込むと、女性のすすり泣く声が聞こえてくる。

灯り取りの小さな窓から、この空間に相応しく無い柔らかな光が微かに射し込む。

ルーチェと繋がっている手から、緊張が伝わってくる。

ルーチェを巻き込んでしまった事に、深く後悔してしまう。

そして、私も・・怖いのだ。




 薄暗さに馴れた、私達が見た空間には・・鉄の冊が嵌められた廊だったのだから。




 小さな廊には、少女達が一人づつ閉じ込められている。

少女達の瞳に、私達は映っていないのだろう。
彼女達は死んだ目をし、首には首輪が着いている。

「隷属の首輪?」
私は、少女達が首輪をしている姿に衝撃を受ける。

「魔力を使えなくしているのよ」

旧ぺルリン王国の、貴族の令嬢達。

キャスル侯爵領は、旧ぺルリン王国と国境を接していた領だ。

そして、キングプロテニア王国と旧ペルリン王国は、戦争をしていた。

その戦争は、花の乙女達の召喚の少し前にキングプロテニア王国の勝利として終わったのだ。

この少女達は・・。



「ここに集められた令嬢達の家は、ペルリン王国の強硬派で、戦争に積極的に貢献、又は王国の腐敗に関係していたらしいわ」

ルーチェは、淡々と語る。

「家の取り潰しと、戦争の戦利品みたいね」

ルーチェの言葉に、リリィは、ごくりと唾を飲む。

「戦利品なの?」

「えぇ、そう聞いたわ。貴族の娘は、魔力が高い者が多いからじゃないかしら」

私は・・その時、足場が崩れる感覚がした。
怖くて、只、泣いてしまいたい位に怖くなった。


「リリィ、帰ろう」
私はルーチェに促されて、その場を後にした。
私達は逃げるように塔の階段を、駆け降りたのだ。


何が違うのか、分からなくなりそうだ。
彼女達と、私の違いってなんなんだろう。

それは、似て非なる事。

駆けていると、履いている上質な靴が視界に映る。
ドレスの裾から見えるレースは、軽やかに揺れている。

それは、未来の花嫁となる者に与えられたのだ。
召喚されたから・・・ただ、それだけなの。

視界が水分で曇る。

私達は、塔から、現実から逃げるように扉から外に飛び出した。





 春から夏に移る季節の、太陽の光が眩しく感じる。

塔の中で見たもの全てが、まるで嘘の様だ。
そして相談する事なく、良く遊ぶ箱庭を目指したのだ。




 箱庭に着くと、姉やのエイミーが私達を探していた。

「まぁ、2人共どこで遊んでいたんですか」
エイミーの屈託の無い笑顔に、癒されてしまう。

エイミーは、肌触りの良い布で汗を拭いてくれる。

もしも・・戦争に負けていたら。
勿論、召喚は行われていなかった。

そして、塔の中にいた少女はエイミーだったかも。

「エイミー!!」
私は、エイミーに抱きついてしまう。

「あら、あら、どうしたんですか?」
エイミーは、私の背中を優しく撫でてくれる。

私とルーチェはエイミーと手を繋いで貰って、室内へと移動した。

「今日のオヤツは、ドーナツですよ」
エイミーの優しい声が心地好い。

その日のオヤツは、蜂蜜を垂らしたミルクとプレーンのドーナツだったが、ルーチェと私は何時もの倍は食べてしまったのだ。

何を、考えていたのだろうか。

沢山食べないと、ばれてしまうのではと思い込んでしまった、後ろめたさかもしれない。






 いつもと同じ優しい時間を、その後過ごした。

いつもと同じように、ルーチェは夕方にはマーロンと家に帰り、私はフリーゲルと過ごす。


「さぁ、もう、お休みだよ」
フリーゲルが私に告げる。

「行かないで」
彼を引き止めてしまう。

もしかして・・塔に・・。
そんな愚かな事を、考えをしてしまう。

「眠れない?」

「うん」

「そうだね、じゃあ・・少しだけ夜の勉強をしよう」

青年は妖艶に微笑む。

それは、月の美しい夜の出来事。


 
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