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異世界での一歩
初夏の風景
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東屋に続く小道は小さな森をイメージしている。
幼い、私にとっては最適な遊び場。
サイラスとフリーゲル、エミリーと数人の従者と小道を進む。
サイラスに手を引かれながらも、枝を掴んだり脇に逸れようとする行動は幼子そのもの。
時々に幼児脳になってしまう私は、サイラスの手をほどき低木樹、藪の中に入り込んでは追いかけっこを楽しんでいる。
「エミリー、こっちだよ」
「フッフッ…… お嬢様、私では入れません」
優しく、笑ってくれるエミリーが大好き。
《カサカサッカサカサ》
サイラスが、近付いて来るのが解る。
私は素早く飛び出し、従者達の中に飛び込もうとするが、惜しくも転倒する。
誰かが、優しく抱き上げてくれる。
目を開けて見ると、紫色のベールに包まれていた。
突如、忌まわしい記憶が甦る。
「ユウカ、朝一の畑の水やりはお前にまかせる」
それは、本家の大奥様の鶴の一声。
撫子の生家が所有していた畑は、山中の少し開けた場所で片道一時間を必要とした。
中学に入ってからは片道一時間を掛けて、冬以外はほぼ毎日通いつめた。
特に辛かったのは、夏の朝だ。
「夏は、朝日が出る前に水やりを終わらせなさい」
夜が明けきらない内に水やりを終わらると、空は夜の紺碧から紫雲に包まれる。
『1日が始まる空の色』
「お姫様泣かないで」優しく慰めてくれる。
「お嬢様、今、直しますからね」
「リリィ」心配そうに背中をなでてくれる。
あっ、ここは何て暖かいんだろう。
私を、抱き上げてくれた紫色の髪をした貴公子を見上げる。
銀色の瞳が心配そうに揺れている。
「あのね、痛くて泣いてるんじゃ無いよ。フリーゲル様」
彼に抱っこされている私は紫色の髪を浚う。
「とても綺麗な紫き色だからだよ。1日の始まりの色だね」
体力と精神の限界のような毎日、その日々の中で唯一美しいと思った。
大人なら、片道20分の東屋までの道を私達は倍の時間を掛けて到着したよ。
子供の身体は、疲れ知らずです。
キャスル家の東屋は、小さな森に馴染むように木材で出来ていて、寛ぎやすいようにフローリングが張られている。
元、日本人には靴を脱げる場所は貴重だね。
しかも、日本で住んでいた家より広い。
うーん、能の舞台みたいなかんじかな?
木と緑の匂いに包まれてアイスティーを呑むの。
そして、サンドイッチと焼菓子を堪能する。
「上手いか?」
「美味しいです」そりゃ、勿論。
サイラスが、従者から果物を受け取っている。
それは、小さな森に自生している果物。
彼が口に入れてくれた果物は、口の中で蕩けてしまう。
四方の扉が開かれている為、森の涼しい風が眠気を誘う。
サイラスが見詰めているのは先日、召喚された幼女だ。
彼女は、遊び疲れたのか東屋で深い眠りについている。
使用人の少女の配慮で、クッションを敷き詰め寝かされている姿は、まるで宝玉の様だ。
少女が寝てしまったので久しぶりに会った従兄弟と少し話してみる事にした。
「戻って来てる何て驚いただろ」
3年前の彼は思い詰めた顔をしていた。
しかし今、目の前にいる彼は穏やかな表情で微笑んでいる。
「本当に、叔父上には参ったよ。帰って来るのに馬を潰してしまった」
父の出した手紙を内容を聞かされてしまい、サイラスも笑うしか無かった。
「叔父上からの話しを受けようと思う」
パズルのピースが、ぴったりと収まった感覚をサイラスは感じる。
群れから迷子になっていた子供が、群れに帰って来て共に生きて行く決意をした瞬間。
笑みが漏れる。悪くないと。
「サイラス、この状況は・・・・」フリーゲルが顔を歪める。
解っている。
この東屋と小さな森は、何代か前の侯爵家に嫁いで来た花の乙女と夫達が情事を楽しんでいた場所だから。
先程食べさせた果物は軽い催眠作用が有る植物だ。
「違う、たまたまだ!」
事実、小さな森と東屋はサイラス達が幼い頃は遊び場になっていた。
果物に対して反応を示すのは花の乙女だけなのでサイラスは忘れていたぐらいだ。
「そうだね、まだ6歳だし」フリーゲルは幼女を見つめる。
その時、男達は10年後を想像した。
美しい少女に成長した花嫁を、夫達で犯す未来を。
激しい情事に、駄々を捏ねる花嫁に例の果物を食べさせ、情事を続行する自分を。
2人はお互いがその様な想像をしているなんて、思っていない。
それからは、初夏の風に吹かれながら離れていた3年の間の出来事などを寛ぎながら話していた。
幼い、私にとっては最適な遊び場。
サイラスとフリーゲル、エミリーと数人の従者と小道を進む。
サイラスに手を引かれながらも、枝を掴んだり脇に逸れようとする行動は幼子そのもの。
時々に幼児脳になってしまう私は、サイラスの手をほどき低木樹、藪の中に入り込んでは追いかけっこを楽しんでいる。
「エミリー、こっちだよ」
「フッフッ…… お嬢様、私では入れません」
優しく、笑ってくれるエミリーが大好き。
《カサカサッカサカサ》
サイラスが、近付いて来るのが解る。
私は素早く飛び出し、従者達の中に飛び込もうとするが、惜しくも転倒する。
誰かが、優しく抱き上げてくれる。
目を開けて見ると、紫色のベールに包まれていた。
突如、忌まわしい記憶が甦る。
「ユウカ、朝一の畑の水やりはお前にまかせる」
それは、本家の大奥様の鶴の一声。
撫子の生家が所有していた畑は、山中の少し開けた場所で片道一時間を必要とした。
中学に入ってからは片道一時間を掛けて、冬以外はほぼ毎日通いつめた。
特に辛かったのは、夏の朝だ。
「夏は、朝日が出る前に水やりを終わらせなさい」
夜が明けきらない内に水やりを終わらると、空は夜の紺碧から紫雲に包まれる。
『1日が始まる空の色』
「お姫様泣かないで」優しく慰めてくれる。
「お嬢様、今、直しますからね」
「リリィ」心配そうに背中をなでてくれる。
あっ、ここは何て暖かいんだろう。
私を、抱き上げてくれた紫色の髪をした貴公子を見上げる。
銀色の瞳が心配そうに揺れている。
「あのね、痛くて泣いてるんじゃ無いよ。フリーゲル様」
彼に抱っこされている私は紫色の髪を浚う。
「とても綺麗な紫き色だからだよ。1日の始まりの色だね」
体力と精神の限界のような毎日、その日々の中で唯一美しいと思った。
大人なら、片道20分の東屋までの道を私達は倍の時間を掛けて到着したよ。
子供の身体は、疲れ知らずです。
キャスル家の東屋は、小さな森に馴染むように木材で出来ていて、寛ぎやすいようにフローリングが張られている。
元、日本人には靴を脱げる場所は貴重だね。
しかも、日本で住んでいた家より広い。
うーん、能の舞台みたいなかんじかな?
木と緑の匂いに包まれてアイスティーを呑むの。
そして、サンドイッチと焼菓子を堪能する。
「上手いか?」
「美味しいです」そりゃ、勿論。
サイラスが、従者から果物を受け取っている。
それは、小さな森に自生している果物。
彼が口に入れてくれた果物は、口の中で蕩けてしまう。
四方の扉が開かれている為、森の涼しい風が眠気を誘う。
サイラスが見詰めているのは先日、召喚された幼女だ。
彼女は、遊び疲れたのか東屋で深い眠りについている。
使用人の少女の配慮で、クッションを敷き詰め寝かされている姿は、まるで宝玉の様だ。
少女が寝てしまったので久しぶりに会った従兄弟と少し話してみる事にした。
「戻って来てる何て驚いただろ」
3年前の彼は思い詰めた顔をしていた。
しかし今、目の前にいる彼は穏やかな表情で微笑んでいる。
「本当に、叔父上には参ったよ。帰って来るのに馬を潰してしまった」
父の出した手紙を内容を聞かされてしまい、サイラスも笑うしか無かった。
「叔父上からの話しを受けようと思う」
パズルのピースが、ぴったりと収まった感覚をサイラスは感じる。
群れから迷子になっていた子供が、群れに帰って来て共に生きて行く決意をした瞬間。
笑みが漏れる。悪くないと。
「サイラス、この状況は・・・・」フリーゲルが顔を歪める。
解っている。
この東屋と小さな森は、何代か前の侯爵家に嫁いで来た花の乙女と夫達が情事を楽しんでいた場所だから。
先程食べさせた果物は軽い催眠作用が有る植物だ。
「違う、たまたまだ!」
事実、小さな森と東屋はサイラス達が幼い頃は遊び場になっていた。
果物に対して反応を示すのは花の乙女だけなのでサイラスは忘れていたぐらいだ。
「そうだね、まだ6歳だし」フリーゲルは幼女を見つめる。
その時、男達は10年後を想像した。
美しい少女に成長した花嫁を、夫達で犯す未来を。
激しい情事に、駄々を捏ねる花嫁に例の果物を食べさせ、情事を続行する自分を。
2人はお互いがその様な想像をしているなんて、思っていない。
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