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女侯爵になります。

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 「お休みなさいませ」
「ねぇ、雨が降っているのかしら」
「まぁ、良く解りましたね。今夜は冷えるかもしれませんね」

マリアは、天涯から垂れるカーテンを閉め行ってしまったの。

ループの中で、アルバニアはカーテンを閉めきった空間が好きだった。

窮屈なドレスを脱ぎ捨て、自由に手足を伸ばせる唯一の空間。

そんな空間なのに、あえて身体を丸めてしまうの。

雨の日は下腹がクチクチするの。

幼い頃から雨の日に訪れる『違和感』

記憶を取り戻したからこそ解るの。

だから、だから、耐えるしかない。

ゴブレットに注がれた液体を、疑いもしないで飲んでしまった。

望まれ、産まれてくる世継ぎの御子だった筈。

何よりも悲しいのはこの時間軸では、御子の魂すら存在しない事。

ご免なさい苦しかったよね。

だから、耐えるしかないの。

この痛みは罰に違いないのだから。

王太子殿下、貴方の瞳に私はどの様に写っていたのでしょうか。






 それは、アルバニアが眠りに着く頃。 蝋燭の灯りが揺らめく室内で、二人の青年が会話している。

「調査の結果はどうだった」紫銀の瞳の青年は口調を装う事無く青年に問う。

「間違いねえよ。前当主様は暗殺では無い」
少年は、皮肉めいた笑顔を浮かべる。

「食べ残しの菓子を入手した。何故か薬草入りだが普通はあんな症状は出ない」
少年は、顔をゆがめる。

「前当主様は、あんな菓子を良く食べたもんだな」
「早く結論を言え」
「ハイハイ、高級な滋養強壮が大量に入っていた」
「・・・・・・・・」
「暗殺者が使う薬では無い。王女殿は、何がしたかったんだ」


ヴァジールは、昼間アルバニアと見舞った叔父を思い浮かべる。

げっそりしていたが、艶々な肌。

だが、城で倒れた時は口から泡がでていたらしい。
『暗殺』城と、王都テアルスティア邸に緊張がはしった。

身柄を引き取る時も、独特の緊張感だった。

王女殿下の焼いた菓子を食べた結果だ。

まあ、良いだろう。次だ。
紫銀の瞳の青年は、艶めく銀髪をかきあげる。

「可愛メイドのマリアちゃんは、白だ」
怪しい部分は無い。

アルバニアが突然連れて来た若いメイド。

屋敷から抜け出し、数日後に自分の馬の後ろに乗せて帰ってきた。

彼女が初めて望んだ物は、侯爵家の爵位と当主の座

若いメイドは、彼女が初めて望んだ者。

ヴァジールの顔が歪む。

「あのさー、男の嫉妬て見苦しいぜ」
「うるさい!報告を続けろ」

「彼女は、貧乏男爵家の末っ子で妾腹。母親が死んで男爵家に引き取られている。家族からは日常的に虐待をされていたらしい」

青年は、可笑し気に笑う。

「あのさー、男爵令嬢て流行りなの」

ヴァジールは、第二王子の婚約者の少女を連想する。
「ハッー、いいから続けろ」
ヴァジールは、青年の性格を知っているからこそ怒りをこらえ報告の続きを促す。

「哀れな男爵令嬢の前に、白馬に乗った御姫様が現れて、馬に乗せて連れ去った」

「惚れるよな!めでたし、めでたし」

「・・・・・・・・」

「ハイハイ、マリアちゃんは、正真正銘な哀れな貧乏男爵令嬢で、御姫様と関わった事など無かった」

青年は、髪をかきあげる。

「御姫様とマリアの関係は解らなかった」

青年は、机に軽く拳を叩き付ける。

「マリアの実家を何代か遡っても怪しい痕跡はない!!、ちくしょー!解らない」

青年は背伸びをし、ヴァジールを見つめる。

「良いんじゃねぇー、執着は生に繋がる」

青年は気分が僅かに高揚する。
時代が流れる。停滞していた時が流れる予感。



 ヴァジールにも青年にも、ループの記憶は無い。
だが、過去のループでヴァジールは必ずアルバニアの亡骸を抱きしめ涙を流す。

アルバニアの亡骸を抱きしめるヴァジールの横に居たのは必ず彼だったのだ。


「あのさー、今度は上手くやれよ」

ヴァジールの顔の表情が無くなる。
それはヴァジールの黒歴史。

 一族の長である侯爵が、自分の従兄弟の息子である自分か弟のサイラスを後継者に望んでいた事を、聡いヴァジールは理解していた。

アルバニアに『お兄ちゃん』て呼ばせたかた。
只、それだけの為に侯爵の前で全力を出したのだ。

結果・・・・

弟が後継者に選ばれた後、何故かアルバニアに接触しようとすると妨害が入ってしまう顛末。

王都の侯爵邸からサイラスの反逆で一報が入った時、父を引き摺るように向かったのだ。
『私、侯爵になります』アルバニアの決意を聞いた時、良いんじゃないかと思った。

サイラスを、事故に会う予定の馬車に乗せる時、怒りよりも、歓喜を押さえるのに気を使った自分を誉めてやりたい。

押さえが効かない感情で、肩を震えさせてしまった。

青年は、ヴァジールの紫銀の瞳を見詰める。

捕らわれたのは、どちらなのだろうと思考する。




 ループ時にアルバニアが亡くなった後、人々はヴァジールを紫銀の魔王と呼び青年は、死を告げる使徒と呼ばれた。

そんな恥ずかしい呼び方をされた事を、彼等は知らない。



 『朝靄の中、少女は庭の隅に咲く可憐な白い花を摘む』
可憐な白い花には、二色のリボンが結ばれる。
一色は、紫。
もう一色は・・・・
リボンを掛けられた可憐な花を小さな箱にしまう時、少女は願う。

『堕ちたる御子が光の中に在ること』



 

 「おはよう、アルバニア今日は早いね」
ヴァジールは爽やかな朝に相応しい笑顔を、アルバニアに向ける。

メイド達が悶えた事にアルバニアは気付かない。

「お兄様、おはようございます。私は何時も寝坊ばかりしていません」

侯爵邸の食堂に穏やか空気が流れる。


食後の紅茶はアルバニアが拐ってきたメイドの仕事になっている。

メイドが、アルバニアに紅茶を差し出す。
「有り難う」
アルバニアの笑顔に、使用人達が悶える。



 当時、屋敷の誰もが驚いた。

数日間アルバニアは行方不明になっていて、皆、混乱していたのだから。

帰って来たアルバニアの馬の後ろに乗る少女に皆、困惑した。

だが、アルバニアが無事に帰って来た喜びと、執着する者が無かった少女が望んだのだからと受け入れた。

通常の、貴族家では受け入れられない事だが、テアルスティア家の使用人達は、ほぼ領地の出身が幸いしたのだ。

当主が気に入った女を拐って、何が悪い。

一昔は、良くあった事。

戦国の時代だが。

彼等は所詮田舎者である。

マリアが受け入れられた瞬間だ。

「マリア今日は、お使いをお願い。サイラス、お兄様の好きだった砂糖漬けの果物を幾つか用意して。それに綿の服も必要ね。同行してくれた人達の分もね」

「アルバニア、サイラスを甘やかすのは良くない」

「解ってます。馬車、一台分だけ送らせて下さい」
アルバニアはヴァジールに笑顔で、返す。
「マリア、お使いが終わったら教会に行きなさい。お母様の御墓参りに行くと良いわ」

「当主様、有り難うございます」


マリアは、誰にも内緒でアルバニアから小箱と布施の金子を受け取り使いに出る。

マリアの実母が眠る、光の御子教団の教会に。














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