岬ノ村の因習

めにははを

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第89話 転がり込む死

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 佐伯と星原はひたすら逃げる。
 その後方には村長がいた。
 ものの一分足らずで警官を全滅させたのだ。
 一連の出来事で何度も致命傷を負った村長は、既に死体同然の状態だが意識を保っている。
 それは執念によるものと説明する他なかった。
 手には血染めの仕込み杖が握られている。

 下り坂が終わった辺りで佐伯と星原は足を止める。
 彼女達の前には古い吊り橋があった。
 全長二十メートルほどで川を跨いでいる。
 橋は板が腐ってボロボロになっており、穴が開いている箇所も多い。
 川は流れが強く、落下すると命に関わりそうだった。

 佐伯は橋を見つめて考え込む。
 彼女はここから先へ進むことを躊躇していた。

(こんな橋、渡った瞬間に壊れそう……)

 村長はすぐそこまで迫っていた。
 橋を使わずに迂回する余裕はなく、今すぐに決断しなければならない状況だった。

 数秒の逡巡の末、佐伯は意を決して橋を渡り始める。
 星原もスマートフォンを構えたまま付いていく。
 二人分の重みで橋が左右に揺れ始めた。
 佐伯は頼りないロープを握り締め、震える足腰を無理やり動かす。
 一刻も早く渡り終えるのが何よりも優先だった。

 少し遅れて村長も吊り橋に辿り着く。
 村長は逃げる佐伯達を睨むと、ロープに仕込み杖を押し当てた。
 そして乱暴な手つきで切断する。

 吊り橋全体が大きく軋んで揺れた。
 佐伯は反射的に動きを止めてしゃがみ込む。

「うわっ、ちょっと!?」

 気にせず撮影していた星原がひっくり返った。
 星原はそのまま橋の外に落下し、激流の川へと消える。
 直前で放り出されたスマートフォンが橋のロープに引っかかって残っていた。
 佐伯は川を見下ろして唇を噛むも、すぐに立ち直って歩き出す。
 名前も知らない人間の死を悼んでいられるほど、彼女は安全な立場にはいなかった。
 後方では村長が残るロープも切ろうとしている。

「無駄、じゃよ……皆殺しじゃ……」

 邪悪な笑みを浮かべる村長は、仕込み杖に力を込めようとする。
 その時、彼は足元に何かが転がってきたことに気付く。
 見るとそれは手榴弾だった。
 ピンは既に抜かれており、いつ起爆してもおかしくない。
 村長は目を見開くと、手榴弾を蹴り飛ばした。

「ぬうっ」

 蹴られた直後に手榴弾が爆発する。
 高熱と破片が村長に襲いかかった。
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