岬ノ村の因習

めにははを

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第49話 #ミサキノムラ

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 村人の死体を漁るリクは、破損した拳銃を拾い上げた。
 銃身とグリップが割れて部品が飛び出しており、とても使えそうにない。
 知識のない二人には修理も不可能だろう。
 拳銃の残骸を顔の前に持ってきたリクは、それをじっと見つめる。
 彼の目は疑惑に満ちていた。

「……なんかおかしいよなー」

「どうしたの?」

「こんな簡単に銃が手に入るのは不自然だ」

 リクは銃の残骸を放り投げた。
 地面に転がっていた弾丸をつまんで彼は言う。

「日本って銃を持つのに免許とかいるんだろ。もし免許があってもマシンガンは完全にアウトだ」

「聞いたことある! じゅーとーほー違反だよね!」

「おう、つまりこいつらはヤバい手段で銃を集めてるってことだな」

 リクは自信満々に断言した。
 ナオが首を傾げて問う。

「ヤバい手段ってたとえば?」

「そりゃ密輸とかヤクザから仕入れるとか……いや、拉致ったヤクザから銃を盗んだ可能性もあるか。とにかくそういう感じのやり方だよ」

「悪い人だねえー」

「本当にな。俺達を見習ってほしいもんだ」

 そうぼやくリクはマシンピストルを握る。
 彼は死体の持っていた予備弾倉を装填して呟く。

「この装備ならさっきの猟銃の爺さんにも勝てるかな」

「ちょっと厳しいかも……すごく強そうだったし」

「だよなー」

 リクは残念そうに眉を曲げた。
 それを見たナオが尋ねる。

「りっ君はあのお爺さんに勝ちたいの?」

「脅されてビビったのが悔しくてなぁ。やり返さねえとスッキリしねえだろ」

「確かに! じゃあ見つけて殺さないとね!」

「ああ、今度は絶対にビビらねえぞ。しかも秘策を思い付いた!」

 リクは勢いよく立ち上がる。
 彼は死体を踏み付けると、ぎらついた顔で力説した。

「どいつもこいつも当たり前みたいに銃を持ってるんだ。たぶんミサキノムラにはもっとすごい武器がある! そいつを奪い取れば爺さんにリベンジできるぞッ!」

「もっとすごい武器ー!?」

「ミサイルとか戦車とかレーザー砲とか……もしかしたら核爆弾かもな!」

「すごーい!」

 ナオは満面の笑みで拍手をする。
 彼女はリクの発言を本気で信じていた。
 より正確に言うなら真偽などに興味はなく、ただ楽しそうなリクと一緒にいられるだけで良かった。
 ナオは周囲の死体を見て提案する。

「ねえ、りっ君。わたし達も配信してみる? こんなに死体があったら絶対にバズるよ!」

「面白そうだけどパクるのもなぁ……二番煎じってやつだろ」

「にばんせ……? よく分かんないけどだめなんだねー」

「配信は俺達から映りに行けばいいし、どうせなら違う形で盛り上げたいよな。何か良い方法があればいいが」

 リクは村人の遺品を漁りながら悩む。
 その時、ナオが「あっ」と何かを閃いてスマートフォンを取り出した。
 彼女はスマートフォンのカメラ機能で死体を撮り始める。

 不思議に思ったリクは画面を覗き込む。
 ナオはSNSのアプリを起動していた。

「何してんだ?」

「写真とショート動画を投稿してるの! わたしフォロワー多いからすぐに拡散されるよ!」

「おお、いいな! 配信を見ない層を狙うわけか!」

「うん! 友達にもシェアした方がいいかな?」

「もちろん! 俺のアカウントでも広めておくぞ! こうなりゃ拡散対決だ! 配信に負けないように頑張るぞ!」

「おーっ!」

 リクとナオはさっそく撮影会を開始した。
 まず村人達の死体でインターネット上の注目を集め、そこから次々と過激な写真や動画を投稿していく。

 スーツケースから取り出した金をばら撒き、白い粉を吸引する姿を自撮りする。
 マシンピストルを発砲する姿を撮影する。
 斧や剣鉈で死体を損壊させてその血を浴びてみせる。
 死体同士の脳を入れ替える。
 考え得る残虐な行為を彼らは片っ端から再現していった。

 二人はすべての投稿に「#ミサキノムラ」と記載する。
 投稿された写真と動画は瞬く間に拡散した。
 急激に増える「いいね数」と「フォロワー数」に二人は大喜びする。
 投稿のコメントは全世界から行われていた。

 反応が増えるたびに彼らの行為はエスカレートし、最終的には衣服を脱いで身体を重ね始める。
 車内にあった酒で酩酊状態となり、獣のように交わる様子を動画に収めた。
 裸体に血を塗りたくり、串刺しにした死体を振り回して「ミサキノムラ最高!」と連呼する。
 もはや彼ら自身も何をやりたいのか分かっていなかった。

 一心不乱に揺れるナオの嬌声を聞きながら、リクは破滅的な笑みを湛える。

(どうせいつか死ぬんだ。後悔しない生き方を選んでやる)

 彼らの撮影会は当分終わりそうになかった。
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