岬ノ村の因習

めにははを

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第50話 狙撃手

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 夜の獣道を歩く老人がいた。
 拉致されたリクとナオを救った男――佐久間である。
 佐久間は顰め面で猟銃を持ち、黙々と山を登っていた。

 彼は人目を避けたルートを選んで進む。
 車は麓に着いたところで乗り捨ててあった。
 移動は楽だがエンジン音で居場所を知られやすいためだ。
 佐久間にとっては、徒歩の疲労と手間より隠密行動できないリスクが問題だった。
 ちなみに使っていたのは盗難車なので惜しくはない。

 歩き続けていた佐久間が不意に足を止めて屈み込む。
 眉間の皺を深め、瞳は憎悪の炎を燃やしていた。
 彼の視線と意識は五十メートルほど先に向けられている。

 そこには五人の村人がいた。
 彼らは懐中電灯で周囲を照らし、逃げた生贄の捜索を行っている。
 ただし、あまり連携が取れておらず、佐久間の存在にも気付いていない。
 五人は捜索に回されたことに不満を抱き、それについて愚痴を洩らしていた。

 佐久間は膝立ちになって猟銃を構え、装着したスコープを覗き込む。
 拡大された視界の中で、照準が吸い寄せられるように村人の頭部を捉えた。
 佐久間は意識的に呼吸のペースを遅める。
 手ブレはほとんど無く、存在感を消して狙撃体勢を保っていた。
 彼は引き金に指をかける。

「悪だ」

 弾丸が愚痴る村人の額に風穴を開けた。
 その男は白目を剥き、呆けた顔で何が起こったか理解できずに倒れる。
 乾いた地面に鮮血が染み込んでいく。

「悪は殺す」

 別の村人の片目に弾が飛び込んだ。
 弾は脳内を掻き混ぜて頭蓋ごと粉砕する。
 村人は鼻から血と脳漿を噴き出して崩れ落ちた。

「くたばれ」

 二人の犠牲に仰天し、樹木の陰に隠れようとする男がいた。
 しかし、その前に首を撃ち抜かれて失敗する。
 地面に横たわって溺れる男は、必死に息をしようとしていたが間もなく絶命した。

「くたばれ」

 焦って銃を乱射する男は、胸を撃たれて転倒した。
 仰向けに倒れた男は、己の心臓が止まる瞬間を知覚する。

「くたばれ」

 逃げ出した男は後頭部に弾丸を食らった。
 勢い余って樹木に激突して倒れ、そのまま起き上がることはなかった。

 佐久間が発見した捜索隊は全滅した。
 五発の弾丸で五つの命を奪う、無駄のない完璧な狙撃だった。
 それでも佐久間の顔は微塵も晴れず、どろどろとした怒りと憎悪に支配されていた。
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