69 / 100
第69話 悪あがき
しおりを挟む
電話口から聞こえた報告に村長は目を剥く。
彼は声を落として尋ねた。
「——どういうことじゃ。銃撃が始まってそこまで経っとらん。警察が勘付いたにしても、村に来るのは夜明けじゃろう」
「それがずっと前から中継されていたらしい。お前達がカメラの持ち主を殺した場面も映っとったそうだ。映像の他にも死体や武器の写真も投稿されとるぞ」
「ううむ……」
村長は険しい顔で黙り込む。
ここまで不測の事態に見舞われてきたが、生贄狩りという提案で村全体の士気を維持してきた。
しかし、警察の介入となると話がまったく変わってくる。
今の村を見られれば弁明は不可能であった。
悩む村長を見た男が訊く。
「加納か」
「うむ。豊穣の儀が外部に漏れた。警察が来るそうじゃ」
「なんだと!?」
男達は仰天し、途端に慌てふためいた。
加納とは最寄りの交番に勤務する駐在だ。
彼の情報となれば間違いはありえない。
岬ノ村が最も恐れる事態が目前まで迫っていることを示していた。
加納も焦った様子で話を続ける。
「県警はお前達を鎮圧する気だ。フィクションの可能性も疑っとるが、大人数で武装して向かうと聞いている。さすがに止められんぞ」
「言われんでも分かっておる。時間稼ぎも難しいかのう?」
「無理だ。今度は俺に疑惑が向くだろ……」
加納の弱気な声を聞いて、村長は乱暴に受話器を置いた。
軽蔑の感情や文句を抑え込み、一つ深呼吸をする。
村長の目は鋭いままだった。
その時、焦る男の一人が壁を殴る。
男は汗だくの顔で叫ぶ。
「不味いぞ! 今から証拠隠滅を図っても間に合わん! 何と言い訳するんだッ!」
ヒステリックに喚く男が村長に詰め寄った。
そして胸倉を掴んで責め立てる。
「村長、あんたの責任だ! あんたが色々と徹底していれば」
「やかましい」
村長が素早く腕を動かす。
仕込み杖から抜き放たれた刃が男の両腕を切断した。
驚愕する男の顔面が縦に三分割され、切れ目から血が湧き出てくる。
男を蹴倒した村長は、刀に付いた血を振り払う。
「警察が来ようとやることは変わらん。生贄は皆殺しじゃ」
動転していた男達が止まり、村長の言葉に耳を傾ける。
生死を握られていると本能的に悟り、大人しく話を聞くしかなかったのだ。
村長は表面上は穏やかに述べる。
「急いで証拠を隠すしかあるまい。警察には映画やらドラマの撮影と言い張ればいいじゃろう」
「……そんなの通じねえだろ。すぐに嘘だと分かる」
「ならば死ぬか?」
真顔になった村長が仕込み杖を構える。
それだけで男達は怖気づいて何も言い返せなくなった。
刃を杖に戻した村長は淡々と命じる。
「喚く暇があるなら動け。分かったか」
男達は転がるように家屋を出て行った。
残された村長は寂しげに呟く。
「豊穣の儀は今年が最後かもしれぬのう……いっそ新天地に村を再建するか」
部屋の端では"みさかえ様"が座り込んでいた。
応急処置を施された巨躯を縮こまらせて床の一点を眺めている。
男達が出て行った扉がノックされた。
村長は誰かが戻ってきたのかと思ったが違った。
自然な動作で入室したのは白衣を着た伊達だった。
「夜分遅くに失礼します」
伊達の手にはクロスボウが握られていた。
彼は声を落として尋ねた。
「——どういうことじゃ。銃撃が始まってそこまで経っとらん。警察が勘付いたにしても、村に来るのは夜明けじゃろう」
「それがずっと前から中継されていたらしい。お前達がカメラの持ち主を殺した場面も映っとったそうだ。映像の他にも死体や武器の写真も投稿されとるぞ」
「ううむ……」
村長は険しい顔で黙り込む。
ここまで不測の事態に見舞われてきたが、生贄狩りという提案で村全体の士気を維持してきた。
しかし、警察の介入となると話がまったく変わってくる。
今の村を見られれば弁明は不可能であった。
悩む村長を見た男が訊く。
「加納か」
「うむ。豊穣の儀が外部に漏れた。警察が来るそうじゃ」
「なんだと!?」
男達は仰天し、途端に慌てふためいた。
加納とは最寄りの交番に勤務する駐在だ。
彼の情報となれば間違いはありえない。
岬ノ村が最も恐れる事態が目前まで迫っていることを示していた。
加納も焦った様子で話を続ける。
「県警はお前達を鎮圧する気だ。フィクションの可能性も疑っとるが、大人数で武装して向かうと聞いている。さすがに止められんぞ」
「言われんでも分かっておる。時間稼ぎも難しいかのう?」
「無理だ。今度は俺に疑惑が向くだろ……」
加納の弱気な声を聞いて、村長は乱暴に受話器を置いた。
軽蔑の感情や文句を抑え込み、一つ深呼吸をする。
村長の目は鋭いままだった。
その時、焦る男の一人が壁を殴る。
男は汗だくの顔で叫ぶ。
「不味いぞ! 今から証拠隠滅を図っても間に合わん! 何と言い訳するんだッ!」
ヒステリックに喚く男が村長に詰め寄った。
そして胸倉を掴んで責め立てる。
「村長、あんたの責任だ! あんたが色々と徹底していれば」
「やかましい」
村長が素早く腕を動かす。
仕込み杖から抜き放たれた刃が男の両腕を切断した。
驚愕する男の顔面が縦に三分割され、切れ目から血が湧き出てくる。
男を蹴倒した村長は、刀に付いた血を振り払う。
「警察が来ようとやることは変わらん。生贄は皆殺しじゃ」
動転していた男達が止まり、村長の言葉に耳を傾ける。
生死を握られていると本能的に悟り、大人しく話を聞くしかなかったのだ。
村長は表面上は穏やかに述べる。
「急いで証拠を隠すしかあるまい。警察には映画やらドラマの撮影と言い張ればいいじゃろう」
「……そんなの通じねえだろ。すぐに嘘だと分かる」
「ならば死ぬか?」
真顔になった村長が仕込み杖を構える。
それだけで男達は怖気づいて何も言い返せなくなった。
刃を杖に戻した村長は淡々と命じる。
「喚く暇があるなら動け。分かったか」
男達は転がるように家屋を出て行った。
残された村長は寂しげに呟く。
「豊穣の儀は今年が最後かもしれぬのう……いっそ新天地に村を再建するか」
部屋の端では"みさかえ様"が座り込んでいた。
応急処置を施された巨躯を縮こまらせて床の一点を眺めている。
男達が出て行った扉がノックされた。
村長は誰かが戻ってきたのかと思ったが違った。
自然な動作で入室したのは白衣を着た伊達だった。
「夜分遅くに失礼します」
伊達の手にはクロスボウが握られていた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio

赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる