スターダスト・ジョーカーズ

劇団バスターズ

文字の大きさ
上 下
12 / 15

8月11日 風北町の切り札(ジョーカー)

しおりを挟む
「はあはあ…」

まずい…。

「グガアアアアアア…」

目がかすむ。右腕も力が入らないようだった。

「はあはあ…くっ…」

骨が折れているのだろう。腹の底から気持ち悪さがあふれてきている。

『絶望』。その言葉が、今はお似合いだ。
相手は人型の悪霊。ガタイのいい体格に強靭な肉体。長く太い腕に、俺の木刀はあっという間にへし折られた。
出会ってすぐ、危険を感じた。顔は暗闇で見えないが、明らかに異常な雰囲気。

(……)

最初は人間かと思った。
だが、あふれ出る普通ではない殺気に、体は危機を察知した。逃げろと。

(……なんなんだ、こいつ…)

明らかに人間ではない。殺そうとする感情というより『本能』で襲ってきているようだった。
昨日記事で見た殺人鬼は、たぶんこういう人間だろうなと、その時はなぜか冷静に分析していた。

(死ぬのか…俺…)

人間、死の直前は、走馬灯のように過去の記憶を思い出すというが、世界を包み込んでしまうような殺気に、それどころではなかった。

2メートルぐらいはあるだろうか、でかい体に、でかい鉈を持っている。ああ…俺の人生はこんなものだったのか。

(逃げれば…よかったのか…)

そう思っても遅い。奴はじわりじわり、近づいてくる。

「グウゥゥゥ…」

声ではない何か。恐怖というより、気持ち悪さ。屍臭だろうか、奴が近づくにつれ、異臭を冷静に感じ取る。
不思議と、穏やかだった。これからの待つ死に対して、なぜか『既視感』があったからだろうか。

(あぁ…)

もう奴は目の前だ。

―グガアアアアアアッ…!!!―

なんてこった…奴の奥には、犬型の悪霊も数体いる。絶望。目がかすみ始める。世界が霧がかかっていく。

もう本当に最後か。

(なにか…やり残したことはないか…)

と思っていたその時だった。

「『紅色の蔦』!!」

ーガシィィッ…!ー

奴の手に紅い色に染まった葉を持つ、つたが絡んでいた。続けざまに…。

「はああああっ…!!!」

ーガシィィィィイッ…!!!―

ードガァァァァアンッ…!!!ー

人型の悪霊が高速で吹っ飛んでいった。

「グゥゥゥッ…」

木にぶつかり、木が倒れ悪霊にのしかかる。悪霊がいた目の前には、代わりに黒髪の背が高い男子が立っていた。

「君、大丈夫か?」

横目でこちらに話しかけてくる。横顔でも分かるが、だいぶ端正な顔立ちのさわやかな青年だ。

「え…あ、はい…」

うまく答えられずにいると、見知った二つ顔があった。

「光一君!?なんで…ここに?」

藤崎通瑠だ。逆にこちらが、なぜここにいるか聞きたいぐらいだった。

「なんだ、知り合いか?とりあえず、通瑠!こいつを手当てしてやってくれ」

そう言うと、再び化け物に対峙する男子と、奥で犬型の悪霊を相手している女子…。

「深杜!」

岩隈深杜。俺のお隣さんの幼馴染だ。最近はめっきり話さなくなってしまったが、大切な親友だ。なぜ彼女がここに…。しかも、あの能力は?

「光一君、話は後でね!今は引っ込んでて!」

そう言うと、あっという間に悪霊を倒してしまう。

「はあああああっ…!!!」

ードゴォォォォォンッ…!!!ー

空振りに終わるが、先ほどの男子の拳から強烈な一撃がさく裂する。とても人間業には見えない。
俺は通瑠に引っ張られ、木の陰に隠れる。

「なあ通瑠…おまえら、いったい何なんだ…?」

見知った顔だが、今、この状況では、全く知らない人間のようだった。
俺の言葉に、通瑠は優しく微笑みながらこう言った。

「『スターダスト・ジョーカーズ』。それが私たちの名前だよ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あの人って…

RINA
ミステリー
探偵助手兼恋人の私、花宮咲良。探偵兼恋人七瀬和泉とある事件を追っていた。 しかし、事態を把握するにつれ疑問が次々と上がってくる。 花宮と七瀬によるホラー&ミステリー小説! ※ エントリー作品です。普段の小説とは系統が違うものになります。   ご注意下さい。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

尖閣~防人の末裔たち

篠塚飛樹
ミステリー
 元大手新聞社の防衛担当記者だった古川は、ある団体から同行取材の依頼を受ける。行き先は尖閣諸島沖。。。  緊迫の海で彼は何を見るのか。。。 ※この作品は、フィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。 ※無断転載を禁じます。

ミステリH

hamiru
ミステリー
ハミルは一通のLOVE LETTERを拾った アパートのドア前のジベタ "好きです" 礼を言わねば 恋の犯人探しが始まる *重複投稿 小説家になろう・カクヨム・NOVEL DAYS Instagram・TikTok・Youtube ・ブログ Ameba・note・はてな・goo・Jetapck・livedoor

聖女の如く、永遠に囚われて

white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。 彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。 ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。 良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。 実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。 ━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。 登場人物 遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。 遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。 島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。 工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。 伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。 島津守… 良子の父親。 島津佐奈…良子の母親。 島津孝之…良子の祖父。守の父親。 島津香菜…良子の祖母。守の母親。 進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。 桂恵…  整形外科医。伊藤一正の同級生だった。 秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

この目の前にあるぺちゃんこになった死体はどこからやってきた?

原口源太郎
ミステリー
しこたま酒を飲んだ帰り道、僕たちの目の前に何かが落ちてきた。それはぺちゃんこになった人間だった。僕たちは空を見上げた。この人はどこから落ちてきたんだ?

処理中です...