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8月11日 風北町の切り札(ジョーカー)
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「はあはあ…」
まずい…。
「グガアアアアアア…」
目がかすむ。右腕も力が入らないようだった。
「はあはあ…くっ…」
骨が折れているのだろう。腹の底から気持ち悪さがあふれてきている。
『絶望』。その言葉が、今はお似合いだ。
相手は人型の悪霊。ガタイのいい体格に強靭な肉体。長く太い腕に、俺の木刀はあっという間にへし折られた。
出会ってすぐ、危険を感じた。顔は暗闇で見えないが、明らかに異常な雰囲気。
(……)
最初は人間かと思った。
だが、あふれ出る普通ではない殺気に、体は危機を察知した。逃げろと。
(……なんなんだ、こいつ…)
明らかに人間ではない。殺そうとする感情というより『本能』で襲ってきているようだった。
昨日記事で見た殺人鬼は、たぶんこういう人間だろうなと、その時はなぜか冷静に分析していた。
(死ぬのか…俺…)
人間、死の直前は、走馬灯のように過去の記憶を思い出すというが、世界を包み込んでしまうような殺気に、それどころではなかった。
2メートルぐらいはあるだろうか、でかい体に、でかい鉈を持っている。ああ…俺の人生はこんなものだったのか。
(逃げれば…よかったのか…)
そう思っても遅い。奴はじわりじわり、近づいてくる。
「グウゥゥゥ…」
声ではない何か。恐怖というより、気持ち悪さ。屍臭だろうか、奴が近づくにつれ、異臭を冷静に感じ取る。
不思議と、穏やかだった。これからの待つ死に対して、なぜか『既視感』があったからだろうか。
(あぁ…)
もう奴は目の前だ。
―グガアアアアアアッ…!!!―
なんてこった…奴の奥には、犬型の悪霊も数体いる。絶望。目がかすみ始める。世界が霧がかかっていく。
もう本当に最後か。
(なにか…やり残したことはないか…)
と思っていたその時だった。
「『紅色の蔦』!!」
ーガシィィッ…!ー
奴の手に紅い色に染まった葉を持つ、つたが絡んでいた。続けざまに…。
「はああああっ…!!!」
ーガシィィィィイッ…!!!―
ードガァァァァアンッ…!!!ー
人型の悪霊が高速で吹っ飛んでいった。
「グゥゥゥッ…」
木にぶつかり、木が倒れ悪霊にのしかかる。悪霊がいた目の前には、代わりに黒髪の背が高い男子が立っていた。
「君、大丈夫か?」
横目でこちらに話しかけてくる。横顔でも分かるが、だいぶ端正な顔立ちのさわやかな青年だ。
「え…あ、はい…」
うまく答えられずにいると、見知った二つ顔があった。
「光一君!?なんで…ここに?」
藤崎通瑠だ。逆にこちらが、なぜここにいるか聞きたいぐらいだった。
「なんだ、知り合いか?とりあえず、通瑠!こいつを手当てしてやってくれ」
そう言うと、再び化け物に対峙する男子と、奥で犬型の悪霊を相手している女子…。
「深杜!」
岩隈深杜。俺のお隣さんの幼馴染だ。最近はめっきり話さなくなってしまったが、大切な親友だ。なぜ彼女がここに…。しかも、あの能力は?
「光一君、話は後でね!今は引っ込んでて!」
そう言うと、あっという間に悪霊を倒してしまう。
「はあああああっ…!!!」
ードゴォォォォォンッ…!!!ー
空振りに終わるが、先ほどの男子の拳から強烈な一撃がさく裂する。とても人間業には見えない。
俺は通瑠に引っ張られ、木の陰に隠れる。
「なあ通瑠…おまえら、いったい何なんだ…?」
見知った顔だが、今、この状況では、全く知らない人間のようだった。
俺の言葉に、通瑠は優しく微笑みながらこう言った。
「『スターダスト・ジョーカーズ』。それが私たちの名前だよ」
まずい…。
「グガアアアアアア…」
目がかすむ。右腕も力が入らないようだった。
「はあはあ…くっ…」
骨が折れているのだろう。腹の底から気持ち悪さがあふれてきている。
『絶望』。その言葉が、今はお似合いだ。
相手は人型の悪霊。ガタイのいい体格に強靭な肉体。長く太い腕に、俺の木刀はあっという間にへし折られた。
出会ってすぐ、危険を感じた。顔は暗闇で見えないが、明らかに異常な雰囲気。
(……)
最初は人間かと思った。
だが、あふれ出る普通ではない殺気に、体は危機を察知した。逃げろと。
(……なんなんだ、こいつ…)
明らかに人間ではない。殺そうとする感情というより『本能』で襲ってきているようだった。
昨日記事で見た殺人鬼は、たぶんこういう人間だろうなと、その時はなぜか冷静に分析していた。
(死ぬのか…俺…)
人間、死の直前は、走馬灯のように過去の記憶を思い出すというが、世界を包み込んでしまうような殺気に、それどころではなかった。
2メートルぐらいはあるだろうか、でかい体に、でかい鉈を持っている。ああ…俺の人生はこんなものだったのか。
(逃げれば…よかったのか…)
そう思っても遅い。奴はじわりじわり、近づいてくる。
「グウゥゥゥ…」
声ではない何か。恐怖というより、気持ち悪さ。屍臭だろうか、奴が近づくにつれ、異臭を冷静に感じ取る。
不思議と、穏やかだった。これからの待つ死に対して、なぜか『既視感』があったからだろうか。
(あぁ…)
もう奴は目の前だ。
―グガアアアアアアッ…!!!―
なんてこった…奴の奥には、犬型の悪霊も数体いる。絶望。目がかすみ始める。世界が霧がかかっていく。
もう本当に最後か。
(なにか…やり残したことはないか…)
と思っていたその時だった。
「『紅色の蔦』!!」
ーガシィィッ…!ー
奴の手に紅い色に染まった葉を持つ、つたが絡んでいた。続けざまに…。
「はああああっ…!!!」
ーガシィィィィイッ…!!!―
ードガァァァァアンッ…!!!ー
人型の悪霊が高速で吹っ飛んでいった。
「グゥゥゥッ…」
木にぶつかり、木が倒れ悪霊にのしかかる。悪霊がいた目の前には、代わりに黒髪の背が高い男子が立っていた。
「君、大丈夫か?」
横目でこちらに話しかけてくる。横顔でも分かるが、だいぶ端正な顔立ちのさわやかな青年だ。
「え…あ、はい…」
うまく答えられずにいると、見知った二つ顔があった。
「光一君!?なんで…ここに?」
藤崎通瑠だ。逆にこちらが、なぜここにいるか聞きたいぐらいだった。
「なんだ、知り合いか?とりあえず、通瑠!こいつを手当てしてやってくれ」
そう言うと、再び化け物に対峙する男子と、奥で犬型の悪霊を相手している女子…。
「深杜!」
岩隈深杜。俺のお隣さんの幼馴染だ。最近はめっきり話さなくなってしまったが、大切な親友だ。なぜ彼女がここに…。しかも、あの能力は?
「光一君、話は後でね!今は引っ込んでて!」
そう言うと、あっという間に悪霊を倒してしまう。
「はあああああっ…!!!」
ードゴォォォォォンッ…!!!ー
空振りに終わるが、先ほどの男子の拳から強烈な一撃がさく裂する。とても人間業には見えない。
俺は通瑠に引っ張られ、木の陰に隠れる。
「なあ通瑠…おまえら、いったい何なんだ…?」
見知った顔だが、今、この状況では、全く知らない人間のようだった。
俺の言葉に、通瑠は優しく微笑みながらこう言った。
「『スターダスト・ジョーカーズ』。それが私たちの名前だよ」
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