上 下
484 / 953
勇者の救出

作戦決行③

しおりを挟む
ひりつく喉の痛みで、男は目を覚ました。

身体が痛い。
神聖国のために調査に出ている事が多く外で寝る事は多々あるが、今日は特に痛い。

顔が砂に塗れている。
顔についた砂を払おうとして右腕が動かない事に気づく。

顔を無理矢理動かして腕を見ると、あるべきはずの腕がなくなっていた。

気を失う前の記憶が蘇ってくる。
恐怖が、痛みが男の眼に涙を溢れさせる。

やめておけばよかったんだ。
上からの命令とはいえ、魔道具を取って帰り、たんまりと礼金をもらうつもりだった自分の愚かさを反省する。

他に誰かいないか周りを見渡す。
男が遺跡に入った時は深夜だったが、もう日が明けようとしている。
周りには誰もいない。
生き残ったのは自分だけなのか‥?

「う、うぎぃ‥」

男はその場で涙を流した。
他のメンバーが死んだ事はどうでもいい。
自分だけ生き残ったのは運が良かった。
しかし腕がなくなっては満足に生活していけるのだろうか‥
男の眼にはまた涙が溢れ出てくる。

その時に男の目に、近くに落ちているポーションの空瓶と体力ポーション、それと魔道具らしい靴が落ちているのが目に入る。

記憶にはないが、空いているポーションを使って止血し、片手で持てる物を持って脱出したのだろう。

まだどうにかなるかもしれない。

体力ポーションで体力を回復させて、魔道具を神聖国に持ち帰るのだ。
そうすれば腕の欠損を回復する事ができるポーションをもらえるかもしれない。

そうだ。
それに金も貰わないと割りが合わない!

男は落ちている体力ポーションをがぶ飲みして、その場から動き出す。

片腕がない事でふらつき、時には転びながら荒野から抜け出そうと歩き進めた。







おし!
ようやく動き出したか。

その場で泣き出した時には優しい言葉の1つでもかけてやろうかと思ったよ。
かけないけど。

これであの人が神聖国に泣きつけば、無闇に侵入者を送り込もうとせずに、権力を使って魔道具を出せって言いに来てくれるだろ。

後は勇者が来てくれるかどうかだよなぁ‥

一応彼が持って行った魔道具には細工をしておいたけど、気づいてくれるかな?

それとなく魔道具に文字も入れたし、見る人が見ればわかるだろ。

それじゃあダンジョンの中の凶悪な罠は解除して、勇者たちをお出迎えする楽しい遊具にしておかなければ。

とりあえず3階層辺りに勇者だけがわかるような罠を設置して、他の人たちと分断して‥

むふふ‥
やはり物を作るったり考えたりする事は楽しいなぁ。

魔王や『あのお方』も難しい事考えないで、自分の好きな事すれば争いも起こらないと思うんだけどなぁ。


さて急いで仕事をするとするか。

神聖国は帝国がまたいつ攻めてくるか、気が気じゃないはずだから、すぐにでも次を送り込んでくるはず。

次が勇者である事を期待しておこう。


俺は一旦経過報告のためにセイルズに戻ることにした。



セイルズに戻り、『アウローラ』の拠点に行く。
キリーエのおかげで、魔道具どうしでした?反省会!の準備が着々と進んでいた。

まあ準備といっても食材の準備や、料理してくれる人の交渉とかそんな物だけど。

「あ!マルコイさん帰ってきたんやね。」

「ああ。多分次の動きまでは数日あると思うから、その間に反省会やっておこうか?」

「反省会?あ~、モンスター氾濫を討伐した慰労会の事ね。後はマルコイさん待ちやったから、いつでもええよ。」

「そうなのか?それはすまなかったな。それじゃあ早速今日にでもするとしようか?」

「わかった。それじゃあ、うちは料理人に声かけてくるわ。フーラさんの店とか特に忙しくしてるから早めに声かけておかないと。」

うっ。
フーラさんか‥
すっかり忘れていたが、人生の山場がもう1つ残っていたな。

「フ、フーラさんは忙しいなら無理しなくてもいいんじゃないかな?」

「何言ってるん?フーラさんは声がかかったら店を閉めてすぐに来る言うてたよ。」

やっぱり来るよね‥
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...