岬ノ村の因習

めにははを

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第82話 悪運

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 赤いレーザーポインターが佐久間の胸を捉えている。
 羽野は勝ち誇った顔で問う。

「あんたが狙撃犯だろう?」

「…………」

 佐久間は無言で睨み返す。
 その態度が気に食わなかったのか、羽野は一変して不機嫌な表情で告げる。

「よくも豊穣の儀を台無しにしてくれたな。死んでくれ」

 羽野が発砲したのと、佐久間が回避を試みたのはほぼ同時だった。
 弾丸は狙いがずれて佐久間の左腕に命中する。
 一直線に皮膚を破り、骨を削って貫通していった。

「……っ」

 僅かに顔を強張らせつつ、佐久間は地面を転がって伏せた。
 そこから素早く猟銃の引き金を引く。
 右耳を撃たれた羽野はよろめいて声を上げた。

「うがっ」

 佐久間はさらに猟銃で撃つ。
 今度は外したが、弾は羽野の頭の真横を通過する。
 腕を負傷したと思えない射撃精度であった。

 予想以上の反撃に焦った羽野は慌てて近くの木陰に退避する。
 欠損した耳に手を当てて彼は叫ぶ。

「畜生がッ!」

 羽野は木陰から腕だけ出して拳銃を発砲する。
 佐久間はゆっくりと足音を立てずに移動し、羽野から十メートルほど離れた岩の裏に隠れた。
 負傷した腕の具合を見て、簡単な止血処理を施す。

 羽野は耳を押さえて拳銃を撃ち続ける。
 とにかく反撃を貰わないことに重きを置いた動きだった。

「ふざけやがって……! さっさと死ねよ!」

 佐久間は岩陰に潜んだままじっと観察する。
 その手は猟銃の再装填を行っていた。
 羽野から漂う悪の臭いに顔を顰め、彼は静かに好機を待つ。
 身を乗り出した羽野が岩に向かって連続で発砲した。

「他の連中もあんたの仲間か! 何の恨みで俺達の村を潰しやがるッ!」

「悪は皆殺しだ」

 質問には答えず、佐久間は猟銃を撃つ。
 弾丸は樹木に阻まれたが、羽野の側頭部を撃ち抜く位置に当たっていた。
 その事実に羽野はぞっとするも、恐怖を無視してまた撃ち返す。
 怖気づけば終わりだと本能で理解していたのだった。

 撃ち合ううちに二人は汗をかき始める。
 そして、辺りの気温が急上昇していることに気付いた。
 遠くの木々が炎に包まれていた。
 炎は刻一刻と広がり、黒煙と共に彼らに迫っている。

 その火災は平野が岬トンネルを燃やしたのが原因だった。
 放置された炎が森に引火し、夜風に乗って急速に被害を拡げているのである。
 暑さに舌打ちした羽野は腕まくりして怒鳴った。

「おい! 我慢比べでもするか!」

 佐久間は応じない。
 炎の熱や黒煙を見ても彼の意志は不動だった。
 構えられた猟銃は羽野が姿を見せる瞬間を待ち望んでいる。

 火災という変化が生じても睨み合いは続く。
 先に音を上げたのは黒煙にむせた羽野だった。
 羽野は銃を撃ちながら逃げようとする。

 刹那、佐久間の猟銃が火を噴いた。
 弾丸は羽野の背中を貫通した。
 重傷を負った羽野はつんのめって転ぶ。

 佐久間はすぐさまとどめを刺そうとする。
 しかしその前に焼けた樹木が彼を押し潰すように倒れてきた。
 反応が遅れた佐久間は片足を挟まれて動けなくなる。
 引き抜こうとしても激痛が走るだけでびくともしない。
 咄嗟に避けようとした弾みで、猟銃は手の届かない位置に落ちていた。

 撃たれた羽野が震えながら立ち上がる。
 彼は佐久間のもとまで歩いてくると、拳銃の引き金に指をかける。

「……昔から、悪運は強く、てな……そういうわけで、俺の勝ちだ……」

「本当にそうかな」

 静かな声がした。
 次の瞬間、羽野の顔面がぐちゃぐちゃに弾け飛んだ。
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