侯爵家の当主になります~王族に仕返しするよ~

Mona

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笑う当主と踊る幽霊

12ー3

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 ルトビニア王国 ⚫⚫年 吉日 天気、快晴

 王城の貴賓室にて、王女殿下とテアルスティア家の結納の儀が古式に習い行われている。

宰相として出席している男は戸惑いながらも、冷静を装おう事に終始している。

何せ、成り立てピカピカなのだから。

そして、結納の儀が行われている貴賓室の雰囲気は慶事を祝う雰囲気では無いのだ。

まるで、商人同士の商談。

怒気を纏った商人と新鋭の朗らかに笑う商人。
損をした者が怒り、利益を出して嬉しさを隠さない者が笑っている場面なのだから。

宮廷の噂も知っていたし、儀式の前にも調印書にも目をとおした。

今回の取り決めに、自分の意を加える事はもうできない。
テアルスティアの、若い当主の手腕を見るのみだ。

テアルスティア侯爵家は、最初から利益を得る事に専念したのだろう。
対する王室は権威に自己過信をして、勝期を逃してしまったのだ。

もし、自分が若き当主につけ入るとしたら。

新宰相は当主の横にいる男を見詰める。

ヴァジール・フォン・テアルスティア、彼の事は知っている。

テアルスティア家の分家に生まれた鬼才。
学園時代に、彼の魔王伝説の犠牲者になった者は多数いる。

そんな彼が、若き当主の目付役になってから侯爵家は、攻撃的な面が強く出ている。
ヴァジールの意見が強く出ているのか?

当主も今は幼さを残す年齢だが、いずれ、自分の意見を今よりも強く持つだろう。

その時の2人の関係は?




 どうやら、調印書にお互いの署名が終わったようだ。

これから、署名された調印書を第3者によって読み上げがされる。



 テアルスティア家から、王女に納められる金額と絹の反物数が読み上げられる。

予想の範囲内だ。

王室からの返礼として、王都からテアルスティア家所有で有り、王女が新たに居住する荒野までを直通する街道の整備。
 
ザワザワと人々がどよめく。

新宰相にも、騒音の様にどよめきが聞こえている。

彼は思うのだ。ここにいる何人がテアルスティア家の本音が解っているのかと。

街道を整備するには、それなりの大金が動くが、テアルスティア家が望んだのは他家によこやりを入れさせない事。

高位貴族のテアルスティア家でも、他家の領地で勝手に街道など造れない。

ましてや、他家が絡む事で街道は遠く迂回する場合もある。

だが、今日この場でその権利を手に入れたのだ。

あの一族は、本気で直通の街道を王家の金で造る。

テアルスティア家は、荒野の古城を本領の軍事機転にするのだろうか。

街道を通す事で、襲われる危険は勿論増える。
しかし、反対に反撃もしやすい。

テアルスティア本領の最奥は背後に巨大な山脈が有り、祈りの力で氷に閉ざされた山脈だ。

背後の完璧な守りに加え、巨大な要塞都市を造り前方からの攻撃を本領に入れない。

彼等の事だ、狙いがあるに決まっている。

彼が、あれやこれや考えていると、読み上げてる物の声が裏返る。


 もしかして、あの内容も読み上げるのか?

 婚姻後三年の間に子ができない場合、テアルスティア家に離縁の権利を与える。

 但し、公平を期すため⚫⚫の日にち、時間を正解に記録する事を条件に加える。

第三者の立ち会いを可能にする事。
王家からの抜き打ちの立ち会いを承認する事。

彼は、冷静を装おう事を放棄して王女を見詰める。

いや、彼だけでは無い。

大多数の者が王女を見ているのだ。

その視線は好奇心、侮蔑、等、様々なのである。

彼は、これからの自分の道のりが険しい事を、確信したのだ。






 後の歴史に、彼の宰相としての人生はテアルスティア侯爵家を筆頭に癖の有る領地貴族との対立と和解の繰り返しであったと記されている。

 彼は、急ごしらえの宰相となったが歴代の宰相に劣らない経歴を残す事になる。

職務の為に、テアルスティア侯爵家と対立し侯爵家に煮え湯を飲ませた事ができた数少ない人物だ。

マジ切れしたヴァジールから、刺客を送られるなど彼の人生は波乱万丈に彩られていた。











 



 
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「令嬢の願い」新連載を初めました。
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