侯爵家の当主になります~王族に仕返しするよ~

Mona

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笑う当主と踊る幽霊

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 「ギルバートを、とりあえず正気に戻すんだ」
ヴァジールは、軽く命じる。

「はいはい」
キースは面倒くさそうに針金で牢の錠を外し、ギルバートに近づく。

キースは胸のポケットから、お灸のような物を出すとギルバートの頭に置き火を着ける。

換気が不十分な地下は、あっという間に異臭で満たされた。


お灸に似た物の熱さがピークになる頃になると、ギルバートの様子に変化訪れてくる。

キースはタイミングを計り、ギルバートに張り手をかます。

「グハッ!」

「正気に戻りやがれ!」

落武者の様なギルバートの頭頂部分には、お灸の様な物からモクモクと煙がでている。

「少しは、まともになったかい」
ヴァジールは、美しい笑みで問いかけるのだ。


「君に見せたい物があるんだ」
ヴァジールは、袋の中から幾つかの品物を出して、並べる。

「此は?」ギルバートは、死んだ魚の様な目をヴァジールに向ける。

「君が愛されていた証拠の品々だ」

ギルバートは、小さな毛糸の靴下を手にとる。

「君の実の母君の手作りだ」
ギルバートは小さな靴下を握り絞めながら、幾つかのベビー用品を見詰める。

「全て手作りのようだね。君の実の母君の手紙を預かってきた」



 
__________________________________________________

      愛しのギルバートへ


 貴方がこの手紙を読む時、私は死を迎えた後しょう。
・・・・・・・・。

・・・・・・・・。

宰相夫人は、私の最後の願いを聞いてくれました。

貴方を、実の息子同様に育てて下さるそうです。

・・・・・・・・。
・・・・・・・・。

ギルバート貴方は、長い人生の中でいろいろな、困難に会うでしょう。

ですが真実に目を背けては、いけません。

誰かを貶めたり、傷付けても駄目です。

貴方が人生を全うする事を願います。

貴方を誰よりも愛しているわ。  

                母より。 


__________________________________________________

 ヴァジールは、情緒豊かに手紙を読売終える。




 「此は、前宰相の夫人から預かってきたんだ。そして、夫人からの言付けだ」
ヴァジールは、ため息を吐く。

「大切な子だから接し方を間違えてしまった。実の母親の分も幸せにしなくてはならないと気構えてしまった。それでも、貴方を愛している」

ギルバートが思い返すのは、自分が起こしてきた行い。

他人を羨み、傷付けた行い。

自分を生んだ母の望みを裏切り、愛情を持って育ててくれた、育ての母の恩を裏切りで返してしまった後悔。

「宰相家の家族はどうなったんだ」

ヴァジールは、困ったふうに装う。

「父君は自殺、夫人は幽閉、兄君の二人は奴隷に堕ち娼館に競り落とされた」


「うっわー!!俺は、俺は何てことを!」

「君にできる事はないよ」

ヴァジールは、悲しげな笑みを浮かべる。

「俺は、俺は、何て愚かだったんだ」

「ウワッ_______________!!」
「ウワッ_______________!!」

ギルバートは、実母が残した手作りの品を抱きしめながら泣き叫ぶ。




 コツコツ、コツコツ、ヴァジールとキースは再び隠し通路の石畳を歩いている。

「キース、浮かない顔だね」
ヴァジールは、ご機嫌な顔で問かける。

「・・・・・・・・」
今回のヴァジールの行動は、キースにとって予想外なのだ。
もっと激しい怒りをギルバートにぶつけると思っていたのだ。

「ねぇ、キース。自分を愛してくれた者達を巻き込み、処刑台に登るのはどんな気分なんだろう」

「それは・・・・」

「彼は残された僅かな時間を、罪の重さに苦しみながら過ごすんだ。全うな思考でね」

「あの手紙は、お前が書いたんだろう」

「良く書けていただろう。あの男は今頃、私が書いた手紙を胸に抱いているだろうな」

ヴァジールは口角をあげる。

「孤児院で使われなくなった、古いベビー用品を後生大事にしているだろう。宰相夫人には会った事もないよ」




 前宰相家に下された処分。

ギルバートの存在を抹消する事に、ギリギリ間に合ったが、爵位の返上は免れなかった。

父である前宰相は、宰相職を返上。
その後、自らの判断で謹慎。

夫人は夫に習い、共に謹慎。

ギルバートの兄、二人は罪には問われなかったがエリートコースから外れる。




「キース、ギルバートは処刑台という舞台の主役なんだよ。正気を無くすなんて許さない」
ヴァジールは、珍しく高揚しながら話続ける。

「舞台を観覧する主賓は、第二王子とその婚約者だ。根回しは済んでいる」

「ある意味、奴が気の毒になるな」

「気分が、良いんだ。飲みに行かないか」
ヴァジールは、にっこりと笑う。

「女の子クラブか?」

「・・・・・・・・」

ヴァジールは激しく、首を横に振る。


 コツコツ、コツコツ、二人の足音が隠し通路に再び響く。



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