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笑う当主と踊る幽霊

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 貴族用の入り口に併設されているロビーには着飾った紳士、淑女達の社交が繰り広げられ賑わっている。

その様に華やかな場に異変が起きる。

海が割れる奇跡が起こる様に人並みが左右に割れていくのだ。

「見て、アルバニア様よ」「久しぶりね」「素敵」

「あらっ・・・・」 「そうね・・・・」

割れた空間の中を、優雅に進む男女に誰もが注目する。

「お兄様・・・・」
「アルバニア、皆、君を見てるよ」
「やっぱり変かしら」
ヴァジールは、少女の反応に微笑む。

「違うよ、アルバニアがとても魅力的だからだよ」
お兄様の事かしら?先程の微笑みで、貴婦人達が倒れたわよ。

「もう、お兄様たら。怒りますよ」
ヴァジールが、少し膨らむアルバニアの頬を撫でながら、抱き寄せる。

「キャー!!」「キャー!!」「キャー!!」
「イヤ〰!!」

「ヴァジール様、社交の場ですよ!」
後ろに控えるキャサリンが声を掛ける。

「申し訳無い、アルバニアが可愛すぎて」
「ヴァジールお兄様!」
キャサリンは顳顬を押さえる。

キャサリンは、ヴァジールに対する認識を改めたのだ。

もしかして・・・・な人なの。
そんな感じに。

しかし、人垣の紳士淑女に見えた絵面は破壊的だ。

 長い銀髪に紫眼の美少女と、妖艶な魅力を放つ青年が小さな声で囁き合い、時に見詰め合い微笑みあっているのだ。

娯楽の少ない世界だ。
興奮してしまうのは仕方ないのだ。
そんな様子は社交界で、あっと、いう間に広がる。後に、アルバニアの父は悲しむ事になるのだ。



 そんな2人が進む先にいるのは、第二王子と婚約者のオーロラ、宰相家の三男ギルバートだ。

「第二王子殿下、お久し振りでございます」
優雅にカーテシーをするアルバニアを王子は見つめる。
「随分と派手な登場だな」
《クスクス・・・・》鈴を転がす音色でアルバニアが笑う。
「何がおかしいんだ、殿下に失礼だろう」
ギルバートがアルバニアに恫喝する。
「これは失礼しましたわ。でも、此処にいる皆様は噂好きなんでしょう。当主になって初めての公の場ですから、注目されてしまいました」
アルバニアは、困った様に首を傾ける。
「なんだ!その態度は」
ギルバートは、アルバニアに更なる恫喝を続ける。

「貴方の態度の方が問題だ」ヴァジールが静かに告げる。
「おっ、お前は何者だ」
「自己紹介がまだでしたね」
ヴァジールは優雅に微笑みながら第二王子に礼をする。
更なる犠牲者(令嬢)達が出たのは、言うまでもない。

「殿下、名乗る事をお許し下さい」
「ゆ、許す」
王子は、ヴァジールの圧倒的な存在感にたじろいでしまう。

オーロラは、その様な王子を懐疑的に見詰める。
そう、見詰める事しかできないのだ。

「ヴァジール・フォン・テアルスティアと申します。当主の補佐についております。以後、お見知りおき下さい」
「・・・・サイラスの実兄か」
「はい、サイラスが大変お世話になったみたいですね」

ヴァジールは、ギルバートを見詰める。
「なんだ!」

「此処にいるアルバニア・フォン・テアルスティアはテアルスティア侯爵家の当主だ。テアルスティア侯爵だ!」
ヴァジールは、ニヤリと笑う。
「その側近の態度は、王子殿下からのテアルスティア侯爵家への姿勢と位置付けさせて頂きます」
人並みがざわめく。
「アルフォンス・・・・」
オーロラは王子を見上げる。

「オーロラ・・・・ギルバート、テアルスティア侯爵に謝罪するんだ」

「そっそんな!」
「謝罪するんだ!!貴様が侯爵に令を失たのだ」

ギルバートは憎悪の視線を、テアルスティア家の2人に向ける。
「も、申し訳・・・・」

「ギルバート!待って」
「オーロラ!黙るんだ」
「サイラスのお兄様、ギルバートに悪気はなかったんだ」
「オーロラ!!駄目だ」
ギルバートの謝罪にオーロラが発言を重ねる。

「第二王子殿下の我が家への姿勢、しかと受け取りました」
ヴァジールは冷淡に告げる。
「待て、待って欲しい。悪かった、主である私が謝罪する」
「アルフォンス?・・・・そんな事」
「オーロラ、黙ってくれ。非は此方にあるんだ」

「殿下、テアルスティア侯爵家は殿下の謝罪を受け入れますわ」
アルバニアの少女特有の声が響き渡る。
「クッ・・・・」
ギルバートは顔が歪み顔色が変わっていくのが認識できるが止める事ができなくなる。

「クスクス・・・・ギルバート様も成人なされたのでしょ。そろそろ領地・・・・」
「アルバニア、宰相家は宮廷貴族家(領地を持たない)だよ」
「私ったら。ギルバート様、失礼しました」
「アルバニア、そろそろ席に行こう。その男は自分で謝罪もできない者だ」
「でも、殿下が謝罪してくださいましたわ」

 ヴァジールは洗練されたしぐさで、アルバニアに手を差し出す。
「ヴァジールお兄様・・・・」

「殿下、御前を失礼致します。皆様もご機嫌よう」

アルバニアは美しく礼をすると、花が綻ぶ様な笑顔をヴァジールに向ける。

「さあ、行こう」

「ええ」

 ヴァジールの手先に、アルバニアの指が乗ると2人は何もなかったように去っていくのだ。

王子はアルバニアの変わり様が理解できなかった。

「あの娘は、あの様に笑う者だったか?ギルバート、どうしてくれるんだ!」
「申し訳ありません」
 

 アルバニアの狙いは領地貴族と宮廷貴族の間柄に存在する綻びを広げる事なのか?
何が目的なんだ!
「アルフォンス、何を考えているの?」
「オーロラ、妃教育は進んでいるのか」
「それは・・・・」
「ハッー、なら解らないだろうな」
 
 オーロラ、青春の日々は終わったんだ。私達は、今の2人みたいな輩を相手にしなくてはならないんだ。

「殿下、オーロラも彼女なりに頑張っています」
「ふっ、お前はもっと賢い奴だと思っていたぞ」

「そっ・・・・そんな!」









 一方、アルバニアとヴァジールは・・・・。

「お兄様、先程はありがとうございます」
「当たり前の事だよ。私にとって一番はアルバニア何だから」

「でも、私も対応できましたよ」
アルバニアの頬が小さく膨らむのだ。
「そんな事、解っているよ。でもね、あんなゴミどもとアルバニアが会話するなんて我慢できなかったんだよ」
「お兄様・・・・」

ヴァジールは恥らうアルバニアを、極、自然に抱き締めるのだ。

『アルバニア、君が臨むなら世界でも滅すよ』

こんな、黒い事を思いながら。














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