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第40話 狂気の後継者
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その男はトンネル内の小部屋で縮こまっていた。
少し前、生贄の一人が脱走したのがきっかけだった。
大勢の村人が対処に向かったが、誰も戻ってくることはなかった。
遠くから聞こえる悲鳴や怒声、断末魔はチェーンソーの音に掻き消され、やがてトンネル内に静寂が訪れた。
(一体どうなってるんだ! 生贄はちゃんと始末できたのか!?)
男は部屋を出て確認したかった。
しかし、チェーンソーの餌食になる未来を想像すると動けない。
命を狙われる側に立っているという状況が腹立たしかったが、燻ぶる恐怖が足腰の力を奪ってくる。
そんな自分に嫌悪感も募った。
しばらく逡巡していた男だったが、このまま待ち続けるのが辛くなってくる。
とうとう彼は慎重に声を発した。
「お、おーい。誰かいるかぁー」
男はじっと耳を澄ませる。
数秒後、野太い声が返ってきた。
「大丈夫かー。生贄は倒したぞー」
「本当か!? もう安全なんだな!」
「心配するなー。こっちに来て手伝ってくれー」
呼ばれた男は安堵し、扉を開けて部屋を出る。
次の瞬間、彼はぎょっとして立ち止まる。
部屋の外に青年が佇んでいた。
ピエロメイクに彩られたその表情は、壮絶な笑顔を湛えている。
泣いているようにも、怒っているようにも見えた。
手には血の付いたナイフと金属バットを握っている。
青年は平野だった。
男は騙されたことを悟った。
それと同時に平野が襲いかかってくる。
「にひっ」
男の肩にナイフが突き立てられた。
突如の激痛に男は喚く。
「あぎゃぁっ」
平野が男の腹を蹴り飛ばす。
倒れたところを金属バットで何度も殴打した。
「にひっ、死んじゃえ死んじゃえー」
軽快に攻撃する平野だったが、その動きがぴたりと止まる。
彼の背中にハサミが刺さっていた。
ハサミを持つのは初老の男で、生き残っていた別の村人だった。
振り返った平野は笑う。
背中の痛みも意に介さず、彼は嬉しそうに告げる。
「にひっ、倍返しね」
平野は相手の額に金属バットのスイングを見舞った。
鈍い衝突音が鳴り響き、初老の男は崩れ落ちる。
そこに平野の追撃が降り注いだ。
一瞬で血だらけになった初老の男は、掠れた声で命乞いをする。
「も、もう許して……」
「いいよー」
頷いた平野は、男の口内に金属バットをねじ込む。
そして「よいしょっ」と言いながら全体重をかけた。
顎が軋んで割れる音に悲鳴が混ざる。
初老の男は喉まで金属バットがめり込んで死んだ。
肩にナイフが刺さった男も頭部が潰れて息絶えている。
二人を始末した平野は、背中に刺さるハサミを引き抜いた。
彼は持ち出したはんだごてで刺し傷を焼き固める。
感覚で止血できたことを確かめて、ぐっと伸びをした。
「はー、スッキリ」
平野は元気よく笑った。
少し前、生贄の一人が脱走したのがきっかけだった。
大勢の村人が対処に向かったが、誰も戻ってくることはなかった。
遠くから聞こえる悲鳴や怒声、断末魔はチェーンソーの音に掻き消され、やがてトンネル内に静寂が訪れた。
(一体どうなってるんだ! 生贄はちゃんと始末できたのか!?)
男は部屋を出て確認したかった。
しかし、チェーンソーの餌食になる未来を想像すると動けない。
命を狙われる側に立っているという状況が腹立たしかったが、燻ぶる恐怖が足腰の力を奪ってくる。
そんな自分に嫌悪感も募った。
しばらく逡巡していた男だったが、このまま待ち続けるのが辛くなってくる。
とうとう彼は慎重に声を発した。
「お、おーい。誰かいるかぁー」
男はじっと耳を澄ませる。
数秒後、野太い声が返ってきた。
「大丈夫かー。生贄は倒したぞー」
「本当か!? もう安全なんだな!」
「心配するなー。こっちに来て手伝ってくれー」
呼ばれた男は安堵し、扉を開けて部屋を出る。
次の瞬間、彼はぎょっとして立ち止まる。
部屋の外に青年が佇んでいた。
ピエロメイクに彩られたその表情は、壮絶な笑顔を湛えている。
泣いているようにも、怒っているようにも見えた。
手には血の付いたナイフと金属バットを握っている。
青年は平野だった。
男は騙されたことを悟った。
それと同時に平野が襲いかかってくる。
「にひっ」
男の肩にナイフが突き立てられた。
突如の激痛に男は喚く。
「あぎゃぁっ」
平野が男の腹を蹴り飛ばす。
倒れたところを金属バットで何度も殴打した。
「にひっ、死んじゃえ死んじゃえー」
軽快に攻撃する平野だったが、その動きがぴたりと止まる。
彼の背中にハサミが刺さっていた。
ハサミを持つのは初老の男で、生き残っていた別の村人だった。
振り返った平野は笑う。
背中の痛みも意に介さず、彼は嬉しそうに告げる。
「にひっ、倍返しね」
平野は相手の額に金属バットのスイングを見舞った。
鈍い衝突音が鳴り響き、初老の男は崩れ落ちる。
そこに平野の追撃が降り注いだ。
一瞬で血だらけになった初老の男は、掠れた声で命乞いをする。
「も、もう許して……」
「いいよー」
頷いた平野は、男の口内に金属バットをねじ込む。
そして「よいしょっ」と言いながら全体重をかけた。
顎が軋んで割れる音に悲鳴が混ざる。
初老の男は喉まで金属バットがめり込んで死んだ。
肩にナイフが刺さった男も頭部が潰れて息絶えている。
二人を始末した平野は、背中に刺さるハサミを引き抜いた。
彼は持ち出したはんだごてで刺し傷を焼き固める。
感覚で止血できたことを確かめて、ぐっと伸びをした。
「はー、スッキリ」
平野は元気よく笑った。
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