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第35話 血潮の重ね塗り
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朦朧とする平野は、新たな痛みがやってこないことに疑問を持つ。
そうしているうちに、苦痛に押し潰された思考がだんだんと戻ってきた。
既にある傷や出血のせいで体調は最悪だが、彼の意識は周囲の状況を読み取ろうとする。
平野が前を見ると、昇降口の前で二人の男女が殺し合っていた。
堤田は鬼のような形相でマイナスドライバーを振り回していた。
動きがやや鈍いのは、血だらけの背中を庇っているためだ。
平野は気付かなかったが、堤田は怒り狂いながらも傷の深さに焦りを覚えていた。
数多の拷問の経験から、堤田は人体が死に至るラインを知っている。
その経験に照らし合わせると、今の自分がかなり危険な状態にあるのだ。
刺された傷は内臓にまで達しており、興奮によるアドレナリンの分泌がなければ倒れているだろう。
対峙する女はミヒロだ。
高笑いする彼女は、軽快なフットワークで堤田を翻弄する。
巧みにフェイントを織り交ぜたナイフ捌きは、堤田の手足に細かい切り傷を付けていた。
一撃での決着を狙わず、徐々に追い詰めていく算段のようだ。
彼女は堤田の負傷を察し、時間稼ぎを意図した戦い方を選んでいる。
その目は相手の弱みを常に探し求め、どのように付け入るか思案していた。
傍観する平野はミヒロに注目する。
彼の目にはセーラー服を着ているように見えており、顔はピエロメイクのままだった。
総合的に奇抜な容姿ながらも、平野は美しいと感じた。
(どこかで会った気がする……けど思い出せない)
ミヒロが腕を伸ばして刺突を繰り出す。
堤田はマイナスドライバーを打ち当てて間一髪で弾き、反撃の前蹴りを放った。
ミヒロは猫のように飛び退いて回避する。
命懸けの攻防を展開しながらも、ミヒロは楽しそうに笑う。
「にひっ、あたしのオモチャ取らないでよー」
ミヒロは素早いステップから再びナイフで突く。
切っ先が首筋に迫っていることに気付いた堤田は、上体を大きく反らして躱した。
背中の痛みに構っていられないほどナイフは危うい軌道だった。
「このアマが……ッ」
激昂する堤田が掲げたのは金属バットだった。
それを大上段から一気に振り下ろす。
ミヒロは横に退いて回避を試みるも、足を滑らせて体勢を崩した。
その辺りは堤田の流した血で地面が汚れていた。
「はにゃっ」
金属バットがミヒロの脳天に直撃した。
そうしているうちに、苦痛に押し潰された思考がだんだんと戻ってきた。
既にある傷や出血のせいで体調は最悪だが、彼の意識は周囲の状況を読み取ろうとする。
平野が前を見ると、昇降口の前で二人の男女が殺し合っていた。
堤田は鬼のような形相でマイナスドライバーを振り回していた。
動きがやや鈍いのは、血だらけの背中を庇っているためだ。
平野は気付かなかったが、堤田は怒り狂いながらも傷の深さに焦りを覚えていた。
数多の拷問の経験から、堤田は人体が死に至るラインを知っている。
その経験に照らし合わせると、今の自分がかなり危険な状態にあるのだ。
刺された傷は内臓にまで達しており、興奮によるアドレナリンの分泌がなければ倒れているだろう。
対峙する女はミヒロだ。
高笑いする彼女は、軽快なフットワークで堤田を翻弄する。
巧みにフェイントを織り交ぜたナイフ捌きは、堤田の手足に細かい切り傷を付けていた。
一撃での決着を狙わず、徐々に追い詰めていく算段のようだ。
彼女は堤田の負傷を察し、時間稼ぎを意図した戦い方を選んでいる。
その目は相手の弱みを常に探し求め、どのように付け入るか思案していた。
傍観する平野はミヒロに注目する。
彼の目にはセーラー服を着ているように見えており、顔はピエロメイクのままだった。
総合的に奇抜な容姿ながらも、平野は美しいと感じた。
(どこかで会った気がする……けど思い出せない)
ミヒロが腕を伸ばして刺突を繰り出す。
堤田はマイナスドライバーを打ち当てて間一髪で弾き、反撃の前蹴りを放った。
ミヒロは猫のように飛び退いて回避する。
命懸けの攻防を展開しながらも、ミヒロは楽しそうに笑う。
「にひっ、あたしのオモチャ取らないでよー」
ミヒロは素早いステップから再びナイフで突く。
切っ先が首筋に迫っていることに気付いた堤田は、上体を大きく反らして躱した。
背中の痛みに構っていられないほどナイフは危うい軌道だった。
「このアマが……ッ」
激昂する堤田が掲げたのは金属バットだった。
それを大上段から一気に振り下ろす。
ミヒロは横に退いて回避を試みるも、足を滑らせて体勢を崩した。
その辺りは堤田の流した血で地面が汚れていた。
「はにゃっ」
金属バットがミヒロの脳天に直撃した。
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