岬ノ村の因習

めにははを

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第29話 闇夜の襲撃者

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 呆然とする村人は撃たれた身体を見下ろす。
 瞬く間に広がる赤い染みに目を見開くと、口から血をこぼした。

「えっ……?」

「用済みだからね。殺すに決まっているじゃないか」

「だ、だま……し、た……な……」

 村人が安藤の服を掴むも、あっけなく振り払われた。
 安藤はどこまでも冷たい目をして告げる。

「騙される方が悪いよ」

 村人は何も言い返せずに息絶えた。
 それを確かめた安藤はさっさと歩き出す。
 彼は効率だけを重視して行動を選択している。
 したがって残酷なやり方に対する罪悪感は微塵もなかった。

 一部始終を見届けた松田は、険しい顔で後を追う。

「どこに行くつもりだ」

「村だよ。拉致された人達を救わないといけない」

「警察ならまず応援を呼べよ。緊急事態だろ」

「もう連絡したさ。だけど悠長に待っている余裕はない。犠牲者を減らすためにもすぐに行動する」

 安藤は淀みなく即答する。
 その際に目線が僅かに逸れたが、松田のいる角度からでは見えなかった。
 斜面を登り始めた安藤は作戦を伝える。

「必要な情報は手に入った。やっぱり正面から戦うのは厳しいから、罠と奇襲で村の戦力を削ぐ。向こうを振り回す展開に持ち込んで、夜明けまでに壊滅させるのがベストだね」

「俺の役割は何だ」

「協力してくれるんだね。別にそんな義理はないと思うけど」

 安藤がそう言った直後、松田は近くの木を殴る。
 打ち付けた拳から血が滴り落ちる。
 鬼と見紛うような顔になった松田は、込み上げる怒りを吐き出した。

「うるせえよ。とにかくムカつくんだ。どいつもこいつも好き放題にやりやがって」

 松田は何度も木を殴る。
 そのたびに怯えや恐怖といった感情が怒りに塗り潰されていく。
 ひとしきり殴ったところで、松田はようやく手を止めた。
 松田は獰猛な笑みを見せて言う。

「そもそも俺は手ぶらで帰れば殺されるんでな。相手が人食い村なら罪悪感もなくぶっ潰せるぜ」

「頼もしいね。じゃあ囮を任せようかな。追い詰められたら手榴弾で自爆してほしいんだ」

「……てめえから先に殺すぞ」

「冗談だよ。空気を和ませたかっただけさ」

「大失敗してんぞ。出直してこい」

 軽口を叩き合う中、松田は以前の会話を思い出す。
 そして気になったことを安藤に尋ねた。

「そういえばお前、犯人を捜してるんだろ。そっちはどうする」

 安藤が答えようとした瞬間、すぐそばの茂みが揺れる。
 奇声を上げて飛び出したのは極彩色の鱗に覆われた巨体だった。
 極彩色の巨体は松田に組み付いて密着する。
 松田は肩に激痛を覚えて顔を歪めた。
 彼は噛み付かれたのだと瞬時に理解した。

「ぐぁっ!?」

 よろめいた松田は巨体の重みを支え切れず、密着したまま斜面を転がり落ちていった。
 そして森の暗闇へと消える。
 甲高い奇声は瞬く間に遠ざかっていく。
 取り残された安藤は、じっと闇を注視する。
 どちらも戻ってくる気配はなく、辺りは再び静寂に包まれた。

「あれが例の……」

 呟いた安藤は斜面を上がっていく。
 それ以降、振り返ることは二度となかった。
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