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幕間2
聖女伝説~椿の君~5
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困惑を隠せない聖女が、神官長に問い掛ける。
「あの、本気ですか?・・・・それに、迷惑を掛ける事になりますよ」
「聖女様、私は本気です。それに、私にとっても名誉な事にちがい有りません」
「立場は・・・・お立場は、どうなさるのですか?神官長に成るには、相当な修練が必要だったのでは有りませんか?」
「お優しいのですね。立場的な事は問題点有りません。変わりの地位を貰いましたから」
聖女は心配そうに、神官長を見上げる。
神官長は自分を見つめる、聖女の漆黒の瞳と目線を合わせる。
この漆黒の瞳に自分は囚われたのだと納得した。
聖女が召喚された時から忘れられ無かった。
漆黒の瞳には神からの慈悲も、この世の悲しみも凝縮されているように感じた。
己の物にしたい、ただそれだけを願い地位を得た。
「教皇になりました。ただの名誉職ですが、あなたを守るぐらいは出来る地位です」
「名誉職なんですか?」
「申し訳無く思いますが単なる名誉職です」
神官長は、本当に申し訳ない、そんな演技をする。
これは聖女が神殿の組織を知らない事を逆手に取ったのだ。
「いいえ、心強いです。その・・・・すいません」
聖女は、少女の様にはにかむ。
「すいません・・・・有り難うと、言って下さい」
神官長は、聖女に手を差し出す。
「参りましょう」
「有り難うございます。宜しく御願いします」
聖女は晴れやかな笑顔で教皇の手に、指先を乗せる。
悲しみも、苦しみも、背負った者が強く有る為に浮かべる笑みが教皇を見つめる。
聖女は、微笑みながら大理石の廊下を歩む。
大理石の廊下を進み召喚された時に降臨した、花の間の扉の前を通る。
感じるのは、懐かしさ。
吉原であの方の死を告げた男が立ち去った後、死んでしまいたいと思った。
しかし、結果として自分は聖女として花の間に召喚され、再び愛しいあの方に巡り合えたのだ。
愛らしい4人の、王女達の顔が浮かぶ。
「聖女様・・・・」教皇が、聖女を呼ぶ。
「此処から始まりましたのね。そして、また始まるのね」
聖女は、教皇に笑いかける。
「お供いたします。どんなに遠い道のりだとしても、貴方を1人に致しません」
まだ夜が開けきらない早朝、聖女は教皇と共に神殿を後にする。
それは異例の時間帯。
「聖女様、この様な早朝でも見送りの民が居ります。見送りを受けて挙げて下さい」
教皇は、半ば強制的に聖女を馬車の窓際に追い立て窓を開ける。
「うっ・・・・」
聖女の顔が、クチャリト歪む。
馬車のスピードは、最遅に落とされる
護衛の為に馬上の聖騎士達は、聖女の視界を確保するように馬車の脇から外れる。
早朝の王都の道沿いに居るのは、町民の青年。
町民の青年の腕の中には、乳飲み子が抱かれている。
町民の青年には、他に3人の幼い娘が居る。
一番、年長の幼児の両手には更に幼い子の手が繋がれている。
年長の、幼児が聖女を視線に捕らえる。
両脇の子達は母の顔に涙する。
「かあさま!!私がんばる!かあさま・・・・わすれないからー!!」
年長の子は、涙をこらえ叫ぶ。
「かあさま・・・・わすれないからー!!」
「かあさま!!」
両脇の子達も、母に意志を必死に伝える。
「貴方達を愛してる!!どうか・・・・どうか・・・・健やかに!貴方達の未来を、幸せを祈り続けるわ!」
聖女は窓から身を乗り出し、愛しい者達に最後の別れを告げる。
短い逢瀬、この家族に限れば愛情の確認。
乳飲み子を、抱きしめてる青年に近寄る人影を聖女が見詰める。
4人目の王女が産まれ、体調が整った時期に呼び出された。
国王の側近に内々に呼ばれ告げられたのは神殿への降下。
そして、降下した後には王女達に会わない様にする事。
「聖女様には感謝しております。巡礼の旅の尊さも解っております。しかし・・・・」
側近の方は、本当に申し訳ない、そんな表情だったわ。
国王陛下の側近なんだから、身分の高い貴族なんでしょうに。
そんな様子の彼に、私から御願いをしたのよ。
「殿下には間際迄、内密にして下さい」
彼が断れない様子を利用したの。
本当に、ご免なさい。
「そんな・・・・本当に宜しいのですか」
彼は、泣きそうな顔だった。
王女達に会わせたくない。悲しいけど、理解できるの。
・・・・聖女の巡礼。それは、巡礼先の男達と閨を共にする事だもの。
王女達・・・・王族は、至高の存在。
巡礼の事は事前に神から教えて貰っていたの。
私の中でも神殿に降下したら、王女達に・・・・殿下にも会わないと決めていた事。
「殿下と王女達をこの先、見守って下さい」
私は、彼に願ったの。
彼の後ろめたさを逆手に取って。
彼は、片膝を床に付け誓ってくれたの。
殿下と王女達に寄り添い見守ると。
本当に有り難う。
御願いしてみて良かった。
彼は当時国王の側近だったが、聖女との約束を守り国王の側近を辞し王太子の陣営に加わる。
王太子は、父で有る国王と政治、経済、聖女の処遇など幾つかの問題で衝突を繰り返したが、彼を陣営に迎えた事で有利に立ち回る事ができた。
彼と聖女の会合は、大国の歴史を動かしたのだ。
聖女は隣に座る教皇を、涙を流しながら睨み付ける。
「困った方、貴方も、殿下も・・・・でも・うっ」
聖女は、涙で声を詰まらる。
「有り難う、うっうっ、有り難う」
「私は、貴方の為になるなら何でもします。貴方は、私の常緑の君なんですから」
教皇は聖女の涙を静かに唇で拭い、抱きしめた。
「あの、本気ですか?・・・・それに、迷惑を掛ける事になりますよ」
「聖女様、私は本気です。それに、私にとっても名誉な事にちがい有りません」
「立場は・・・・お立場は、どうなさるのですか?神官長に成るには、相当な修練が必要だったのでは有りませんか?」
「お優しいのですね。立場的な事は問題点有りません。変わりの地位を貰いましたから」
聖女は心配そうに、神官長を見上げる。
神官長は自分を見つめる、聖女の漆黒の瞳と目線を合わせる。
この漆黒の瞳に自分は囚われたのだと納得した。
聖女が召喚された時から忘れられ無かった。
漆黒の瞳には神からの慈悲も、この世の悲しみも凝縮されているように感じた。
己の物にしたい、ただそれだけを願い地位を得た。
「教皇になりました。ただの名誉職ですが、あなたを守るぐらいは出来る地位です」
「名誉職なんですか?」
「申し訳無く思いますが単なる名誉職です」
神官長は、本当に申し訳ない、そんな演技をする。
これは聖女が神殿の組織を知らない事を逆手に取ったのだ。
「いいえ、心強いです。その・・・・すいません」
聖女は、少女の様にはにかむ。
「すいません・・・・有り難うと、言って下さい」
神官長は、聖女に手を差し出す。
「参りましょう」
「有り難うございます。宜しく御願いします」
聖女は晴れやかな笑顔で教皇の手に、指先を乗せる。
悲しみも、苦しみも、背負った者が強く有る為に浮かべる笑みが教皇を見つめる。
聖女は、微笑みながら大理石の廊下を歩む。
大理石の廊下を進み召喚された時に降臨した、花の間の扉の前を通る。
感じるのは、懐かしさ。
吉原であの方の死を告げた男が立ち去った後、死んでしまいたいと思った。
しかし、結果として自分は聖女として花の間に召喚され、再び愛しいあの方に巡り合えたのだ。
愛らしい4人の、王女達の顔が浮かぶ。
「聖女様・・・・」教皇が、聖女を呼ぶ。
「此処から始まりましたのね。そして、また始まるのね」
聖女は、教皇に笑いかける。
「お供いたします。どんなに遠い道のりだとしても、貴方を1人に致しません」
まだ夜が開けきらない早朝、聖女は教皇と共に神殿を後にする。
それは異例の時間帯。
「聖女様、この様な早朝でも見送りの民が居ります。見送りを受けて挙げて下さい」
教皇は、半ば強制的に聖女を馬車の窓際に追い立て窓を開ける。
「うっ・・・・」
聖女の顔が、クチャリト歪む。
馬車のスピードは、最遅に落とされる
護衛の為に馬上の聖騎士達は、聖女の視界を確保するように馬車の脇から外れる。
早朝の王都の道沿いに居るのは、町民の青年。
町民の青年の腕の中には、乳飲み子が抱かれている。
町民の青年には、他に3人の幼い娘が居る。
一番、年長の幼児の両手には更に幼い子の手が繋がれている。
年長の、幼児が聖女を視線に捕らえる。
両脇の子達は母の顔に涙する。
「かあさま!!私がんばる!かあさま・・・・わすれないからー!!」
年長の子は、涙をこらえ叫ぶ。
「かあさま・・・・わすれないからー!!」
「かあさま!!」
両脇の子達も、母に意志を必死に伝える。
「貴方達を愛してる!!どうか・・・・どうか・・・・健やかに!貴方達の未来を、幸せを祈り続けるわ!」
聖女は窓から身を乗り出し、愛しい者達に最後の別れを告げる。
短い逢瀬、この家族に限れば愛情の確認。
乳飲み子を、抱きしめてる青年に近寄る人影を聖女が見詰める。
4人目の王女が産まれ、体調が整った時期に呼び出された。
国王の側近に内々に呼ばれ告げられたのは神殿への降下。
そして、降下した後には王女達に会わない様にする事。
「聖女様には感謝しております。巡礼の旅の尊さも解っております。しかし・・・・」
側近の方は、本当に申し訳ない、そんな表情だったわ。
国王陛下の側近なんだから、身分の高い貴族なんでしょうに。
そんな様子の彼に、私から御願いをしたのよ。
「殿下には間際迄、内密にして下さい」
彼が断れない様子を利用したの。
本当に、ご免なさい。
「そんな・・・・本当に宜しいのですか」
彼は、泣きそうな顔だった。
王女達に会わせたくない。悲しいけど、理解できるの。
・・・・聖女の巡礼。それは、巡礼先の男達と閨を共にする事だもの。
王女達・・・・王族は、至高の存在。
巡礼の事は事前に神から教えて貰っていたの。
私の中でも神殿に降下したら、王女達に・・・・殿下にも会わないと決めていた事。
「殿下と王女達をこの先、見守って下さい」
私は、彼に願ったの。
彼の後ろめたさを逆手に取って。
彼は、片膝を床に付け誓ってくれたの。
殿下と王女達に寄り添い見守ると。
本当に有り難う。
御願いしてみて良かった。
彼は当時国王の側近だったが、聖女との約束を守り国王の側近を辞し王太子の陣営に加わる。
王太子は、父で有る国王と政治、経済、聖女の処遇など幾つかの問題で衝突を繰り返したが、彼を陣営に迎えた事で有利に立ち回る事ができた。
彼と聖女の会合は、大国の歴史を動かしたのだ。
聖女は隣に座る教皇を、涙を流しながら睨み付ける。
「困った方、貴方も、殿下も・・・・でも・うっ」
聖女は、涙で声を詰まらる。
「有り難う、うっうっ、有り難う」
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