岬ノ村の因習

めにははを

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第95話 悪滅の歩み

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 燃える森の中を村人達が逃げ惑う。
 黒煙にせき込む彼らは懸命に安全地帯を探し求めていた。
 ただし、両手には警官の死体を持ち、その肉を食いながら行動している。
 絶体絶命という環境において、彼らの箍は普段以上に外れていた。
 本能を律する指導者が不在となれば尚更であった。

 人肉を抱えて走る村人の頭に穴が開く。
 驚いた別の者の心臓に銃弾が飛び込んで即死させた。
 さらに反応した男の眼球が撃ち抜かれた。
 炎の恐怖と人肉の味に満たされながら、村人達はばたばたと倒されていく。
 結局、彼らはまともな反撃すらできずに全滅した。

 茂みで伏せ撃ちの姿勢を取っていた佐久間は、窮屈そうに排莢と弾の装填を済ませた。
 付近に村人がいないことを確かめた後、猟銃を杖にして歩き出す。
 彼の片脚は太腿から下が無くなっていた。
 羽野との戦闘で樹木に挟まれた部位を、手持ちのポケットナイフで切断したのだ。
 断面を焼き固めることで強引に止血を行っている。

「……悪は、皆殺し……だ……」

 佐久間はふらつきながら進む。
 片脚の欠損に加え、重い疲労感が全身に圧しかかっていた。
 山火事による熱や黒煙も無視できない。
 それらを気力を封じ込めて彼は山を下っている。

 佐久間の前方に警官と村人が現れた。
 坂を転がり落ちてきた両者は武器を持たず、互いを掴んで殴り合う。
 警官の手に村人が噛み付いて指を食い千切った。
 自らの手を見た警官は泣きそうな顔で喚く。

 指を咀嚼する村人の顔面が弾けた。
 潰れた脳を露出させたその村人は無言で崩れ落ちる。
 呆然とする警官は、そばに立つ佐久間の存在に気付いた。

「あ、あなたは」

「殺す……悪は必ず殺す……」

 佐久間はまた猟銃を杖にして歩き出した。
 狼狽える警官には目もくれず、ひたすら前だけを見つめて進む。
 憎悪を伴う殺意に背中を押されて歩き続けた。

 かなりの時間をかけながらも佐久間は下山した。
 彼の降り立った場所は鬱蒼とした木々が広がっており、周囲に野次馬や警察がいなかった。
 迫る炎を一瞥した佐久間はペースを変えずに歩く。

 ほどなくして放置車両を見つけると、彼は躊躇なく乗り込んだ。
 挿しっぱなしになったキーを確認して車を発進させる。
 しばらく運転してから、片脚だけではアクセルとブレーキを踏みにくいことに気付いた。
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