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女侯爵になります。

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 謁見の間で、私を惨めにさせる小道具。水色のドレスは着られる事なく綺麗に保管されている。

ドレスを注文した時に、私の記憶は戻っていた。
それでも注文したの。
相手を油断させる為に。
誰がどのような意図でさせたのか、はっきりさせたかったから。

「申し訳有りません」ミセス・ステアンは跪くの。
「私の監督不足にございます」
リリィ・ツチュアート、彼女が送り出した弟子。
正確になら元弟子ね。
そして三回のループの中で、必ずあの日のドレスを仕上げたデザイナー。

何年も前に送り出した弟子なら、問題は無かったわね。
彼女は、つい最近1人立ちしたの。
普通なら侯爵令嬢の、特別な日に着るドレスを任されたりしない。

彼女には、ミセス・ステアンの推薦があったの。
才能を認め可愛がっていたのね。

彼女の後ろに居る弟子達は、心配を隠せないみたい。

「貴方は知っていたの」聞いてみるの。

「こちら様に、推薦状を出したのは私です。布地を仕入れるさい融通しましたので、侯爵様が着られるドレスの色は知っていました。ですが同時に、第二王子殿下の婚約者様のドレスを担当するなど知りませんでした。しかも同じ色のドレスを仕立てるなんて」

おそらくミセス・ステアンの言っている事は真実だ。
彼女は常識人だ。そうでなくては、今の立場は無いだろうから。

「謁見の間の出来事は聞いておりました。職業柄、皆様のドレスを担当したデザイナー、ドレスのデザイン、色等の情報は直ぐに入手できます。当主様のドレスは紫色であったと聞き安堵致しました」

「貴方はどう思うの」

「私どもは、職業柄いろいろな御屋敷に出入りさせて頂いております。中には敵対している家門、両家に出入りする事もありました」

彼女の弟子達も真剣に聴いてるの。

貴女達がいずれ通る道なんだから、良く聞きなさいね。

「他家の情報を求められる事も有りました。正直申し上げますと、噂話ならいたします。ですが、してはいけない一線というものもございます」
彼女は水色のドレスを見つめたの。
「ご注文して頂いたドレスを使い、注文主様を貶める事等してはいけないのです。ドレスとは女性にとって鎧なのです。どうか私を罰して下さい。弟子を甘やかし過ぎてしまい、大事な事を教える事ができませんでした」
「ミセス・ステアン私は貴女を許します」
「アルバニア、良いの」
ヴァジールお兄様は私に確認します。推薦状を出す、それは身柄を保証する事。
ミセス・ステアンにも責任は有るでしょう。

私は、甘いのかもしれません。
彼女がとても小さく見えるのです。
とても傷付いて見えてしょうがないのです。

それに、仕組んだ人間も解っている。
何よりも、デザイナーのリリィ・ツチュアートはもう亡くなっているのよ。
数日前に刃物で挿された遺体が発見されたの。

勿論、私達が殺したりなんかしてない。

彼女は、信頼と最愛の弟子を無くしたの。
充分だと思うわ。

「ミセス・ステアン貴女にお願いがあるの」

ミセス・ステアンは私の願いを聞き、とても驚いたの。

私は改めて彼女にドレスの注文をしたの。
ミセス・ステアンは当初、辞退したのよ。

でも、受けてくれたの。
私の欲しいドレスは、彼女しか作れない。
15才の女侯爵のドレス。
とても難しいと思うの。

必要なドレスは2枚。

1枚は、2週間後に王室と行う結納の義。
サイラスお兄様と王女殿下のね。
今は、水面下で擦り合わせをしているの。


数日前に王室から来た手紙は、王妃のお茶会の招待状だったの。
そちらは三週間後。

その為のドレスを求めているの。

招待状の紙の質、装飾、茶会場所。
招待された者はそれらを見て判断するの、茶会のランクをね。

おそらく最高ランクの茶会で間違いないわ。
別名、女王の茶会ね。

だからこそ必要なのよ。

15才の少女の恥らいと気品、少女から大人の女性になる一瞬の儚さ。

そして、侯爵位に有る者の威厳。

そんな物を体現するための鎧を求めてしまう。

ミセス・ステアン、彼女ならできるはず。

彼女が落ち目等と思われているのは、媚びないからなの。
婚活中の令嬢やその親は、彼女のドレスを厭うの。
着る者の品性を曝し出すから。

戦う為の鎧を求めるなら、覚悟が必要なのよ。


結局、ドレスの打ち合わせは明日になったの。

急ぎ、そう、急ぎなんだけどね。
彼女達なら信頼できる、期限までに最高の鎧を用意してくれるはず。

あと、ヴァジールお兄様が何か注文を出していたの。

黒い雰囲気だったから、知らないふりをしたわ。

それに、彼女達に見せたい物があったから。

その為に、ドレスの打ち合わせを明日にしたのよ。



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