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笑う当主と踊る幽霊
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この場所は、王城の後宮寄りに有る庭園に忘れられたようにあるガゼボ。
とても小さい為か滅多に人が来ないの。
小さな池も有り、何よりも今の季節は藤の花に囲まれいる。
過去のループで、後宮の外に有るガゼホに来ることができたのは、第一側妃様の計らいなの。
王太子の側室になった時も、第二王子の側室になった時も入宮した私に後宮の裏門の鍵を下さりこのガゼボに来ることのみ、特別に許してくださったの。
「申し訳ない」あの方は、おっしゃられたの。
苦労する事が解っていらっしゃったのね。
厳しく、美しい人。母のいない私は、実の母のように慕っていたわ。
幼少の頃から、あの方の元に王子妃教育で通っていたせいかもしれない。
ただ、実の子の第二王子には、あの方の厳しさの裏に有る優しさが伝わらなかった。
オーロラの奇行に苦言を王子に伝え改善を推し計ろうとしてくれたわ。
でも、その反発が私に向けられてしまう事実を恐れられたの。
つい、思い出してしまったわ。
懐かしい景色の中で、藤の匂いに包まれる。
辛い時に訪れて、つかの間だけ癒された場所はかつての美しい景色のままだから。
ガサガサ・・・・、ガサガサ・・・・。
「そこで何をしている」
聞き覚えの有る声が私に訪ねる。
「王太子殿下」
私にしてみたら、貴方こそ何をしているんですかよ
「テアルスティア侯爵ではないか」
王太子は、周りを見回す。
「もしかして、一人なのか?」
そうよね、そう来るわよね。
王太子は、落ち着かない様子の少女を見入る。
「従者も連れていないなど、不用心ではないか」
少女の視線がソワソワしたものに変わっていくのが解ると、面白くなってきたのか柔らかい表情に変わる。
「テアルスティア侯爵」
「はい、殿下には・・・・」
「楽にして良い、一人でいる時に、私が来て驚いているのか」
「驚いて等、ただ少しビックリしたのです」
「ハッハッハ・・」
王太子にとってアルバニアを遠眼で見掛ける事があっても会話を交わした事の無い相手だった。
彼がアルバニアに以前に持っていた印象は、実際の年齢よりも落ち着いた少女であった。
だが、実際の彼女は第二王子の婚約発表の折りには王族、高位貴族達の前で大胆に、正々と己の権利を示した。
そして、今日の結納の儀では怒気をとばす国王相手に、微笑みさえ浮かべていた。
そんな少女が、自分に驚きアタフタしているのだ。
まずまずと思ってしまい、笑いさえ漏れてしまう。
「どうして、ここに?」
王太子はアルバニアにたずねる。
「以前、聞いた事があるのです。ここの藤の花がとても美しく咲くと」
「パーティーに退屈したわけでは無い。そうなのか」
「そっ、そんな理由では、ありません」
実は、そうですなんて言えないわ。
「そうだ、此処も良いが庭園を少し案内しよう」
王太子はアルバニアに、腕を伸ばし手のひらをさしだす。
これは、断れないわね。
だから、差し出された手のひらに指先を乗せて貰ったの。
殿下のエスコートで庭園を散策していると、彼の体温が伝わってくる。
庭園の花々は、とても美しかった。
それでも、彼から伝わってくる温度が私を切なくさせるの。
『アルバニア、私の御子を生んで欲しい』
『殿下、良い知らせがございます』
『殿下、最近は御子が元気良く動きますのよ』
『アルバニア、未来の国母。どうか、そなたの身体も御子も慈愛して欲しい』
「侯爵、どうかしたのか」
「いいえ、見事な庭園だと思いましたのよ」
この庭園を歩きながら殿下と交わした会話。
忘れかけていた記憶がはっきりと脳裏に現れたの。
つかの間の幸せ。
「アルバニア!!」
「お兄様」
お兄様が、彼方から急いで歩いて来てくれているの。
「そなたにとっては、兄なのか?」
「殿下?」
兄?お兄様は誰よりも大切な人よ。
「今は、まだ兄なのだな」
殿下、何を言っているの。
「殿下、当主がご迷惑をお掛けしました」
「いいや、テアルスティア侯爵を独占する事ができた」
私達は殿下に御挨拶して、その場を後にしたの。
お兄様の様子が少しだけ、何時もと違っていたわ。
とても小さい為か滅多に人が来ないの。
小さな池も有り、何よりも今の季節は藤の花に囲まれいる。
過去のループで、後宮の外に有るガゼホに来ることができたのは、第一側妃様の計らいなの。
王太子の側室になった時も、第二王子の側室になった時も入宮した私に後宮の裏門の鍵を下さりこのガゼボに来ることのみ、特別に許してくださったの。
「申し訳ない」あの方は、おっしゃられたの。
苦労する事が解っていらっしゃったのね。
厳しく、美しい人。母のいない私は、実の母のように慕っていたわ。
幼少の頃から、あの方の元に王子妃教育で通っていたせいかもしれない。
ただ、実の子の第二王子には、あの方の厳しさの裏に有る優しさが伝わらなかった。
オーロラの奇行に苦言を王子に伝え改善を推し計ろうとしてくれたわ。
でも、その反発が私に向けられてしまう事実を恐れられたの。
つい、思い出してしまったわ。
懐かしい景色の中で、藤の匂いに包まれる。
辛い時に訪れて、つかの間だけ癒された場所はかつての美しい景色のままだから。
ガサガサ・・・・、ガサガサ・・・・。
「そこで何をしている」
聞き覚えの有る声が私に訪ねる。
「王太子殿下」
私にしてみたら、貴方こそ何をしているんですかよ
「テアルスティア侯爵ではないか」
王太子は、周りを見回す。
「もしかして、一人なのか?」
そうよね、そう来るわよね。
王太子は、落ち着かない様子の少女を見入る。
「従者も連れていないなど、不用心ではないか」
少女の視線がソワソワしたものに変わっていくのが解ると、面白くなってきたのか柔らかい表情に変わる。
「テアルスティア侯爵」
「はい、殿下には・・・・」
「楽にして良い、一人でいる時に、私が来て驚いているのか」
「驚いて等、ただ少しビックリしたのです」
「ハッハッハ・・」
王太子にとってアルバニアを遠眼で見掛ける事があっても会話を交わした事の無い相手だった。
彼がアルバニアに以前に持っていた印象は、実際の年齢よりも落ち着いた少女であった。
だが、実際の彼女は第二王子の婚約発表の折りには王族、高位貴族達の前で大胆に、正々と己の権利を示した。
そして、今日の結納の儀では怒気をとばす国王相手に、微笑みさえ浮かべていた。
そんな少女が、自分に驚きアタフタしているのだ。
まずまずと思ってしまい、笑いさえ漏れてしまう。
「どうして、ここに?」
王太子はアルバニアにたずねる。
「以前、聞いた事があるのです。ここの藤の花がとても美しく咲くと」
「パーティーに退屈したわけでは無い。そうなのか」
「そっ、そんな理由では、ありません」
実は、そうですなんて言えないわ。
「そうだ、此処も良いが庭園を少し案内しよう」
王太子はアルバニアに、腕を伸ばし手のひらをさしだす。
これは、断れないわね。
だから、差し出された手のひらに指先を乗せて貰ったの。
殿下のエスコートで庭園を散策していると、彼の体温が伝わってくる。
庭園の花々は、とても美しかった。
それでも、彼から伝わってくる温度が私を切なくさせるの。
『アルバニア、私の御子を生んで欲しい』
『殿下、良い知らせがございます』
『殿下、最近は御子が元気良く動きますのよ』
『アルバニア、未来の国母。どうか、そなたの身体も御子も慈愛して欲しい』
「侯爵、どうかしたのか」
「いいえ、見事な庭園だと思いましたのよ」
この庭園を歩きながら殿下と交わした会話。
忘れかけていた記憶がはっきりと脳裏に現れたの。
つかの間の幸せ。
「アルバニア!!」
「お兄様」
お兄様が、彼方から急いで歩いて来てくれているの。
「そなたにとっては、兄なのか?」
「殿下?」
兄?お兄様は誰よりも大切な人よ。
「今は、まだ兄なのだな」
殿下、何を言っているの。
「殿下、当主がご迷惑をお掛けしました」
「いいや、テアルスティア侯爵を独占する事ができた」
私達は殿下に御挨拶して、その場を後にしたの。
お兄様の様子が少しだけ、何時もと違っていたわ。
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