侯爵家の当主になります～王族に仕返しするよ～

笑う当主と踊る幽霊

5 トリスタンside『貴方は誤解されやすいだけ、貴方の献身は無駄にはならない』

　トリスタンは夜の王都をひたすら走り抜ける。

彼は、父であるエバー伯爵の決定を不服として脱走したのだ。

「国境の紛争遅滞で防衛に従事し、暫く自分を見詰め直せ」

ふざけんな！ちくしょう、俺様を痩けにしやがって。
暫く隣国に行って、落ち着いたら殿下に連絡すれば・・・・殿下にはまだ俺様が必要なはず。
オーロラも俺様に会いたいよな。
それに、ベルーチェの野郎を躾直さないといけないし・・・・ハッハッハッ

トリスタンは、乱れた息を整える為に物陰に巨体を隠す。

アルバニアの奴にも躾が必要だな。生意気になりやがって。
大人しく殿下の後宮に入宮すれば、良いものを。
アイツが大人しく入宮してたら物陰に連れ込み・・・・。
・・・・してやったのに。

　ギルバートの野郎も俺様に『日頃の献身をぶりを見てれば殿下もお許しになる』って言ってたしな。

そうだ、オーロラも言っていたな『あなたは誤解されやすいだけ。貴方の献身は無駄にはならない』

美しく頭の良い女が絶望てきな顔をする。
ゴチソウサマダ。

トリスタンは下卑た顔に愉悦をうかべる。
『生意気な女を躾るのは献身であり温情だ』世の中の奴等もいづれ解る。




　「想像は楽しんだか？」
「誰だ！貴様は何者だ」

「俺か、俺はそうだな。魔王の使徒とでも名乗ろうか」
「魔王？何が魔王だ、ふざけんな！」

トリスタンが見据えた先には、黒髪に銀色のメッシュが入った青年がだるそうに、立っている。

「俺も忙しいんだ。幽霊達を迎えに行く時間だからな」

トリスタンは、男に対して薄気味の悪さを感じ始めた。
「何が幽霊だ！」
トリスタンは黒髪の青年に殴りかかった。




　トリスタンは今の事態が信じられ無い様子だ。
自分に有利なように殴りかかったはずだ
だが、無様に地面でのたうちまわっているのは自分なのだ。
慣れない激痛に体が悲鳴をあげている。
対して、黒髪の男は何もなかったかの様に自分の頭に足を乗せ立っているのだ。

トリスタンは体験した事の無い屈辱で、体が震えそうになる。

「俺様をどうするつもりだ」
「世の中にはさ、お前みたいなバカを可愛と言って躾をしてくれる優しい人達がいるんだよ。そんな、ちょっと変わった人達が通う店に働きに出て貰おうかなって」
黒髪の青年は、トリスタンに乗せて居る足に力を入れる。

「他人を思いやれる人になって欲しい。うちの当主様の希望何だよ」
青年はニヤリと嗤う。
「先ずは、愛情を貰って返せる様になるんだ。頑張れよ」




　魔王の使徒、キースは引き摺られ連れていくトリスタンを見送る。

そして思い出してしまうのだ。
コロッセオから、アルバニアとヴァジールが帰って来て3人での会話を。

「トリスタンをこのままにしておくのは危険だ。アルバニアはどうしたい」

「そうですね。お兄様の言いたい事は理解できます。彼には改心して貰いたいです」

「キース、後は任せた」

「えっ、改心？」

「はい、彼には他人を思いやれる人になってもらいたいです」

「おっおう、任された」



　アルバニア、俺にできることは此が限界だ。キースは自分を嘆きながら幽霊達を迎えに向かうのだ。

幽霊達に食事を与え、報告を聞いて、ミーティングをして明日に備えるのだ。


　後日の会話。

　「アルバニア、トリスタンは優しく躾をしてくれ
る人達に任せた。最初は大変だろうけどな」

奴等に任せれば、とりあえず人格は変わるだろうよ。

「キース、ありがとう。彼には時間が必要ですね。愛が有れば乗り越える事は可能でしょう」

きっと、何処かの教団に預けたのね。