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愛別離苦

アザウア伯爵

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「えらくアキーエちゃんの事警戒してはったな。もしかしてあの人が腕の立つ護衛さんなん?」

「そうです。彼はバクスターと言いまして、おそらく冒険者であればSランクの力はあると思います。」

なるほど。

確かに無音の歩法や立ち振る舞いが強者っぽかったわね。
アレカンドロなら「模擬戦を所望いたす!」とか言いそうだったわ。

でもなんであんなに警戒した目をわたしに向けてきたのかしら?

「そやけど随分とアキーエちゃんの事警戒しとったね。まああのレベルの人から見ると、ただの可愛い子じゃなくて凶悪な訪問者やったんやろうね。」

「ちょっ!誰が凶悪よ!」

全く‥
何もしてないのに、そんなに警戒しなくてもいいと思うんだけど‥

その時バクスターが戻ってきた。

相変わらず無音で近寄ってくる。

「イェルン様。」

「うわっ!す、すまないバクスター。出来ればもう少し離れた所から声をかけてくれるか?」

「申し訳ございません。伯爵が御二方とお会いされるとの事です。どうぞこちらに。」

御二方?

「うちもええかな?」

キリーエが声をかけるとバクスターさんがビクッとする。

「も、申し訳ございません。もう1人いらっしゃるとは思いませんでした。すぐに確認いたします。」

するとバクスターさんはわたしよりも何倍も警戒した視線をキリーエに向けて戻っていった。

まあそうなるわよね。

わたしたちはだいぶ慣れたけど、イェルンさんなんかは未だにキリーエに驚いてるもんね。



三度戻ってきたバクスターさんに家に案内される。

家の中は整理整頓がされているが、とても伯爵家とは思えないような感じだった。

高級そうな調度品などはなく、必要最低限の家具などしか置いていない。

そんな貴族が住んでいるようには思えないような家の中を、バクスターさんの案内で進む。

そしてこの家の中では珍しく豪華なテーブルが置いてある部屋に通された。

そこには、この家の家主と思われる1人の男性が座っていた。

「お久しぶりです。イェルン宰相。このような家に足を運んでいただいて申し訳ありません。」

細身だが、しっかりとした筋肉がついているのが服の上からでもわかる。

精悍な顔つきは、年齢を感じさせない風貌でどことなくマルコイに似ている。

マルコイが年齢を重ねたらこんな感じになるのかなと思うけど、いかんせん頭がよろしくない。

アザウア伯爵の頭には毛が1本も残っていないのだ。

まるでどこかの傭兵団の副団長のような頭をしている‥


「いえ、こちらこそ急な訪問申し訳ない、アザウア伯爵。」

「我が国の宰相殿の訪問です。何よりも優先すべきでしょう。ところでそちらの女性はイェルン宰相の護衛ですか?随分とお若いように見えますが‥」

「いえ、この方たちは王の協力者です。今は私の護衛のような事をしていただいていますがね。」

「なるほど。王の協力者ですか。バクスターの報告ではかなりの実力を持ってそうだとの事でした。それならば納得ですね。それで、今日はどのようなご要件でしょうか?」

要件などわかっているはずなのに白々しい。
ここからはイェルンさんの仕事で、わたしたちは会話に入ることはないわね。

相変わらずすっごい目でバクスターさんがこっちを見てるけど、話の流れでは仲間になるんだからやめてほしいんだけど‥

それにしても伯爵が下手に出てるんだけど、そういえばイェルンさんって偉かったのよね。
一緒にいて、変な事しかしないからすっかり忘れてたわ。

「アザウア伯爵。単刀直入に言います。王を無事に救出しました。今から反逆者ヨエクを追放し、王に元の王座に戻っていただきます。そのために力を貸していただけないでしょうか?」

「‥‥‥‥‥そうですか‥前王が戻られましたか‥」

アザウア伯爵は考え込むように下を向いた。

「確かに前王はおそらくトールルズの歴史の中で3本の指に入る賢王でした。その前王がまた王に戻る事は望ましい事です。」

「それなら!」

「王に戻れたら‥‥ですがね。」





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