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女侯爵になります。

3 サイラスside、『貴女は優秀で素晴らしい人、周りの人達が理解していないだけ』

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 彼は、馬車に乗りながら己の愚かさに途方に暮れる。

謁見の間の、出来事を思い出すだけで胸が痛む。
第二王子が成人した事を、王に報告する謁見。
王子の成人と婚約者の発表の場。

謁見の間には王族、高位の貴族を筆頭に貴族で溢れていた。

うっ・・・・想像しただけで、吐き気を覚える。

自分は、妹を・・・・うっ。

晒し者にする予定だったのだ。

惨めに・・・・残酷に・・・・お前なぞ、男爵令嬢以下の存在だと、知らしめる為に。

婚約者候補。

ただ一人の婚約者候補とは、実際上は内定者の意味を持つ。

幼い頃に始まった王子妃教育の重圧と束縛の日々。

妹が、どれだけの努力をしていたのか自分は知っていたはず。




 オーロラ・フォン・マシュー男爵令嬢。彼女と出会ったのは学園に通っていた頃。

貴族家の男のみが通う学園。

ミルクティー色の髪、大きな緑の瞳。
小動物を思わせる人物がいた。

彼の周りは笑顔とトラブルに溢れていて、刺激的な学園生活を送っていた。

彼の秘密を知るのに時間は掛からなかった。
第二王子殿下は、彼の秘密を知る前から好意的な態度を更に加速させた。

そして、私達は彼の秘密の共犯者となった。

彼の秘密。

 それは彼が少女であった事。明るく、朗らかな少女に私達はひかれたのだ。
彼女のような少女は、周りにはいなかった。
私達は学園で青春を謳歌し、共に笑い、学び、汗を流した。
彼女は、騎士になる事を目標にしていて、明るく笑いながら語り合った。


殿下と彼女は恋に落ちた。

彼女は、夢を捨てたのだ。


殿下は、父で有る国王に彼女を正妃として迎えたいと願いでた。

国王からの返事は゛アルバニアが側室に成るなら。゛


殿下はただ一人の妃としてオーロラを娶りたかった為、激しく反発した。

そんな時に、宰相の息子が殿下に「オーロラには補佐する者が必要です」更に「品格を落としてから入宮させるのです。オーロラの為に」

高位貴族のアルバニアが、優位に立たない為に。
「女官だと思えば良いのです」

子供の浅知恵だった。
だが、その時はそれが正しいと思ってしまった。

男爵令嬢のオーロラに、アルバニアが従って居れば後宮でオーロラを馬鹿にする者は居ないと。

数日後、殿下は陛下にアルバニアに打診さえ無く、承知したと陛下に伝えてしまった。


オーロラが幸せになるには、アルバニアの不幸が必要だと思っていた。

何故、あんな事を願ったのだろう。

一連の出来事をきめている時は、自分の本当の意志が無視されている感覚だった。

果てしない霧で覆われた大地を彷徨い、オーロラの幸せな未来こそが灯台の光だと。



 頭の中の霧が晴れたのは「私を殴りなさい」アルバニアに言われた時。

アルバニアが森で落馬をして数日間意識が戻らなかった、彼女は意識が戻り私を認識したとたんに殴り掛かってきた。

彼女は知っていたのだ。
私達の稚拙で卑しい計画を。
彼女は苦しみ、わざと落馬をして自殺しようとしたのだろう。


アルバニアの意識が戻り、城からの戻った父の提案で翌日話し合う事になった。



 話し合いで父がおおよその事を知っていたのが解った。
王太子陣営も、アルバニアを望んでいる事を明らかにした。
王太子妃の実家は外国の高位貴族で国内貴族の基盤が無い上に子も孕んでいない。

私達がアルバニアの品格を落とした後、私達が望んだ様に王太子妃の補佐にし、子を産ませる。

「女官だと、思えば良いのです」宰相家の息子が言った事がよみがえる。

誰も・・・・。
アルバニアは、誰も味方がいなかったのだ。
父は、周知しアルバニアを王族に渡すつもりでいたのだから。


アルバニアは病み上がりの体と父からの告白で、カタカタと身体が震え顔には血の気がながった。


話し合いでアルバニアが、最終的に望んだ事は当主の座だった。

「誰からも、脅かされ無い立場を望みます。一族と共に生涯を過ごします。その代わり私を当主にしてください」
アルバニアの覚悟を聞いた。

驚く事に彼女は古く、忘れられた法律を熟知していたのだ。

「汚濁の水を飲めと強要され、汚濁の河に自ら飛び込む。テアルスティア一族は、そんな弱い一族なのですか」

「それだけの価値が、彼等に有るのでしょうか。意味もなく、価値もなく、汚濁の水を飲むなら私は河に身を沈め死を選びます」

私は自分を恥じた。

オーロラにそれだけの価値が有るのか。
学園の中の彼女は、輝いて見えた。
夢が有ったから。
夢を諦めたオーロラが、公の場であの輝きを放つ事は無いだろう。

青春の輝きを、永遠に望むのは愚かな事だった。



 王女との婚約、私は知らされてなかった。王女が好意的な事は知っていたが。

ある時期から、殿下とオーロラの親密具合が増した時期があった。

王女殿下が、2人の橋渡しをしていたらしい。

王女殿下は殿下に、アルバニアが2人の恋の障害。
アルバニアが殿下に嫌われるような事を、囁き続けたようだ。

アルバニアが正妃として第二王子殿下と婚姻したら、政治バランスの為、王女と私の婚約等あり得ない。

恋心故の策略。

父も、アルバニアも知っていた。
知らなかったのは、私1人だった。


『あなたは、優秀で素晴らしい人よ。周りの人が、それに気付いていないだけ』

オーロラは、そんな風に私を称えてくれた。

何度も、繰り返し、甘く囁かれた。

自分の中の不安が、甘い霧に包まれた。

霧が晴れた今なら解る。

私は少しだけ頭が良いだけで、周りが見えて無い、子供だった事が。

アルバニアは、王子妃教育をこなしながら私達の稚拙な企み。
王女殿下の、暗躍を掴んだ。

更に、企みに備えて法を熟知した。

数日後、領地から実の父と兄が王都に呼ばれ、事情を知った実父と兄に、死ぬほど殴られた。

当たり前だ。

跡目として引き上げてくれた主家の1人娘を嵌めようとしたのだから。

実父は、私の事故死を提案した。
「王女との婚姻問題も事故死なら・・・・」

馬車に乗る自分を見送る、実父の顔は歪んでいた。

申し訳ない・・・・父親にそんな決断をさせるなんて。

兄は俯いていたが肩が震えていた。

優秀な兄。

兄がどんなに努力をしていたか、知っていた。

優秀な、兄が幼い頃は誇らしかった。

養子に選ばれた理由。
 

 王子達を遥かに凌ぐ優秀さは、凡時なら仇となるかも知れない。
戦乱の世なら兄を選んだろう。

当時、実父と侯爵が話していたのを聞いてしまった。

悔しさに涙が出た。

それからの私は、領地に戻った時も兄を避けていたのに。

それなのに、兄は私の為に悲しんでくれているのだ。



主家と一族の誇りを傷つけたのだ。

無罪な訳が無い。


事故に会う予定の馬車に乗せられ、馬車が進み始めた時は恐怖に襲われた。

1人で死ぬのが怖くて、怖くて泣き叫ぶ事もできながった。

アルバニアは、落馬をして死のうとした。

こんな思いを家族にさせてしまった。

実父の、震えていた指先。

兄の震えていた肩。

兄は、私が避けていても歩み寄ろうといつもしてくれていた。

家族の愛も解らない愚か者だった。

只、涙が零れた。

馬車が、止まっている事にも気付かないほど錯乱していたのだ。


 



 












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