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第59話 生贄狩り
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村長が杖で生首をつつく。
生首は詰め寄った時の表情で固まっている。
己の死に気付いていないようだった。
「ワシらの心を乱すのが敵の作戦じゃ。取るに足らぬ策よ。なぜこのような手段を仕掛けてくるか分かるかのう」
村長の言葉に誰も答えない。
戸惑いと恐怖に口を噤んでいた。
そんな同胞の様子に侮蔑の感情を覚えつつ、村長は穏やかに答えを提示する。
「戦力的に正面から戦えないからじゃ。岬ノ村に怯えとるんじゃよ。勝てないと判断して卑怯な手を使ってきよる」
「な、なるほど」
「だよな! 俺達は最強だ!」
「狙撃なんて怖くねえ!」
「岬ノ村の底力を見せてやろう!」
村人達は途端に強気になる。
彼らにとって村長の推測は信じ込みたい内容であった。
信憑性などに興味はなく、心の内の不安や焦燥感を拭えるならなんでもよかったのだ。
そのままボルテージが上がりかけたところで、村長が「静粛に」と告げて説明を続ける。
「予期せぬ問題が発生しておるが、じきに解決するじゃろう。ならば楽しもうではないか。我らが豊穣の儀に絡めてな」
村人達は困惑する。
話の流れが読めなかったのだ。
彼らの心境を感じ取りつつ、村長は堂々と言い放った。
「発想の転換じゃ。これより豊穣の儀の工程に生贄狩りを追加する。成果を出した者には新鮮な若い女をやろう。食ってもよし、犯してもよし。好きに扱うとええ」
村長の提案を聞いた村人達は狂喜乱舞した。
狙撃の恐怖から一転、喜びの声を上げて大いに盛り上がる。
さっそく生贄狩りの捜索チームを組む者もいた。
我先にと武器を取りに走る者もいる。
村人達の士気が十分すぎるほどに高まったのを見て、村長は笑顔でその場を立ち去る。
「話は以上じゃ。羽野達に先を越されんようにな」
去り際、村長は側近の一人を呼び止める。
彼は周りに聞こえないように指示を出した。
「伊達を探せ。裏で糸を引いているかもしれん」
村長は悠々と歩く。
表情は穏やかであったが、内面では危機感を覚えていた。
他の村人のような恐怖や焦りではない。
状況と情報に基づく苛立ちだった。
(ひとまず誤魔化せたが芳しくない局面じゃ。対処はすべて後手に回り、ここからどうなるかも予想できとらん)
村長は指の爪を噛む。
力を込めすぎて先端が割れていた。
仕込み刀を持つ手が小刻みに震えている。
(生贄の逃亡にみさかえ様の負傷、狙撃犯と岬トンネルの炎上……敵の規模が分からんのが厄介すぎる。決して油断できんな)
近くの家屋から甲高い声が発せられた。
村長は足を止めて室内を窺う。
そこでは椅子に座った"みさかえ様"が治療を受けていた。
数人の村人が針と糸で傷を縫合している。
全身を覆っていた"みさかえ様"の鱗がめくれ上がり、現在は人間の皮膚を晒している。
筋骨隆々の肉体には無数の痣や切り傷、刺し傷が刻まれていた。
顔面には影が差して見えないが、潰れた片目から流れる血が床に垂れている。
村長は"みさかえ様"に歩み寄ると、杖で頬を叩いた。
「ヤクザごときにやられおって。情けない」
手を止めた村人達が気まずそうにする。
叩かれた"みさかえ様"は無反応だった。
ただ床を見つめて血の涙を流している。
鼻を鳴らした村長は家屋を出る。
その目には底無しの憎悪が宿っていた。
「——岬ノ村はワシの楽園じゃ。誰にも邪魔させんぞ」
生首は詰め寄った時の表情で固まっている。
己の死に気付いていないようだった。
「ワシらの心を乱すのが敵の作戦じゃ。取るに足らぬ策よ。なぜこのような手段を仕掛けてくるか分かるかのう」
村長の言葉に誰も答えない。
戸惑いと恐怖に口を噤んでいた。
そんな同胞の様子に侮蔑の感情を覚えつつ、村長は穏やかに答えを提示する。
「戦力的に正面から戦えないからじゃ。岬ノ村に怯えとるんじゃよ。勝てないと判断して卑怯な手を使ってきよる」
「な、なるほど」
「だよな! 俺達は最強だ!」
「狙撃なんて怖くねえ!」
「岬ノ村の底力を見せてやろう!」
村人達は途端に強気になる。
彼らにとって村長の推測は信じ込みたい内容であった。
信憑性などに興味はなく、心の内の不安や焦燥感を拭えるならなんでもよかったのだ。
そのままボルテージが上がりかけたところで、村長が「静粛に」と告げて説明を続ける。
「予期せぬ問題が発生しておるが、じきに解決するじゃろう。ならば楽しもうではないか。我らが豊穣の儀に絡めてな」
村人達は困惑する。
話の流れが読めなかったのだ。
彼らの心境を感じ取りつつ、村長は堂々と言い放った。
「発想の転換じゃ。これより豊穣の儀の工程に生贄狩りを追加する。成果を出した者には新鮮な若い女をやろう。食ってもよし、犯してもよし。好きに扱うとええ」
村長の提案を聞いた村人達は狂喜乱舞した。
狙撃の恐怖から一転、喜びの声を上げて大いに盛り上がる。
さっそく生贄狩りの捜索チームを組む者もいた。
我先にと武器を取りに走る者もいる。
村人達の士気が十分すぎるほどに高まったのを見て、村長は笑顔でその場を立ち去る。
「話は以上じゃ。羽野達に先を越されんようにな」
去り際、村長は側近の一人を呼び止める。
彼は周りに聞こえないように指示を出した。
「伊達を探せ。裏で糸を引いているかもしれん」
村長は悠々と歩く。
表情は穏やかであったが、内面では危機感を覚えていた。
他の村人のような恐怖や焦りではない。
状況と情報に基づく苛立ちだった。
(ひとまず誤魔化せたが芳しくない局面じゃ。対処はすべて後手に回り、ここからどうなるかも予想できとらん)
村長は指の爪を噛む。
力を込めすぎて先端が割れていた。
仕込み刀を持つ手が小刻みに震えている。
(生贄の逃亡にみさかえ様の負傷、狙撃犯と岬トンネルの炎上……敵の規模が分からんのが厄介すぎる。決して油断できんな)
近くの家屋から甲高い声が発せられた。
村長は足を止めて室内を窺う。
そこでは椅子に座った"みさかえ様"が治療を受けていた。
数人の村人が針と糸で傷を縫合している。
全身を覆っていた"みさかえ様"の鱗がめくれ上がり、現在は人間の皮膚を晒している。
筋骨隆々の肉体には無数の痣や切り傷、刺し傷が刻まれていた。
顔面には影が差して見えないが、潰れた片目から流れる血が床に垂れている。
村長は"みさかえ様"に歩み寄ると、杖で頬を叩いた。
「ヤクザごときにやられおって。情けない」
手を止めた村人達が気まずそうにする。
叩かれた"みさかえ様"は無反応だった。
ただ床を見つめて血の涙を流している。
鼻を鳴らした村長は家屋を出る。
その目には底無しの憎悪が宿っていた。
「——岬ノ村はワシの楽園じゃ。誰にも邪魔させんぞ」
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