岬ノ村の因習

めにははを

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第52話 途切れた道

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 松田は山中を必死に走っていた。
 夜闇で視界不良の中、持ち前の反射神経と運動能力で樹木や茂みを切り抜けていく。
 後方で奇声が響き渡ると、松田は舌打ちした。

「畜生、しつこすぎるんだよ……!」

 極彩色の鱗に覆われた巨体が追ってくる。
 獣じみた挙動で樹木にぶつかりながらも、豪快に突進を繰り返していた。
 即座に捕まるほどではないものの、油断すれば一瞬で詰められる距離だった。

 松田は加速して茂みを飛び越える。
 着地の際、彼は肩の痛みに呻く。
 肩には噛まれた痕があり、肉がごっそりと抉れていた。
 溢れた血がシャツを真っ赤に染めている。

 松田の全身には他にも打撲や細かい切り傷があった。
 斜面を転がり落ちた際の負傷だ。
 痛みや痺れが残っているものの、立ち止まって治療する暇はなかった。

「死にやがれェッ!」

 松田が振り返ってリボルバーを発砲する。
 弾丸は樹木を削っただけで、迫る脅威には命中しなかった。
 そこから連続で撃つも結果は同じで、すぐにリボルバーは弾切れとなる。
 ベルトに差した自動拳銃の弾の既に使い切っていた。

(くそ、冷静になれ! こんなやり方じゃ駄目だろ! もっと良い方法があるはずだ、考えろ……!)

 松田は自分の頬を叩いて喝を入れる。
 しかし彼の気合とは裏腹に思考は鈍る一方だった。
 彼はここまで一時間以上も逃げ続けており、酸欠状態に陥っていた。
 体力の限界は近く、身体を動かすだけで精一杯なのである。
 もっとも万全だったとしても、頭を働かせるのが苦手な松田はどのみち逃走を選んでいただろう。

 そこから根性でさらに距離を稼いだ松田であったが、道が途切れたことで急停止する。
 数歩先は崖となっていた。
 眼下には森が広がり、どれほどの高さか分からない。
 少なくとも落下すれば無事で済まないのは確かだった。

 追い詰められた松田は後ろを見る。
 極彩色の距離がのっそりと佇んでいた。
 微かな呼吸音を鳴らしながら、じっと松田を観察している。

 銃を捨てた松田は、懐から短刀を取り出した。
 それは常に携帯している自前の武器だった。
 続けて彼は小型のナイフを抜き放つ。
 ナイフは安藤から渡されていた武器で、内蔵された"機能"の説明も受けている。

「……ったく、最初からこうすればよかったぜ」

 ぼやいた松田の目つきが鋭くなる。
 次の瞬間、彼は雄叫びを上げて極彩色の巨体に襲いかかった。
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