上 下
44 / 85
笑う当主と踊る幽霊

12ー3

しおりを挟む
 ルトビニア王国 ⚫⚫年 吉日 天気、快晴

 王城の貴賓室にて、王女殿下とテアルスティア家の結納の儀が古式に習い行われている。

宰相として出席している男は戸惑いながらも、冷静を装おう事に終始している。

何せ、成り立てピカピカなのだから。

そして、結納の儀が行われている貴賓室の雰囲気は慶事を祝う雰囲気では無いのだ。

まるで、商人同士の商談。

怒気を纏った商人と新鋭の朗らかに笑う商人。
損をした者が怒り、利益を出して嬉しさを隠さない者が笑っている場面なのだから。

宮廷の噂も知っていたし、儀式の前にも調印書にも目をとおした。

今回の取り決めに、自分の意を加える事はもうできない。
テアルスティアの、若い当主の手腕を見るのみだ。

テアルスティア侯爵家は、最初から利益を得る事に専念したのだろう。
対する王室は権威に自己過信をして、勝期を逃してしまったのだ。

もし、自分が若き当主につけ入るとしたら。

新宰相は当主の横にいる男を見詰める。

ヴァジール・フォン・テアルスティア、彼の事は知っている。

テアルスティア家の分家に生まれた鬼才。
学園時代に、彼の魔王伝説の犠牲者になった者は多数いる。

そんな彼が、若き当主の目付役になってから侯爵家は、攻撃的な面が強く出ている。
ヴァジールの意見が強く出ているのか?

当主も今は幼さを残す年齢だが、いずれ、自分の意見を今よりも強く持つだろう。

その時の2人の関係は?




 どうやら、調印書にお互いの署名が終わったようだ。

これから、署名された調印書を第3者によって読み上げがされる。



 テアルスティア家から、王女に納められる金額と絹の反物数が読み上げられる。

予想の範囲内だ。

王室からの返礼として、王都からテアルスティア家所有で有り、王女が新たに居住する荒野までを直通する街道の整備。
 
ザワザワと人々がどよめく。

新宰相にも、騒音の様にどよめきが聞こえている。

彼は思うのだ。ここにいる何人がテアルスティア家の本音が解っているのかと。

街道を整備するには、それなりの大金が動くが、テアルスティア家が望んだのは他家によこやりを入れさせない事。

高位貴族のテアルスティア家でも、他家の領地で勝手に街道など造れない。

ましてや、他家が絡む事で街道は遠く迂回する場合もある。

だが、今日この場でその権利を手に入れたのだ。

あの一族は、本気で直通の街道を王家の金で造る。

テアルスティア家は、荒野の古城を本領の軍事機転にするのだろうか。

街道を通す事で、襲われる危険は勿論増える。
しかし、反対に反撃もしやすい。

テアルスティア本領の最奥は背後に巨大な山脈が有り、祈りの力で氷に閉ざされた山脈だ。

背後の完璧な守りに加え、巨大な要塞都市を造り前方からの攻撃を本領に入れない。

彼等の事だ、狙いがあるに決まっている。

彼が、あれやこれや考えていると、読み上げてる物の声が裏返る。


 もしかして、あの内容も読み上げるのか?

 婚姻後三年の間に子ができない場合、テアルスティア家に離縁の権利を与える。

 但し、公平を期すため⚫⚫の日にち、時間を正解に記録する事を条件に加える。

第三者の立ち会いを可能にする事。
王家からの抜き打ちの立ち会いを承認する事。

彼は、冷静を装おう事を放棄して王女を見詰める。

いや、彼だけでは無い。

大多数の者が王女を見ているのだ。

その視線は好奇心、侮蔑、等、様々なのである。

彼は、これからの自分の道のりが険しい事を、確信したのだ。






 後の歴史に、彼の宰相としての人生はテアルスティア侯爵家を筆頭に癖の有る領地貴族との対立と和解の繰り返しであったと記されている。

 彼は、急ごしらえの宰相となったが歴代の宰相に劣らない経歴を残す事になる。

職務の為に、テアルスティア侯爵家と対立し侯爵家に煮え湯を飲ませた事ができた数少ない人物だ。

マジ切れしたヴァジールから、刺客を送られるなど彼の人生は波乱万丈に彩られていた。











 



 
しおりを挟む
感想 87

あなたにおすすめの小説

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

月誓歌

有須
恋愛
第五回カクヨムwebコンテスト特別賞頂きました! 詳細は近況ボードにて。 ↓↓以下あらすじ↓↓ メイラは清貧を旨とする修道女。親のない子供たちを育てながら神に仕える日々を送っているが、実はハーデス公爵の妾腹の娘であった。 ある日父親に呼び出された彼女は、エゼルバード帝国皇帝ハロルドの後宮に妾妃としてあがるように命じられる。 主人公は修道女から後宮の妃へと転身します。 時に命を狙われ、時に陛下から愛でられ、侍女たちにも愛でられ、基本平凡な気質ながらもそれなりにがんばって居場所を作ってきます。 現在、後宮を飛び出して家出中。陛下は戦争中。 この作品は、小説家になろう、アルファポリス、カクヨムで試験的なマルチ投稿をしています。 よろしくお願いします。

[連載中]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜

コマメコノカ@異世界恋愛ざまぁ連載
恋愛
 王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。 そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

私は逃げます

恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...