岬ノ村の因習

めにははを

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第69話 悪あがき

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 電話口から聞こえた報告に村長は目を剥く。
 彼は声を落として尋ねた。

「——どういうことじゃ。銃撃が始まってそこまで経っとらん。警察が勘付いたにしても、村に来るのは夜明けじゃろう」

「それがずっと前から中継されていたらしい。お前達がカメラの持ち主を殺した場面も映っとったそうだ。映像の他にも死体や武器の写真も投稿されとるぞ」

「ううむ……」

 村長は険しい顔で黙り込む。
 ここまで不測の事態に見舞われてきたが、生贄狩りという提案で村全体の士気を維持してきた。
 しかし、警察の介入となると話がまったく変わってくる。
 今の村を見られれば弁明は不可能であった。
 悩む村長を見た男が訊く。

「加納か」

「うむ。豊穣の儀が外部に漏れた。警察が来るそうじゃ」

「なんだと!?」

 男達は仰天し、途端に慌てふためいた。
 加納とは最寄りの交番に勤務する駐在だ。
 彼の情報となれば間違いはありえない。
 岬ノ村が最も恐れる事態が目前まで迫っていることを示していた。
 加納も焦った様子で話を続ける。

「県警はお前達を鎮圧する気だ。フィクションの可能性も疑っとるが、大人数で武装して向かうと聞いている。さすがに止められんぞ」

「言われんでも分かっておる。時間稼ぎも難しいかのう?」

「無理だ。今度は俺に疑惑が向くだろ……」

 加納の弱気な声を聞いて、村長は乱暴に受話器を置いた。
 軽蔑の感情や文句を抑え込み、一つ深呼吸をする。
 村長の目は鋭いままだった。

 その時、焦る男の一人が壁を殴る。
 男は汗だくの顔で叫ぶ。

「不味いぞ! 今から証拠隠滅を図っても間に合わん! 何と言い訳するんだッ!」

 ヒステリックに喚く男が村長に詰め寄った。
 そして胸倉を掴んで責め立てる。

「村長、あんたの責任だ! あんたが色々と徹底していれば」

「やかましい」

 村長が素早く腕を動かす。
 仕込み杖から抜き放たれた刃が男の両腕を切断した。
 驚愕する男の顔面が縦に三分割され、切れ目から血が湧き出てくる。
 男を蹴倒した村長は、刀に付いた血を振り払う。

「警察が来ようとやることは変わらん。生贄は皆殺しじゃ」

 動転していた男達が止まり、村長の言葉に耳を傾ける。
 生死を握られていると本能的に悟り、大人しく話を聞くしかなかったのだ。
 村長は表面上は穏やかに述べる。

「急いで証拠を隠すしかあるまい。警察には映画やらドラマの撮影と言い張ればいいじゃろう」

「……そんなの通じねえだろ。すぐに嘘だと分かる」

「ならば死ぬか?」

 真顔になった村長が仕込み杖を構える。
 それだけで男達は怖気づいて何も言い返せなくなった。
 刃を杖に戻した村長は淡々と命じる。

「喚く暇があるなら動け。分かったか」

 男達は転がるように家屋を出て行った。
 残された村長は寂しげに呟く。

「豊穣の儀は今年が最後かもしれぬのう……いっそ新天地に村を再建するか」

 部屋の端では"みさかえ様"が座り込んでいた。
 応急処置を施された巨躯を縮こまらせて床の一点を眺めている。

 男達が出て行った扉がノックされた。
 村長は誰かが戻ってきたのかと思ったが違った。
 自然な動作で入室したのは白衣を着た伊達だった。

「夜分遅くに失礼します」

 伊達の手にはクロスボウが握られていた。
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